
深海には、私たちがまだ見たことのない奇妙な生き物が数多く潜んでいます。
今回、鹿児島大学と広島大学の研究グループは、種子島沖の水深約1200mから、頭の大部分を覆うほど「巨大な白い眼」をもつ新種の甲殻類を発見しました。
この生物は、端脚目ヨコエビ類の一種で、新たな和名として「オオメダマヨコエビ(正式学名:Harcledo toyoshioae)」と命名されています。
研究成果は2026年6月5日付で学術誌『Systematics and Biodiversity』に掲載されました。
目次
- 水深1200mの暗闇で見つかった「巨大な眼のヨコエビ」
- 巨大な眼は、深海への適応を示す手がかりに
水深1200mの暗闇で見つかった「巨大な眼のヨコエビ」
水深約1000mより深い海は、太陽の光がほとんど届かない深海漸深層と呼ばれる世界です。
そこでは、地上や浅い海とはまったく異なる環境に適応した生物たちが暮らしていると考えられています。
しかし、深海は調査そのものが難しく、どんな生物がどのように暮らしているのかは、まだ十分に分かっていません。
今回の研究では、広島大学の附属練習船「豊潮丸」に装備されたプランクトンネットを使い、種子島沖の水深約1200mで生物を採集。
その中から見つかったのが、体長約2cmの小さな甲殻類です。
【実際の新種甲殻類の画像がこちら】
一見すると小さなヨコエビですが、その姿には驚くべき特徴がありました。
体は深紅色で、頭部には巨大な白い眼が発達していたのです。
背中側から見ると、左右の眼が頭の上で接するほど大きく、側面から見ても眼が頭部の大部分を占めています。
チームが詳しく形態を調べたところ、この生物はテンロウヨコエビ科に属するものの、既知のどの種とも一致しない特徴を備えていることが分かりました。
そこでチームは、この生物を新種として記載し、学名を「Harcledo toyoshioae」としました。
種小名の「toyoshioae」は、採集に貢献した練習船「豊潮丸」にちなんだものです。
また、その大きな眼にちなみ、和名として「オオメダマヨコエビ」が提唱されました。
巨大な眼は、深海への適応を示す手がかりに
オオメダマヨコエビの最大の特徴は、やはり巨大な眼です。
深海では、水深が深くなるほど太陽光が急激に弱まり、視覚に頼ることが難しくなります。
そのため深海生物の眼には、さまざまな進化の方向が見られます。
わずかな光をとらえるために眼を大きく発達させるものもいれば、逆に光を使わない生活に適応して眼を退化させるものもいます。
今回見つかったオオメダマヨコエビは、前者の例として注目されます。
頭の大部分を占めるほどの眼は、暗い環境でわずかな光を利用するための適応である可能性があります。
【巨大な眼を拡大した画像がこちら】
ただし、この研究は新種の記載を主な目的とした分類学的研究であり、眼の機能そのものを実験的に確かめたものではありません。
そのため、「巨大な眼が何を見ているのか」「どのように深海生活に役立っているのか」は、今後の研究課題です。
今回の発見には、もう一つ大きな意味があります。
日本近海のヨコエビ類は、まだ十分に調べ尽くされていません。
これまでの調査は海底を対象にしたものが多く、水中を漂う生物をプランクトンネットで調べる深海漸深層の調査は限られていました。
つまり、今回の発見は、種子島沖の深海にたまたま珍しい生物がいたというだけではありません。
日本近海の深海には、まだ名前のない生物が数多く残されている可能性を示しているのです。
暗く冷たい深海で、巨大な白い眼をもつ小さな甲殻類が見つかったことは、私たちの足元ならぬ「海の底」に、まだ未知の世界が広がっていることを教えてくれます。
オオメダマヨコエビの大きな眼は、深海生物の進化と、日本近海に眠る未知の多様性をのぞき込むための、新しい窓になるかもしれません。
参考文献
【研究成果】種子島沖から“巨大な眼”を持つ新種を発見! 水深1,200mの暗闇に生きる甲殻類「オオメダマヨコエビ」
https://www.hiroshima-u.ac.jp/news/98229
元論文
A new species of giant-eyed bathypelagic eusirid amphipod (Crustacea: Amphipoda: Eusiridae) from the western North Pacific
https://doi.org/10.1080/14772000.2026.2659885
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部

