「日本買収 団塊世代の天命」
幻冬舎/1870円
国際派企業弁護士として多くのビジネス・ローの案件を手がける一方、「株主総会」で作家デビュー、以来、人気作家としても活躍する牛島信氏。新作「日本買収 団塊世代の天命」は、70代半ばを過ぎた男女の恋と日本経済復活への道を描く企業小説で、人間ドラマにもあふれている。
団塊世代の牛島氏は執筆動機をこう語る。
「45年が『第一の敗戦』なら、バブル崩壊は『第二の敗戦』と言えるでしょう。そこから失われた30年が始まり、日本経済は停滞を続けています。そして今、『第三の敗戦』が始まったと僕は考えている。それは外資による日本企業買収の本格化です。僕ら団塊世代は就職してからずっと『明日は今日よりよくなる』という時代を生きてきました。しかし、団塊世代の多くはもう定年退職していて『自分の人生は悪くなかった。やれることはやり切っった』と満足していて、この現実に向き合おうとしない。まだやるべきことがありはしないか。団塊世代に𠮟咤激励をしたいという想いが執筆のきっかけです」
物語は、大手法律事務所代表の弁護士・大木が63年ぶりの小学校の同窓会で、かつて憧れの的だった西野礼子に声をかけられたところから始まる。礼子は地元広島の中堅不動産会社・広島興産オーナー社長だった夫を亡くし、専務取締役になっていた。彼女は東京の大木の事務所を訪ね、経営権の継承、少数株主の問題などを相談する。さらに礼子は、かつて高校時代に憧れていた先輩で、今は元巨大不動産会社社長の三津野慎一を紹介してくれと懇願する。大木は承知する。
「三津野はサラリーマン社長として成功し『それなりにやるべきことはやった』と思っています。ところが『本当にそうですか』と問いを突きつける女性が出現する。それが礼子です。75歳の彼女は外見に気を配り、知的で慎み深いけれど、必要な時は迷わず行動できる。そんな魅力的なキャラクターに設定しました」
やがて礼子と三津野は男女の関係へ進んでいく。本書は縦糸に戦後の日本経済史を、横糸で後期高齢者の恋愛を描いている。
「『75歳の女性と恋愛なんてありえない』と言う人もいます。でも僕は、恋愛に年齢を持ち込む感覚が理解できない。恋愛はハートです。年を取ったら、手をつないでいるだけでもいい。時々食事をするだけでもいい。そういう関係が、これからのシニアライフを豊かにするんじゃないでしょうか」
「男女の恋愛」をテーマに描くのは初めてだという。挑戦した背景には、小説の師と仰ぐ作家・石原慎太郎氏の存在があった。
「石原さんから『読者は恋愛小説を読みたいんだよ』と言われ続けていました。未完の約束のままでした。やっと本書で出せました。成熟した人生における恋愛文学。いわばシニア版『太陽の季節』です。石原さんも『ほう、面白いものを書いたね』と言ってくださると期待しています」
牛島氏は団塊世代へこうエールを送る。
「『自分たちは逃げ切った』と思っているかもしれない。でも後の世代はどうなるのか。日本はこれからもずっと続く。新しいことに挑戦する人がいたら『頑張れ』と応援してほしい。それが僕の願いです」
〈原悟平〉
牛島信(うしじま・しん)1949年生まれ。東京大学法学部卒業後、東京地検検事などを経て弁護士に。現在、M&A、コーポレートガバナンスなどで定評のある牛島総合法律事務所代表。日本生命社外取締役、NPO法人日本コーポレート・ガバナンス・ネットワーク理事長も務める。「少数株主」など著書多数。

