日本の食を、世界へ。そのカギを握るのが、特定地域で生産される「GI産品」だ。農林水産省のGI(地理的表示)保護制度によって品質と産地が国際的に保証された食材は、日本食のブランド力を高める切り札として注目を集めている。今回、その農林水産省の鈴木憲和大臣を、サッカーの名将フィリップ・トルシエ氏、フランス料理界の巨匠ドミニク・コルビ氏が訪ねた。三者の対談は、サッカーW杯北中米大会の話題から、日本食の現状と今後にまで話が及んだ。
魂を込めて造ったワイン「フラット・スリー」
――このたびは、よろしくお願いいたします。
トルシエ 鈴木大臣、お会いできて光栄です。記念として、ボルドーのサン・テミリオンにある私のワイナリー「ラ・ベル・ガブリエル」で、魂を込めて造ったワイン「フラット・スリー」をお贈りします。
サッカー日本代表への敬意と、W杯初のベスト8以上に進出できるように、という熱い願いを込めた特別な一本です。
鈴木大臣 ありがとうございます。今回のW杯は、日本代表が優勝候補のフランス代表と同じグループに入らなくてひとまず安心しました。とはいえ予選は厳しい戦いが続くと思いますが、ベスト8以上、その先を目指して頑張ってほしいです。
トルシエ 日本は親善試合などで強豪国相手に勝利を挙げてきたので、決勝トーナメントでフランスが対戦することになった場合は用心しなければなりません。
コルビ フランスは予選を通過して決勝まで行くと見ています。日本にも力がありますし、対戦が実現してほしいですね。
――本日は大臣室に伺う前に、GI産品を使用したコルビシェフの料理を、トルシエさんのワインと一緒にいただいてきました。
鈴木大臣 私もその場に伺って、食べてみたかったです(笑)。
トルシエ 幸福な余韻が残っています。
コルビ 調理した私も、GI産品の素晴らしさをあらためて実感しました。
鈴木大臣 GIに関して、フランスとは縁を感じます。というのも、日本がGI保護制度を導入したのは2015年からですが、きっかけのひとつがフランスのシャンパーニュ地方なんです。
代表的なものが「シャンパン」で、シャンパーニュ地方で生産され、厳格な基準を満たしたものだけがそう呼ばれますね。そんな考え方を日本でも取り入れたく、GI保護制度を推進してきました。
日本は南北に長くて山も多く、さまざまな食材に恵まれています。ただ、その地域特有の産物が別の名前で流通してしまっている例もあります。GI保護制度は、そんな食材を大切に保護することを目的としています。
トルシエ フランスでも、「日本製品は高品質で信頼できる」というイメージが定着していて、農産物や食材への評価が高まっています。これは日仏間の歴史的・文化的なつながりや、美食を重んじる共通の価値観に裏付けられたものです。フランスの洗練された美意識と、日本の高い技術力が融合すれば、唯一無二の逸品が生まれます。
コルビ 私は、料理が最も美味しい国は、日本とフランスだと思っています。
鈴木大臣 その言葉は嬉しいですね。両国の料理が美味しいのは、やはり食材のクオリティが高いということもあるでしょう。
――GI制度の目標、課題などをお教えいただけますか?
鈴木大臣 日本の農林水産物・食品の輸出額は1.7兆円(令和7年)で、目標の5兆円に向けて全力で取り組んでいます。日本食はすでに世界で認知度が高いですが、課題もありますね。
海外の日本食のお店の中には、日本の食材を使っていないお店もあるんです。今後、本物の日本の食材を扱うお店を増やしていくこと、それに併せた輸出の拡大を目指しています。
トルシエ そうした食材のやりとりが盛んになる中で、かつての「姉妹都市」のような交流も生まれ、シナジーが生まれる。食を通じて、再び友好的な関係を築かれるかもしれませんね。ただ、素晴らしい食材を維持するためにも、農家の後継者問題も避けては通れない課題ですね。
コルビ 私は料理人として「食育」にも関心があります。食材本来の味を五感で感じとるための取り組みは、非常に大事です。私自身も2010年から、日本の小学校で「味覚」の授業を行なってきました。
日本全国を回り、気仙沼ではサメ料理、盛岡ではサーモン料理など、子供たちと一緒に地元の食材で作った料理を食べながら、味について教えてきたんです。
味覚の「五味」は、「甘味・塩味・酸味・苦味・うま味」。子どもはこの五味を正確に当てられるんですが、意外と大人は五味に入っていないものを答えてしまうことが多いんです。
鈴木大臣 なんでしょうかね……。もしかすると、「辛味」でしょうか?
コルビ その通りです。大人たちが普段から、外食などの多様な味付けに慣れすぎて、味覚の区別がつきにくくなっていることが原因だと考えています。
辛さは味覚ではなく、痛みから生じる感覚。食材本来のうま味を感じられなくなっていることは、大きな課題だと思います。
鈴木大臣 味覚は本当に大切ですね。日本でも「和食給食応援団」という取り組みがあり、和食の料理人が学校を訪れ、「うま味」や「だし」について子どもたちと一緒に学ぶ活動をしています。
他には、小学生が田植えから収穫までを経験するといった「教育ファーム」など、食材の生産現場を身近に感じてもらう取り組みも広がっています。
コルビ フランスの学校では、1990年代から三つ星シェフが味覚の授業を行なっているんですよ。「うま味(UMAMI)」は今や世界の共通語ですが、昆布から発見されたこの概念がフランスの食育カリキュラムに組み込まれたのは、もう20年以上前のことです。
例えば、コンテチーズの中に見える白い粒。これはカビでも塩でもなく、「チロシン」というアミノ酸が凝縮されたうま味の塊そのものです。48カ月熟成のコンテチーズと通常チーズを比べると、うま味の深さが全然違います。
鈴木大臣 興味深いですね。私も買う時に、注意して見てみます。日本でも引き続き、子供だけでなく多くの方たちが、本物の味覚を学べる取り組みを推進していきます。
「また行きたい国」を聞かれたら、迷わず「日本」と答えます
――食文化の高まりが世界をつなぐ。その点について、どうお考えですか?
トルシエ 2030年、モロッコでサッカーW杯が開催されます。私はサッカーの監督として世界各地を巡り、多様な文化や食に触れてきました。私は、この機会に日本とモロッコの食文化をつなぐ場を設けたいと思っています。
コルビ トルシエさんと「伝統料理の交流の場」を東京とカサブランカ(モロッコ)で開催できないかと考えているんです。両国の料理文化を持ち寄り、お互いの食に関する理解を深め合う場を作りたいですね。
鈴木大臣 素晴らしいです。食が国と国をつなぐツールになりますね。私たちのほうでも、今年6月15日からフランス東部エビアンで開催されるG7サミットに合わせ、パリの大型店舗で日本産のお米を使ったお寿司とおにぎりを販売する予定です。日本のお米を使うことによって、その美味しさをしっかり味わっていただけると確信しています。
トルシエ それは間違いないでしょう。私は「また行きたい国はどこか」と聞かれたら、迷わず「日本」と答えます。日本食は美味しいのはもちろん、健康的で、サービスも最高です。さらに、日本以外の世界中の料理も、最も美味しく食べられるのは日本ですから。
コルビ 日本人の繊細さと正確さは料理の世界においても際立っています。食材のブランドを大切にしながら、その使い方を丁寧に学ぶ姿勢がワールドクラスの日本食を支えていると思います。
鈴木大臣 日本の本物の食材と味を世界に届けていく。おふたりのお力もお借りしながら、日本の食の底力を世界に発信し続けていきたいと思います。本日はありがとうございました!
トルシエ・コルビ ありがとうございました!
取材・文/佐久間秀実 撮影/立松尚積
■取材協力:農林水産省
公式HP>> https://www.maff.go.jp/
■農林水産省のSNS発信プロジェクト「BUZZ MAFF(ばずまふ)」
公式YouTubeチャンネル>>https://www.youtube.com/BUZZMAFF
■通訳:塩田明子(上智大学外国語学部フランス語講師)

