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「攻撃が単調」「プレス強度が甘い」モロッコ戦は凡庸極まりなかったブラジル。だが、これこそが指揮官の戦略とも言える【コラム】

「攻撃が単調」「プレス強度が甘い」モロッコ戦は凡庸極まりなかったブラジル。だが、これこそが指揮官の戦略とも言える【コラム】


 北中米ワールドカップ、ブラジルはグループリーグⅭの初戦でモロッコに苦しみ、1-1と引き分けている。過去最多5回のW杯優勝を誇る王国にとって、その内容も結果も、好意的に受け入れられるはずはない。様々な問題点が指摘され、否定的な声に満ちている。

 ブラジルは開始からモロッコの強度に圧倒されてしまい、たしかにかつての面影はなかった。どうにか耐え凌いだが、結局、ルーカス・パケタのボールロストから後手に回り、寄せの甘さを突いたブライム・ディアスのパス一本を通され、呆気なく先制点を奪われている。ヴィニシウス・ジュニオールの一発で同点にし、後半はやや盛り返したが、決定機はほとんど作れなかった。

「自分たちでボールを持てず、運べない」
「攻撃でのアイデアが単調で、コンビネーションに欠ける」
「プレスの強度が甘く、連係した守備ができていない」
「ヴィニシウスのエゴを許している」
「カルロ・アンチェロッティ監督の戦略が見えない」

 批判を箇条書きにすると、そんなところになるだろうか。攻守ともに及第点に届かない。実際、当たらずとも遠からず、だ。
 
 しかし、これこそがアンチェロッティが見出した戦略である。何も真新しいものではない。イタリア人指揮官がレアル・マドリーを率いて世界王者に輝いた時代、彼の選んだ勝ち筋は、この類のものだった。守りで受け止めながら、試合の流れを見極め、カウンターで仕留める。たとえば2023-24シーズン、チャンピオンズリーグ準々決勝、マンチェスター・シティにはボール支配率4割に満たない状況で(2試合とも引き分け)勝ち上がって戴冠した。

 アンチェロッティはもともと戦術家ではない。大雑把に言えば、試合に勝てるための選手をピックアップし、そこで起こることに対応できる“撓み”を求める。規律で縛らない余白が戦術に置き換わる形だろうか。再現性や能動性に欠けるが、効率性は担保されている。守備は90分間を通してみた場合はダメージを最小限にできるし、攻撃は一発でノックアウトできる。

 言い換えれば、ボールを持てず運べなくても、攻撃のアイデアが単調で連係が乏しく、引いて守る退屈な守備でも、それは必然なのだろう。ぽきりと折れそうだが、撓みのおかげで耐えられる。それは“うまくいっていない”と見られるが、しなりに強みがあるのだ。

 ヴィニシウスはマドリーでも、アンチェロッティに欧州王者のタイトルをもたらした。どんな時も、相手ののど元に突きつけた刃になるだろう。モロッコ戦も同点弾はその形で、まるで何もないところから得点が取れるのだ。

 モロッコ戦の引き分けは凡庸極まりなかったが、王者のパターンとも言えるのだ。

文●小宮良之

【著者プロフィール】こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL TEATRO ラ・リーガ劇場』(いずれも東邦出版)など多数の書籍を出版。2018年3月に『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューを果たし、2020年12月には新作『氷上のフェニックス』が上梓された。

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配信元: SOCCER DIGEST Web

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