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500年前の「冷凍ジャガイモ」をインカ遺跡で発掘

500年前の「冷凍ジャガイモ」をインカ遺跡で発掘

Credit:Generated by OpenAI’s DALL·E,ナゾロジー編集部

冷凍食品と聞くと、私たちはスーパーの冷凍庫に並ぶ現代的な食品を思い浮かべます。

しかし、冷凍と乾燥を組み合わせた保存食の知恵は、はるか昔のアンデス世界にも存在していました。

ペルー南部の乾燥した海岸地帯にあるインカの拠点「タンボ・ビエホ」で、約500年前のフリーズドライ(凍結乾燥)ジャガイモが2つ発見されました。

これは「チューニョ」と呼ばれるアンデス伝統の保存食で、寒冷な高地でしか作れないものです。

研究の詳細は、カナダ・カルガリー大学(University of Calgary)により、2026年5月1日付で学術誌『Journal of Field Archaeology』に掲載されました。

目次

  • 凍結乾燥で保存食にされたジャガイモ
  • 500年前の「フリーズドライ」の方法

凍結乾燥で保存食にされたジャガイモ

今回の発見があったのは、ペルー南部アカリ渓谷にあるインカ時代の遺跡「タンボ・ビエホ」です。

ここは乾燥した沿岸部に位置するインカの拠点であり、研究者たちは2024年の発掘調査中、床に据えられた陶器の壺を見つけました。

インカ時代の遺跡「タンボ・ビエホ」/ Credit: en.wikipedia

壺は保存用に使われていたと考えられ、その中から茶色がかった白色の小さな塊が2つ出土しました。

表面はしなびており、皮の一部がまだ付着していました。

調べたところ、それはただの植物片ではなく、アンデスで古くから作られてきた「チューニョ」と呼ばれるフリーズドライ(凍結乾燥)されたジャガイモだったのです。

同じ壺の中には、壊れたインカ土器の破片と、損傷した紡錘車も入っていました。

紡錘車とは糸を紡ぐ道具の一部です。

こうした日用品と一緒に見つかった出土状況から、研究者たちはこのチューニョがインカ時代、つまり15〜16世紀ごろのものと判断しています。

【発見されたチューニョの実際の画像がこちら】

研究者は、発見の瞬間から「これは普通の発見ではない」と感じていたといいます。

その理由は、チューニョが沿岸部で作れる食品ではないからです。

チューニョを作るには、夜に霜ができるほど強く冷え込み、昼には強い日差しで解凍と乾燥が進むアンデス高地の環境が必要です。

つまり、タンボ・ビエホで見つかったチューニョは、どこかの高地で作られたあと、インカ帝国の物流網によって沿岸部まで運ばれた可能性が高いのです。

小さなジャガイモのかけらは、インカが山と海岸を結ぶ広大な食料ネットワークを持っていたことを示していました。

500年前の「フリーズドライ」の方法

ジャガイモはアンデス原産の作物で、何千年も前からこの地域で栽培されてきました。

しかし、生のジャガイモには大きな弱点があります。

暖かい場所ではすぐに傷み、1週間ほどで腐ってしまうことがあるのです。

さらに、品種によっては苦味や毒性があり、そのまま食べるには向かないものもありました。

そこで古代アンデスの人々が生み出したのが「チューニョ」です。

チューニョは、ジャガイモを冬の夜の霜にさらして凍らせ、日中の太陽で解凍し、これを繰り返したあとに踏みつけて水分を抜き、乾燥させて作られます。

こうしてできる「黒チューニョ」に対し、今回タンボ・ビエホで見つかったのは「白チューニョ」とみられます。

白チューニョは、苦味や毒性をもつジャガイモを原料とし、凍結後に数週間水に浸してから乾燥させる、より手間のかかる保存食です。

完成したチューニョは軽く、持ち運びやすく、長期間保存できます。

この性質は、広大な領域を支配したインカ帝国にとって非常に重要だったと考えられます。

スペイン人の年代記には、リャマの隊商がチューニョを含む食料を各地の貯蔵施設へ運んでいたことが記されています。

こうした貯蔵施設は、インカの労働者や行政拠点を支えるために使われていたとみられます。

その意味でチューニョは、単なる保存食ではありませんでした。

高地で作られ、軽くて腐りにくく、大量に運べるチューニョは、帝国の労働力を支える「食料インフラ」の一部だった可能性があります。

※ 画像はイメージです/ Credit:Generated by OpenAI’s DALL·E,ナゾロジー編集部

興味深いことに、チューニョは古代アンデスで広く使われていたと考えられる一方で、考古資料として残ることは非常にまれです。

今回に匹敵する発見は、100年以上前にペルーのパチャカマックで見つかった例くらいだとされています。

タンボ・ビエホの乾燥した環境と、壺の中に保管されていた状況が、500年近い時を超えてチューニョを残したのでしょう。

現時点では、このジャガイモが具体的にどの山地で作られたのかはわかっていません。

研究者たちは今後、化学分析によって産地をたどることを期待しています。

もし産地が特定されれば、インカ帝国がどの地域からどの拠点へ食料を運んでいたのか、より具体的に見えてくるかもしれません。

今回見つかった2つのしなびたジャガイモは、豪華な黄金製品でも巨大建築でもありません。

しかしそこには、自然環境を読み解き、食料を保存し、遠くまで運ぶという、人々の暮らしを支えた技術が刻まれていました。

500年前の「冷凍ジャガイモ」は、インカ帝国の強さが、台所の知恵にも支えられていたことを静かに教えてくれるのです。

参考文献

Rare 500-year-old freeze-dried potatoes unearthed at Inca coastal site
https://phys.org/news/2026-06-rare-year-dried-potatoes-unearthed.html#goog_rewarded

元論文

Inka Freeze-Dried Potatoes from Tambo Viejo, Acarí Valley, Perú
https://doi.org/10.1080/00934690.2026.2658319

ライター

千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。

編集者

ナゾロジー 編集部

配信元: ナゾロジー

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