最新エンタメ情報が満載! Merkystyle マーキースタイル
脳トレ四択クイズ | Merkystyle
ハエトリグサが「高速で葉を閉じられる」秘密を解明

ハエトリグサが「高速で葉を閉じられる」秘密を解明

Credit:Generated by OpenAI’s DALL·E,ナゾロジー編集部

ハエトリグサは、植物でありながら獲物を捕らえる“捕食者”です。

葉をあごのように広げ、そこに入り込んだ昆虫やクモの仲間をパチンと閉じ込めて消化し、栄養を吸い取ります。

しかし、ここには長年の謎がありました。

植物には動物のような筋肉も神経もありません。

それなのに、なぜハエトリグサは獲物が逃げる前に、あれほど素早く葉を閉じられるのでしょうか。

この疑問は、かつてチャールズ・ダーウィンも強く関心を寄せた問題でした。

そんな中、フランス国立科学研究センター(CNRS)らの研究チームは、ハエトリグサの高速スナップの仕組みを詳しく調査。

その結果、ハエトリグサは、葉の外側表面の細胞壁を急速に柔らかくすることで、高速の閉鎖を引き起こしていることが明らかになったのです。

研究の詳細は2026年6月11日付で科学誌『Science』に掲載されました。

目次

  • ハエトリグサはどうやって葉を閉じるのか?
  • 葉っぱの細胞壁を急速に柔らかくしていた

ハエトリグサはどうやって葉を閉じるのか?

ハエトリグサの捕虫葉は、左右2枚の葉片が合わさったような形をしています。

葉の内側には小さなトゲの感覚毛があり、虫がこれに触れるとトラップが起動し、葉全体に電気信号が広がります。

そして捕虫葉は、開いた状態から閉じた状態へと一気に変化するのです。

これまで、この葉を閉じる高速運動は「水分の移動」によって起こると考えられてきました。

植物の動きの多くは、水の流れによって細胞内の圧力が変わり、形が変化することで生じます。

たとえば、オジギソウが触れられるとパタパタと葉を閉じる動きも、こうした水圧変化と関係しています。

そのためハエトリグサでも、葉の片側から反対側へ水が移動し、一方が膨らむことで葉が曲がって閉じるのだと考えられてきました。

オジギソウ/ Credit: ja.wikipedia

しかし、この説明には大きな弱点がありました。

研究チームが調べたところ、水分が捕虫葉の厚みを横断するには、30〜150秒ほどかかると推定されました。

一方で、ハエトリグサが葉を閉じ始める動きは約1秒のスケールで起こり、最後の高速閉鎖はわずか0.2秒ほどで完了します。

つまり、水の移動だけでは、あの速さを説明するには遅すぎるのです。

さらに、水がじわじわ移動して閉じるなら、葉の中に遅れて伝わる波のような動きが見えるはずです。

しかし、チームはそのようなパターンを見つけませんでした。

そこで彼らは、ハエトリグサの葉が閉じる直前に、葉そのものの硬さが変化しているのではないかと考えました。

葉っぱの細胞壁を急速に柔らかくしていた

チームは、ハエトリグサの葉を歯科用接着剤で慎重に固定したり、細い帯状に切ったりして、閉じる仕組みを段階的に調査。

また、ナノインデンターと呼ばれる微小な金属の先端を使い、葉の表面を押したときの硬さも測定しました。

これは、指で風船を押して硬さを確かめるように、葉の細胞壁がどれほど抵抗するかを調べる方法です。

その結果、ハエトリグサのトラップが作動した直後、葉の外側表面の細胞壁が急速に柔らかくなることがわかりました。

一方で、内側表面の細胞壁には大きな変化は見られませんでした。

つまり、ハエトリグサの葉では、内側と外側で「伸びやすさ」に差が生まれていたのです。

外側の細胞壁が柔らかくなると、外側表面は内側よりも広がりやすくなります。

そのズレによって葉が内側へ曲がり、ある限界点を超えると、蓄えられていた力が一気に解放されます。

このとき捕虫葉は、ドーム状のゴム製品が反転するように、パチンと閉じるのです。

Credit:Generated by OpenAI’s DALL·E,ナゾロジー編集部

研究者たちは、この細胞壁の硬さの変化を、植物で報告されたものとして非常に速い機械的変化だと説明しています。

しかも興味深いことに、「細胞壁を柔らかくして伸びる」という仕組み自体は、植物が成長するときにも使っている基本的な機能です。

ハエトリグサは、そのありふれた植物の仕組みを、獲物を捕まえるための高速トラップへと進化的に転用した可能性があります。

ただし、まだすべてが解明されたわけではありません。

今回の研究は、葉が閉じる物理的な仕組みを明らかにしたものですが、細胞壁がどの分子反応によって急速に柔らかくなるのかは、今後の課題です。

それでも今回の発見は、植物がただ受け身に生きている存在ではないことを改めて示しています。

ハエトリグサは、筋肉も神経も持たないまま、細胞壁の硬さを一瞬で切り替え、獲物を逃さない“植物のスナップ技”を完成させていたのです。

動物のように走ることはできなくても、植物には植物だけの速さがあります。

小さな虫を捕らえる一瞬の動きには、長い進化が磨き上げた、静かな狩人の知恵が詰まっていたのです。

参考文献

Scientists Finally Discover How Venus Flytraps Snap Shut So Fast
https://www.sciencealert.com/scientists-finally-discover-how-venus-flytraps-snap-shut-so-fast

Scientists reveal surprising mechanism behind Venus flytrap’s rapid snap
https://www.theguardian.com/science/2026/jun/11/venus-flytrap-rapid-snap-mechanism

元論文

Fast cell wall softening causes Venus flytrap closure
https://www.science.org/doi/10.1126/science.aed5051

ライター

千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。

編集者

ナゾロジー 編集部

配信元: ナゾロジー

提供元

プロフィール画像

ナゾロジー

ナゾロジーはkusuguru株式会社が運営する科学情報サイトです。読者をワクワクさせ、科学好きな人を増やすことを理念に運営しています。 現在、世界はたくさんの便利なテクノロジーによって支えられています。しかし、その背景にある科学の原理や法則を知る機会はあまりありません。 身近に潜む科学現象からちょっと難しい最先端の研究まで、その原理や面白さを分かりやすく伝えられるようにニュースを発信していきます。

あなたにおすすめ