
映画『マジカル・シークレット・ツアー』で、有村架純演じる主人公・和歌子の夫である高志を演じた塩野瑛久。妻を無自覚に追い詰めつつも、優しさもある多面的なキャラクターにどう挑んだのか。読み合わせでのエピソードや、有村との絶妙な掛け合い、そして天野監督との現場作り、さらに自身の決断力や意外な素顔に迫るパーソナルな部分まで語った。
■演じる高志は「人間らしい部分が多い人」
本作は、人生に行き詰まりを感じている3人の女性たちが、ひょんなことから「金の密輸」という犯罪に手を染め、葛藤しながらも自らの人生を切り開いていく姿を描いた痛快なエンターテインメント作品。立場の違う女性たちの連帯と解放を、社会のリアルを交えながら描き出している。
——今回演じられた「高志」という役ですが、最初はかなり「やばい奴」という印象でした。しかし、見ているとだんだん変わっていくようなキャラクターだと思います。実際に台本を読んで、どう演じようと思ったのでしょうか。
最初は僕もどちらの人間性に振るべきか迷いました。文字だけだと、分かりやすい「クズ」にも、そうでない方にも振れるので、そこは監督としっかり相談して決めました。高志は何より人間らしい部分が多い人なのかなと思っていたんです。
あと、彼の登場が「倒れる」というところから始まるので、そこへの持っていき方は難しかったですね。予期せぬことが起きたときに普段は横暴でも突然周囲にすごく優しくなることが、人ってあると思うんです。そういったリアリティを取り入れながら、どこか同情も買ってしまうような高志の人間像が出来上がっていった感覚です。
——一筋縄ではいかない多面的なキャラクターですが、具体的に準備したことはありますか。
現場に入る前に、天野千尋監督と有村さんと僕の3人で読み合わせをしました。監督が用意したテーマについて、それぞれが役になりきって質問に答えるワークショップのようなものです。
台本をもらって間もない中で、高志の心情だけでなく「和歌子とどういう生活を送っていたか」という過去まで想像して答えるのは、難しかったですが、役への理解が深まる良い機会でした。
——他の作品でそういった取り組みをされることはあまりないのでしょうか。
意外とないですね。映画で役者さんが役作りのためにしばらく一緒に生活したという話を聞いたことがありますが、そういったアプローチに近いのかもしれません。
——その場で有村さんなどに、具体的にどういう質問をされたのですか。
監督からのテーマに「和歌子はどういう人物だと思いますか」というものがありました。僕は、第三者がいるインタビューで答えている設定で解釈し、「和歌子は主張がなく控えめで、僕が決めないとどうしていいか分からないと思うんで」と、どこかよそ行きな感じで答えました。
高志は普段は優しく、分かりやすいパワハラはしませんが、「無自覚なモラルハラスメント」だと思って演じています。優しさのつもりの言葉が和歌子に突き刺さったり、どこか下に見ているような言葉選びをする人物なのかなと。
■もともと有村さんが出演される作品を見るのが好きだった
——実際の撮影で有村さんとご一緒されてのご感想はいかがでしたか。
もともと有村さんの出演作品を見るのが好きだったので、ご一緒できて光栄でしたし、すごくやりやすかったです。特に、金の密輸が発覚する病室で、金塊がガチャンと落ちるシーンがあるのですが、有村さんの体の角度やタイミングが絶妙でした。
和歌子はすぐに回収したいし、高志も確認できないまま取られてしまう。お互い言葉を交わさずとも、急いで取り返すタイミングと引き下がるタイミングの塩梅を読み合いながら演じられたと思います。
——今回「夫婦」という役どころでしたが、恋人同士とはまた違う面白さはありましたか。
紡いできた歴史は演じる上で大事にしていました。2人はすでに絆があり、結婚というハードルを越えて一緒に生きていくと決めた人物たちです。勢いで結婚したのか、慎重に重ねた結果なのかによってその後の在り方も違うので、そこに至るまでの歴史を想像しながら作っていくのは楽しかったです。
——キャラクターの「履歴書」のような過去を想像されたのですね。
想像しました。高志は割と慎重な方だと思いますが、彼の勢いや表面的な誠実さに和歌子は惹かれたのかなと。和歌子自身は、結果的に金の密輸をしてしまうくらいなので、実はそれほど深く考えていない人だと思って演じていました(笑)。
——今回、天野監督との現場を経験されて、印象や得たものはありますか?
普段と現場では少し違う印象を受けました。こだわりを持って作品に向き合われている方なので、すり合わせていく作業は大変な部分もありましたが、出来上がった作品はやはり面白いんです。自分の中の引き出しと監督のビジョンをすり合わせる作業は、とても楽しかったです。
——監督のビジョンとしっかりディスカッションできる環境だったのでしょうか。
そうですね。現場で聞かれたことに対しても一切手を抜かず非常に熟考される方なので、次にまたご一緒する機会があれば事前にもっとお話ししておきたいなと感じました。回数を重ねるたびに、さらにより良いものが作れそうな感覚があります。
——和歌子、(黒木華演じる)清恵、(南沙良演じる)麻由の3人の女性たちの関係性について、共感できる部分はありましたか。
清恵は「女性」というところで軽視される部分が描かれていましたが、僕自身もこの業界で「名前がある・ない」で周囲の目線や扱いがガラッと変わる経験をしてきました。そうやって軽視されていると感じたことは僕の人生の中にもあるので、共感できる部分はありました。
——その時は「なにくそ」と思いながら?
そうですね。なにくそと思いながらやっている時期もありました。
——3人が葛藤しながらも解放されていく様子を見て、感じたことなどはありますか。
和歌子の視点で言うと、勢いでやってしまったことをきっかけに、これまでの「当たり前」や周囲から軽んじられていたものを突き破り、自分らしく生きる瞬間を見つけた点はすごく共感できました。それが「金の密輸」だったわけですが(笑)。なんとなく肩の荷が下りたような感覚がありましたし、僕自身も年齢を重ねる中で、守るべきことや自分のクリエイティブな部分が削ぎ落とされすぎないように生きていきたいなと思いました。
——3人の関係性をどう感じましたか。
社会に出ると、立場や肩書きのフィルターを通して人と接することが多いですよね。でも、そういったものを関係なく過ごせるあの3人の関係性は見ていて素敵でしたし、僕もそうありたいなと思いました。
——高志目線での注目ポイントを教えてください。
高志が慌てて金を隠すシーンがあるのですが、実はあそこは台本になく、ほとんどアドリブで撮った部分なんです。まさか本編で使われるとは思っていなかったので、よかったら注目してみてください。
■悩み事は自分で解決「周囲に話す時も決定事項として伝えます」
——劇中では三者三様に行き詰まった結果、あのような行動をしてしまいますが、塩野さんご自身は、後ろに引けない「崖っぷち」に立たされた時、どう行動するタイプですか?
やれるところまで絶対にやり抜くタイプです。まずは今の環境や立場で「手を尽くしたのか」と自問自答し、今の自分の手札で何ができるかを必死に探します。「これ以上できることはない」と思えたら、引き際はあっさりしていて早いです。
——これまでの俳優人生の中で、そのようなタイミングはありましたか?
ありました。その時は考えに考え抜いた上で、とにかく行動で示そうと前に出ましたね。そんなことばかりでした。
——悩む時は人に相談しますか? それとも自分で解決しますか?
圧倒的に自分で解決する方が多いです。周囲に話す時も「こうしようと思う」とほぼ決定事項として伝えます。背中を押してほしいだけで、「どう思う?」と相談することはあまりないですね。
——悩む時は、かなり時間をかけるタイプですか?
悩みますが、意外と時間はかけません。思考の深度が深いので、ズルズル長く悩むより、一気に深く潜って集中して考え、割とすぐ結論を出して上がってくる感覚です。
——1度決めてしまったらもう迷わない?
はい。そこからは迷いません。
——例えば「何を食べるか」「どこに行くか」といった日常の些細な決断も、同じような思考回路なのでしょうか。
それは全くの苦手分野です(笑)。自分でも極端だと思うのですが、哲学や人生の指針、作品について深く考えることは大好きなのに、食事のメニューや旅行の計画、予約を取ることなどは本当に苦手なんです(笑)。
——仕事と思考の深い部分以外では、かなりメリハリがあるのですね。
メリハリはあります。プライベートの決断はなかなか決まらず、結構優柔不断になってしまいますね。
——俳優の仕事以外にやってみたいことはありますか。
ドッグトレーナーをやってみたいです。犬が大好きで、しつけをするのも好きなので。怖がっているワンちゃんでも、なんとかできそうな気がします(笑)。
■取材・文=磯部正和/撮影=梁瀬玉実/スタイリスト=能城匠 (TRON)/ヘア&メーク=奥平正芳

