
個の差は明らかも…オランダを苦しめた日本の“不気味な武器”。そして今回も森保一監督は賭けに勝ち、貴重な勝点を掴み取った【識者コラム】
[W杯GS第1節]日本 2-2 オランダ/6月14日/ダラス・スタジアム
日本は個の差を、共通理解に基づく崇高な責任遂行能力で埋めて貴重な勝点を掴み取った。
オランダ代表でピッチに立った16人の中に、オランダでプレーする選手はひとりもいなかった。風変りな選択をしてブラジル(コリンチャンス)へ渡ったメンフィス・デパイを除けば、全員がプレミアリーグを軸に5大リーグの主力として活躍している。実績や市場価値などでは、日本代表とは比較にならなかった。
ただしオランダも、さすがに上げ潮の日本には相応のリスペクトを持って臨んできた。確かにボール支配では圧倒した。しかしカウンターへのリスク管理を忘れず、駿足を誇る両SBが背後のスペースを顧みずに分厚い攻撃を仕掛けることも少なかった。とにかくオランダにとっては、日本以上に痛手を負いたくない試合だった。
もちろん日本は、オランダの数倍は綿密な準備を施したはずだ。堂安律は本来の攻撃的な役割を制限し、攻撃の起点としてボールが集まるコディ・ガクポに対峙し、久保建英も速やかにサポートに回る。シャドーには、デンゼル・ドゥムフリース対策として前田大然を充てたので、日本の攻撃のキーマンだった中村敬斗は忙しく左サイドを往復し、クリセンシオ・サマービルの自由を奪うことにも集中し続けた。
もし個人主義が通り相場のオランダなら、アタッカーがここまで守備に回る戦術には異論が出たかもしれない。実際歴史を振り返っても、過去には監督の戦術に共感できずにルート・フリットがチームを去ったようなケースもある。だが日本の選手たちは、誰もがチームの勝利を最優先し、与えられた役割を全力で遂行した。それは日本社会で育った者なら当然の流れなのかもしれないが、欧米視点では不気味な武器として異質に映るかもしれない。
一方で日本は、攻撃的な打開案も用意し、左サイドでは中村の内側を谷口彰悟が駆け上がってチャンスを創出し、右サイドでも渡辺剛が堂安とのワンツーから抜け出し、CBとは思えないほど精度の高いクロスを中村へ送った。基調を成すのは5-4-1のブロックだが、チャンスと見極めた時には、3バックも攻撃に絡める大胆な秘策でフリーマンがポケットを攻略した。
そして今回も森保一監督は賭けに勝った。
小川航基は所属のNECで出場機会を減らしていたので微妙な立場だったが、しっかりと信頼に応えて実質的に同点ゴールをもたらした。森保監督は「悔しさもある」と話したが、これは最良の結果だ。終了間際に追いついた展開からも、日本が勝機を見出すのは難しかった。だがオランダも、日本をグループFでは最大のライバルと認めて、2-2の後は矛を収めた。
チャレンジャーとして格上の強国に挑む森保監督の成功率は驚異的だ。「良い守備から良い攻撃」を掲げる指揮官は、オランダ戦では「優勝を目ざす」との強気な発言とは裏腹に、現在地を見極めたうえでスカウティングに基づき質の高い個々への対応策を敷き詰めた。
しかし本命オランダと分けたので、今度は立場を変えて確実に勝利を掴みに行く必要がある。そこで気になるのは、三笘薫、南野拓実を相次いで失い、久保も故障した可能性のあるシャドーのバリュエーション不足だ。遠藤航に代えて町野修斗を選択したことで、FWばかりが溢れているわけだが、これでチームはバランス良く効率的に機能していくのだろうか。
もちろん先走るのは得策ではない。しかし日本の分水嶺となるのはラウンド32である。そのためにはグループリーグ最後のスウェーデン戦で、ある程度メンバー選考に幅を持たせられる状況を築いておきたい。
文●加部究(スポーツライター)
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