
流れを変えた75分の“三枚替え”。新たに生まれた右サイドのユニットが、オランダ守備陣に継続的な負荷を与え続けた【W杯】
[W杯GS第1節]日本 2-2 オランダ/6月14日/ダラス・スタジアム
北中米W杯初戦のオランダ戦で、日本代表は二度、リードを許しながらも2-2で追いつき、価値ある勝点1を手にした。
試合後、森保一監督は「勝点3を目ざしていたので、残念な部分はある」としながらも、「オランダ相手に2回、リードされた状態で勝点1を取れるということは簡単ではない。価値ある勝点1だった」と評価した。
その粘り強い戦いを支えた最大の要因の一つが、75分に森保監督が敢行した“三枚替え”だった。
この時点で日本は1-2。50分に先制され、57分に中村敬斗の同点弾で追いつきながらも、64分に再び勝ち越される苦しい展開となっていた。オランダの強力な個の能力に押し込まれる時間帯も増え、試合の流れは徐々に相手へ傾き始めていた。
そんななかで森保監督は決断する。デンゼル・ドゥムフリースとの接触で負傷した久保建英に代えてFW小川航基を投入。それと同時に右ウイングバックの堂安律との交代で菅原由勢、右センターバックの渡辺剛をベンチに下げ、冨安健洋を送り込んだ。
森保監督は「攻撃的な選手をより前線に配置してターゲットになるというところと、ゴールに向かう部分の強みを持った選手を起用しました」と説明した。
この交代策の意味は、単純な攻撃強化だけではなかった。結果的に日本は右サイドの機能性を大きく変え、シンプルにサイドから2トップを活かす攻撃イメージが、オランダの対応を難しくした。
冨安が右センターバックに入ったことで、対人守備の安定感だけでなく、右後方からの配球力が加わった。さらに菅原が高い位置を取ることで右サイドに幅が生まれ、そのスペースを、66分に途中出場していた伊東純也が自在に使えるようになった。
伊東は試合後に「自分が入ってから、うまく右サイドでチャンスを多く作れたかなと思います」と振り返っている。オランダ守備陣の状況についても、「相手が寄せてこないなっていうのは見ていて思ったんで、シンプルに抜き切らずにクロスを上げたり、裏に抜けてクロスを上げたりというところを狙った」と明かした。
実際、日本の攻撃はこの時間帯から明確に活性化する。冨安が持ち運び、菅原が高い位置を取る。その外側や背後へ伊東が流れ、スピードを活かしてクロスを供給する。3人が連動しながら右サイドで優位性を作り出し、オランダを押し込んでいった。
伊東は菅原との関係についても、「由勢だけじゃなくて、あそこでウイングバックに入る選手とはローテーションしていく練習はしてましたし、自分がサイドに流れた方がチャンスを多く作れると思った」と説明する。
交代によって生まれた新たな右サイドのユニットが、オランダ守備陣に継続的な負荷を与え続けたのだ。
日本の勢いを受け、オランダも対抗策を講じた。81分、ロナルド・クーマン監督は左利きCBのネイサン・アケーを投入。4-3-3から5-4-1へとシステムを変更し、日本のサイド攻撃を抑え込もうとした。
これは、日本の2トップ気味の形に加えて、右サイドが脅威になっていたことの裏返しでもある。だが、それでも日本の流れは止まらなかった。
84分に投入された塩貝健人は「負けている状況で流れを変えてやろうという気持ちで入った。チームのために走ろうと思った」と語り、「前からの守備が自分の役割。それができなかったら、出ている意味がない」と力強く話した。短い出場時間ながらも、その献身的な守備は日本が最後まで押し込まれずに戦う助けとなった。
日本の攻撃の圧力はさらに強まり、オランダ陣内でプレーする時間が増えていく。森保監督は「攻撃のギアが上がって、得点に結びつけた。圧力を上げていけた」と振り返る。その言葉通りの展開となった。
オランダは疲労の見える左ウイングのコディ・ガクポに代えて、重量級FWのブライアン・ブロビーを投入。これに伴い前線の中央で途中出場していたメンフィス・デパイをガクポのいた左に回したが、同サイドの守備強度はさらに下がり、日本のサイドアタックが活性化した。
そして迎えた88分。日本は右サイドの攻撃からCKを獲得。伊東のCKから小川が得意のヘッドで合わせたボールは鎌田大地の頭をかすめてゴールに吸い込まれた。
決定的な仕事に絡んだ伊東も「途中から出る選手は重要。短い時間でどれだけ結果を出せるかが大事」と語っている。
森保監督の“三枚替え”は、単に疲労した選手を入れ替えるためのものではなかった。右サイドに新たな推進力を与え、攻撃の矢印を前へ向け、オランダに守備変更を強いるほどの圧力を生み出した。その圧力がCKを呼び込み、同点ゴールへとつながった。
試合の流れを作ったスタートのメンバーの働きや、二度、追いついた粘り強さはもちろん称賛に値するが、この試合を振り返る時、勝点1を引き寄せた最大の分岐点として記憶されるのは森保監督の決断であり、ゲームチェンジャーとして期待に応えた交代選手たちの働きだった。
取材・文●河治良幸
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