
なぜ日本はオランダと渡り合えたのか。前田大然が鍵となった“左右非対称プレッシング”は理にかなった戦術だった【分析コラム】
日本代表は6月15日、北中米ワールドカップの初戦でオランダと対戦し、2-2の引き分けに終わった。
前半はスコアが動かず0-0で終えたが、後半は一転。50分の失点を皮切りに終始リードを許す苦しい展開だったが、日本は中村敬斗、鎌田大地のゴールで二度追いつき、重要な勝点1を得た。
日本とオランダはともに、守備[5-4-1]でお尻が重いブロックを敷いた。ボールを保持されたら、すぐに自陣へ撤退し、スペースを埋めて構える。90分の間、両チームの陣を行ったり来たりするオープンな展開はほとんどなく、まるで鏡写しのように試合は慎重に閉じられていた。
一方で、同じ[5-4-1]でも細部に違いはあった。キープレーヤーは前田大然だ。
前田がマッチアップする相手は、本来ならば22番ドゥムフリースだが、前田はこの高い位置に出る右SBに引っ張られず、右CBファン・ヘッケをプレスのターゲットとした。ここにボールが出たら、縦ズレして寄せる。前田がスイッチを入れたら、中村も縦ズレして右SBドゥムフリースへ寄せ、さらに伊藤洋輝もサイドへ出る。左サイド肩上げのプレッシングだ。
[5-4-1]のブロックは相手の攻撃スペースを封じる反面、ボールの出処をフリーにしてしまうデメリットがある。実際、上田綺世1人ではファン・ダイク、ファン・ヘッケ、デ・ヨングの3人を封じ続けることは不可能なので、ファン・ヘッケには前田が縦ズレし、デ・ヨングは上田が背中で見つつ、機を見て佐野海舟や鎌田もプレスに行く。こうして[5-4-1]の重いシステムでも、相手のビルドアップに制限をかけることができていた。
日本がこのアシンメトリック(左右非対称)・プレッシングを用いた理由は、少なくとも2つ考えられる。1つは積極性を出すためだ。ポゼッションで押し込む時間が長いオランダなら[5-4-1]で構えるだけでもいいが、ボールを持たざる日本が深く押し込まれ続けると、かなり劣勢になる。日本はラインを下げすぎず、ミドルブロックで対処するために、スイッチャー前田を使って前へ押し返す積極性を生み出した。
もう1つの理由は、ガクポへの対処だろう。相手CBへ縦ズレしてプレスに行くのは、ほぼ前田の役割で、右サイドの久保建英は出なかった。この非対称性により、右ウイングハーフの堂安律がガクポと1対1になったとき、久保はダブルチームに行ける。実際、トランジション等で数的優位を作れず、ガクポが1対1に入った時は高い確率でピンチを迎えていたので、当然取るべき対策だったのだろう。
積極性と相手の個対策を両立させる、左高右低のアシンメトリック・プレス。理にかなった戦術だった。
とはいえ、技術が高いオランダはテンポ良くパスを回してくるので、プレッシングがハマる場面ばかりではない。縦ズレを狙う前田の背後のスペースへ運ばれると、中村が数的不利に陥ってしまうので、そうなったら前田が猛烈にスプリントして下がり、素早く[5-4-1]を再形成する。
負担の大きな役割だが、そのスピードと運動量を保証する選手といえば、前田をおいてほかにない。CK守備時の弱点になったこと、攻撃を多少ノッキングさせたことは否めないが、彼に期待された役割はしっかりと果たしていた。
前半はこうして0-0で終えたものの、型のある戦術には相手も徐々に対応してくる。後半、オランダは右SBドゥムフリースの立ち位置を修正し、彼があまり高い位置を取らず、ファン・ヘッケの横に立たせるようにした。これによってファン・ヘッケがやや中央側へ寄る格好になり、前田が縦ズレするターゲットに捉えづらくなった。無理に行けば、ドゥムフリースへ簡単にボールを逃されてしまう。
後半の序盤、オランダにペースを握られて失点に至ったのは、相手カウンター時の鎌田の判断ミスなど日本側の失敗もあったが、オランダ側がアシンメトリック・プレスに対応したため、日本が守備時に押し返しづらくなったことも大きな要因だった。上田1人では相手のビルドアップを封じ切れない。ボールの出処がフリーになったことでライン間へ通される回数が増え、2失点目の起点になった。
その後もオランダが積極的に3点目を奪いに来ていたら、正直、日本は負けていた気がする。1-1の同点ゴールの起点になった久保が負傷交代した後、逆転を期して上田と小川航基を並べる[3-1-4-2]に変更したが、連系のノッキングが多く、チームとしての効果は今ひとつに感じた。
菅原由勢の好プレーは印象に残ったが、守備型の怪しさを踏まえると、このタイミングで再びオランダに攻め込まれたら、危なかった。最後のお粗末なCK対応を含め、クーマン監督が批判を浴びる様子には何の不思議もない。
ただ、そうした積極的な選択肢に至らないほど、日本は警戒されていたのだろう。強豪オランダにここまで一目置かれるほど、日本代表が名を挙げたこの3年半の歩み。それが隠れたところで活きていたのではないか。
文●清水英斗(サッカーライター)
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