喫茶店はいろいろな楽しみ方がある。コーヒーや紅茶、スイーツを楽しむのはもちろん、一緒に行った人との会話も楽しみのひとつだろう。仕事や家では話すことのできない内容を、気兼ねなく話せるのも魅力のひとつである。
東京都内には「会話」を控える、あるいが禁止するお店がある。高円寺の「アール座読書館」も読書喫茶室であるために、他のお店のように自由におしゃべりすることができない。
だが、そういうお店だから得られる体験、静寂の場所にであるからこそ得られる気づきがある。久しぶりに訪ねた私(佐藤)は、お店にふさわしいようにノートで記事を執筆してみた。
・静寂の中で
※以下はノートに記した内容を、あとで補足してまとめたものである。
日常生活において電子機器は欠くことのできない存在だ。もはやこれらなくして暮らすことはほぼ不可能だろう。私(佐藤)自身パソコンもスマホも手放すことはできない。今年に入って生成AIを積極的に活用している故に、ある程度依存していると言って差し支えないだろう。
「なくてはならない」とは言え、時折うっとうしくも感じる。それならあえて意図的に離れてみてはどうだろうか? そう思い立ち高円寺の「アール座読書館」へやって来た。
ここは、その名が示すように読書を楽しむ喫茶店。故に私語は控え目、「長い会話はご遠慮下さい」としている。
過去に何度か利用したことがあり、店の勝手を知っていた。ここには一般的な喫茶店のような喧噪(けんそう)はない。BGM(の音量)も最弱。絶えず聞こえているのは店内中央に置かれた水槽のポンプが水をめぐらせる音と、無機質に左右に首を振る扇風機のノイズだけだ。
窓の外から時々車のクラクションが聞こえる。高円寺の商店街はすぐそこなのに、街中でこれほど深い静寂に浸れるとは。
こうして静けさに身を置いて、はじめて気付くことがある。それは「空間」(について)だ。店の広さが肌感覚でわかる。つい立てまでの距離や他のお客さんとの間。私とそれらを隔てる雑音がないから、適正な距離感を認識できるのだろう。
私は普段、イヤホンをつけ、絶えず音楽をきいている。そうすることで自分の世界に入り込んでいる訳だが、こうして耳を開放して、ノイズを断つことで何か感覚がリセットされる心地よさを覚える。
ノートの上をペンを走らせて、本稿をつづっているのにも理由がある。この店にスマホは似つかわしくないと思ったからだ。
それから、思考スピードを緩めたかったから。文章をつづるならスマホの方が断然速い。しかし速く書き終えたら(終えたからといって)何になる。せっかく思考を深められる場所にいるのだから、その空間に身を委ねて、湧き上がる言葉を観察したかった。
試みた結果、真っ白な頭のキャンバスに少しずつ線と点、それから様々な図形が浮かび上がり、それらが少しずつ色彩を帯びて行くのが見える。でき上がったのは、このお店の窓際に座った私からの景色だった。ノイズから離れて耳を研ぎ澄ましたら、世界が明瞭に見えた。その発見が面白かった。
ポット出しのコーヒーの2杯目をすする。ふと窓の外を見るといつのまにか灰色で雲が立ちこめる。こりゃ、ひと雨くるぞ。そんな匂いと気配がする。そろそろ行くか、また頭をリセットしたくなったらここに来るとしよう。
・今回訪問した店舗の情報
店名 アール座読書館
住所 東京都杉並区高円寺南3丁目57-6
時間 12:00~22:00
定休日 月曜日
参考リンク:X @rzadokushokan
執筆:佐藤英典
Photo:Rocketnews24
