
ふと思った。ソルジャーフィールドに行ってみよう。32年の歳月を経て。アメリカにおけるスポーツエンタメの進化【W杯戦記】
ワールドカップ取材のため、アメリカに来ているが、その第一歩を踏み入れたのはアメリカ第3の都市、シカゴ。シカゴ経由でダラスへと飛ぶ旅程になっていたからである。
言うまでもないが、シカゴは今大会の開催都市にはなっていない。
だからだろうか、空港に降り立っても、大会スポンサーの企業広告こそ見かけるものの、ワールドカップムード一色、などという雰囲気には程遠く、何も知らずにやってくれば、この国でワールドカップが開催されているとは、気づかないかもしれない。
では、街中はどんな様子なのか。ダラス便への乗継時間に余裕があったため、シカゴの中心部へと出てみることにした。
すると、あちらこちらでメキシコサポーターを発見できた。どこかのスポーツバーにでも集まって、数時間後に行なわれる開幕戦、メキシコ対南アフリカを観戦しよう、という人たちだろう。
シカゴは、アメリカのなかでもメキシコ系移民が多い都市であり、そこでの盛り上がりは相当なものだったに違いない。
開幕戦はシカゴの時間で14時開始だったが、遅めの昼食をとるため訪れたレストランでも、店内の大画面テレビで試合が映し出されており、多くのお客さんが画面に見入っていた。
試合はメキシコがリード。勝利は目前。そんな開幕戦を他のお客さんたちと一緒に見ながら、ふとあることを思い立ち、試合終了を待たずにレストランを出ることにした。
せっかくワールドカップが開幕した日にシカゴにいるのだから、ソルジャーフィールドに行ってみよう、と考えたのである。
サッカー不毛の地と言われたアメリカで、初めてワールドカップが開かれたのは、1994年のこと。シカゴは当時、開催都市のひとつであったばかりでなく、オープニングセレモニーを含む開幕戦を行なう栄誉も授かった。
1994年6月17日、その記念すべき瞬間を彩ったのが、ソルジャーフィールドだったのである。
このスタジアムは、2000年代に入って大規模な改修が行なわれたため、当時の姿からは大きく様変わり。主に内部はかなり近代的な印象のスタジアムとなったが、外観は古き良き時代の姿を残す形で“再生”されている。
重厚な石造りで、ギリシャのパルテノン神殿を思わせるような柱が立ち並ぶ様は、実に壮観。昨今、世界中で作られている、良く言えばモダンな、悪く言えば味気ないスタジアムとは一線を画す。
とはいえ、そんな渋いスタジアムも、今大会で試合が行なわれることはないのだ。財政負担の大きさを不安視したシカゴ市が、一度は開催地に立候補したものの、それを取り下げたためである。
およそ6万人収容の歴史あるスタジアムが、ワールドカップで使われないことには寂しさもある。だが、裏を返せば、それを補えるだけのスタジアムが全米各地には数多く存在するということでもあるだろう。
実際、32年前に試合会場となった9つのスタジアムのうち、今大会でも使われるものはひとつもない。
その事実は、アメリカにおけるスポーツエンタメの進化を表わしていると言えるだろう。
今大会の舞台となるのは、そのほとんどが贅沢なまでの設備を整えた巨大空間。1994年当時、初めてワールドカップで使用されて話題となった屋内型スタジアム(デトロイトのシルバードーム)も、今大会では4つに増えた。気候変動による酷暑や突然の豪雨などを考えると、その存在も心強い。
32年の歳月を経て、再びワールドカップがアメリカに戻ってきた。そこでは、3か国共催という形ばかりでなく、様々なことが変化しているのである。
取材・文●浅田真樹(スポーツライター)
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