
“新しい”ベルギー代表の可能性。マキシム・デ・カイペルは自信をのぞかせる「良い選手たちが揃っている。一番大事なのは団結すること」【W杯】
W杯と聞いて、ベルギー代表のマキシム・デ・カイペルの脳裏に最初に浮かぶのは、母国の代表チームの姿ではなかった。
「最初に思い浮かぶのは南アフリカ大会だ。オランダが決勝まで進み、アンドレス・イニエスタのゴールでスペインに敗れた大会だった」
2010年の南アフリカ大会。当時、デ・カイペルは9歳だった。この時、ベルギーは予選敗退に終わり、本大会の舞台には立てなかった。
一方で隣国オランダは決勝まで勝ち進み、世界王者まであと一歩に迫った。現在ブライトンでプレーするDFにとって、W杯の原風景は、自国の躍進ではなく、隣国の挑戦だった。
だがその8年後、ベルギーは世界の注目を集める存在になる。
「ベルギーが準々決勝でブラジルを破り、準決勝まで進んだ2018年ワールドカップもよく覚えている。あれはベルギー史上でも最も大きな試合の一つだったかもしれない」
2018年ロシア大会。ベルギーはラウンド16で日本を3-2で下し、準々決勝ではブラジルを撃破した。日本にとっては、2点を先行しながら土壇場で逆転を許した苦い記憶として残る大会だが、ベルギーにとっては黄金世代が頂点に最も近づいた大会だった。
当時、デ・カイペルは17歳。テレビの前でその戦いを見守っていた世代である。
ケビン・デ・ブライネ、エデン・アザール、ロメル・ルカク、ティボー・クルトワ、ヴァンサン・コンパニ、アクセル・ヴィツェル、ヤン・フェルトンゲン、トビー・アルデルヴァイレルト――。ベルギーサッカー史上屈指の才能が集まった黄金世代は、長年にわたって「国際大会の優勝候補」と目されながらも、ついにタイトルには届かなかった。
それでも、デ・カイペルにとって彼らは憧れの存在だった。
「ベルギーがブラジルと戦ったあの準々決勝を見た時、僕は17歳だった。ベルギーサッカー史上でも最も歴史的な試合の一つだ。それから数年後に、彼らと一緒にワールドカップを戦えるなんて本当に光栄。8年前の彼らと同じことを僕たちも成し遂げられたらと思う」
その言葉には、青年時代の記憶と現在が重なっている。しかも今では、かつて画面越しに見ていた選手たちと同じロッカールームにいる。
「ベルギー史上最高の選手たちの何人かとプレーできるのは、本当に光栄なことだ」
さらに印象的だったのは、デ・カイペルが黄金世代の人間性について語った部分だ。
「思っていたより自然だった。彼らは優れた選手なだけではなく、人間としても本当に素晴らしい。だから居心地が良くて、一緒にプレーすることが、とても簡単に感じられた」
今回のベルギー代表は、2018年の再現を目ざすチームではない。彼らは過渡期にある。
デ・ブライネ(34)、ルカク(33)、クルトワ(34)、ヴィツェル(37)、トマ・ムニエ(34)ら黄金世代の主力が代表に残る一方で、ジェレミー・ドク(24)、アマドゥ・オナナ(24)、シャルル・デ・ケテラーレ(25)、ゼノ・デバスト(22)、センヌ・ラメンス(23)、そしてデ・カイペル(25)ら新世代が中心になりつつある。
今回のベルギー代表は、「黄金世代最後の挑戦」であり、同時に「新世代最初の挑戦」でもあるのだ。デ・カイペル自身も、その立場を強く意識している。
「今は新しいグループだ。黄金世代もそうだったように、僕たちも新しいチームとしてスタートしなければならなかった。彼らも高いレベルに到達するまでには時間が必要だったし、僕たちも同じだ」
ベルギー代表に向けられる視線も変化した。
2010年にW杯出場を逃していた国が、2018年には世界のベスト4に入った。大きな成功によって期待は膨らみ、黄金世代への評価も確立された。しかし、新しい世代は違う環境の中で歩み始めている。
「2010年にワールドカップ出場を逃した国が、2018年に準決勝まで行ったわけだから、期待が変わるのは当然。そして新しい世代になれば、また期待も変わる。僕たちは数年前のチームが背負っていたのと同じプレッシャーを抱えているわけではない」
今大会のベルギーは「優勝候補」とは見られていない。こうした見方を、デ・カイペルは必ずしも悪いことだとは捉えていない。
「自国から『優勝する必要がある』と言われる方が難しい。だから僕たちにとっては利点になるかもしれない」
もっとも、プレッシャーがないことを歓迎しているわけではない。
「良い時もあれば、そうでない時もある。もっと自分たちを追い込むという意味では、プレッシャーがある方が良い場合もある。ただ、僕たちには初めて主要大会を経験する選手も多い。過度なプレッシャーがないのは良いことかもしれないね」
デ・カイペル自身にとっても、今回のW杯は大きな意味を持つ。ユーロ2024では代表メンバーに選ばれながら出場機会はなかった。しかし、その経験は無駄ではなかったという。
「良い経験だった。むしろアドバンテージになるかもしれない。ビッグトーナメントの雰囲気や、試合がどんなものなのかを経験できたからだ。普通の試合とは違うプレッシャーがあることも分かった」
そして、出場機会のない選手の重要性も学んだ。
「みんな同じ建物で24時間、一緒に過ごし、同じグラウンドで練習する。ホテルでもずっと一緒だ。だから出場していない選手たちの役割は、プレーしている選手以上に重要だと思う。もし彼らが前向きな姿勢を持っていれば、チーム全体を一つにまとめることができる。それは本当に大切なことだ」
今回は、ベンチ要員ではなく、左サイドバックの主力として大会に臨む。ブライトンでは出場機会が限られた時期もあったが、その間も守備面の向上に取り組んできた。
「攻撃面については、コーチたちから多くを教わる必要はない。彼らが教えてくれるのは守備面でどう改善できるかだ。今季、まさにそういう取り組みを続けてきた」
一方、持ち味であるデ・カイペルの攻撃力は、ベルギー代表でも重要な武器になる。
「それが僕の長所。そこを失ったら別の選手を使うべきだ。代表でも自分の持ち味は出せる。ただ同時に守備の局面にも注意を払わなければならない。その部分についても、かなりうまくやれていると思う」
では、この新しいベルギーはどこまで行けるのか。デ・カイペルは、優勝を宣言することはないが、参加するだけのつもりもないと言う。
「僕たちは参加するためだけにワールドカップへ行くわけではない。自分たちが何者なのか、どれだけ優れたチームなのかを示したい。優勝するとまでは言わないけど、目標を達成するために全力を尽くす」
ベルギー代表の新世代。その可能性について問われると、こう言葉を続けた。
「いろいろな可能性があると思う。優勝するかどうかは分からないけど、良いワールドカップになるチャンスは十分ある。本当に良い選手たちが揃っている。一番大事なのは団結すること。ここ数か月、どの合宿でも、どの試合でも、それを続けてきた。それができれば素晴らしい大会になると思う」
黄金世代の背中を見て育った若者たちが、今度は自分たちのベルギーを作ろうとしているのだ。
そんなデ・カイペルに、最後に少し視点を変えた質問が飛んだ。日本代表についてである。
ベルギーにとって日本は、2018年ロシア大会でベスト8進出を争った相手だ。あれから8年。日本は優勝を目標に掲げるまでになった。
「日本はダークホースになり得るか」。日本人記者にそう聞かれると、デ・カイペルは笑いながらこう返した。
「僕に『はい』と言わせたいんだろう?(笑)」
だが、その答えは決して社交辞令ではなかった。デ・カイペルは言う。
「日本は本当に大きな成長を遂げたチームだと思う。とても進歩した。僕は、オランダの選手たちにも『日本には気をつけた方がいい』と言った。日本は、非常に自信を持っているからだ。正直に言って、日本は素晴らしいワールドカップを戦うと思う」
2018年、ベルギーは日本との死闘を制し、ブラジルを破って世界の頂点に迫った。だが、そのチームはもう存在しない。今のベルギーは、デ・ブライネやルカクら黄金世代の経験と、ドクやデ・カイペルら新世代の勢いが交わる過渡期にある。
17歳だった青年は、憧れの選手たちと同じ代表ユニホームを身にまとい、初めてのワールドカップを戦う。黄金世代が届かなかった場所へ。ベルギーは今、新たな世代とともに再び挑戦を始めている。
取材・文●田嶋コウスケ
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