「核融合発電で世界はこう変わる」
高嶋哲夫・著(PHP新書/1155円)
アメリカとイランの戦争により、世界中がエネルギー危機に陥っている。そこで今、俄然注目されているのが「地上に太陽」をもたらす「核融合発電」だ。
パニック小説で名高い著者は「核融合発電」に魅せられ、大学卒業後、原子力研究所に入所。研究者の道に進みたかったが、その道を諦めて作家に転じた。本書は、そんな悔恨を込めた青春の記録でもある。
2045年、核融合が実現。そこでは電気の使用量も二酸化炭素も気にしなくていい。エネルギーコストが下がり、産業が飛躍的に発展している。なによりもよいことは、石油などの化石燃料を巡って国家間の争いがなくなったことだ。
核融合とは、どんなものなのだろうか。本書でわかりやすく解説してくれる。これは、海水から無尽蔵に採取できる重水素と三重水素を融合させる際に放出するエネルギーを利用する。これを電気に変えて利用するのだ。それを可能とするのが「プラズマ」である。
「プラズマ」とは、固体、液体、気体に続く物質の第4の状態。高温のプラズマ状態で重水素などを衝突させるのだ。これをコントロールするのが難しい。その技術の確立に各国が苦労しているのが現状である。
では「核融合発電」の開発はどこまで到達しているのか。「ITER」は国際的な協力で開発されている核融合装置だ。日本は超電導磁石の開発で、これに参加している。中国は「BEST」という核融合炉を開発し、27年末の完成を予定している。さらに「CFETR」という本格的な核融合発電炉の開発も進めている。中国は国家プロジェクトとして他国に先んじて「地上に太陽」を手に入れようとしているのだ。日本も、核融合に役立つ技術に特化したスタートアップ企業が次々と登場している。心強い限りだが、他国、特に中国には負けてはならないだろう。核融合でエネルギーの不安がなくなった中国がどれほど横暴になるか、想像に難くないからだ。国家の安全保障の観点からも、核融合技術の確立に取り組まねばならない。
核融合が変える未来を詳述しているのも興味深い。なんと日本がエネルギー輸出国になるというのだ。日本の精緻な技術で造られた核融合炉を輸出することで世界のエネルギーを日本が支える。電気ばかりではなく、副産物の高温で造られる水素もクリーンエネルギーとして利用できるのだ。この結果、地球の環境問題を解決できるという。
最後の章で、核融合発電の実現への貢献により、ノーベル賞を受賞した架空の科学者・アダムス博士の言葉が語られる。
本書は、著者を含め、多くの研究者が平和な世界を夢見て、核融合開発に取り組んできたことがわかる異色の科学本となっている。
江上剛(えがみ・ごう)1954年、兵庫県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。77年、旧第一勧業銀行(現・みずほ銀行)に入行し、人事部や広報部を経て、支店長などを歴任。02年に「非情銀行」で作家デビュー。10年、日本振興銀行の経営破綻に際して代表執行役社長として混乱の収拾にあたる。「翼、ふたたび」など著書多数。

