初夏は出荷シーズンを迎える野菜や果物が“農作物ドロボー”に狙われやすい。5月には茨城県結城市でナスの苗約900株が根こそぎ盗まれ、6月10日には栃木県宇都宮市で約1000本のトウモロコシが盗まれた。被害に遭った農家の金田裕重さん(65)は、収穫しようと訪れた自身のビニールハウスで被害を知った。普段は大きな事件の起きない静かな町だけに、本人はもちろん周囲の落胆も大きい。
被害額は約15万円、誰が盗んだ?
「なんてことしてくれたんだ……」
そう嘆くのは、金田さんが栽培したトマトやシイタケなどを買い取っているJAうつのみや南部支所の直売所店長だ。
「金田さんが作るトウモロコシは、露地栽培ではなくビニールハウス栽培です。ハウスの設営から虫害対策まで、露地栽培以上に手間がかかっているぶん、実がふっくらと大きくて甘い。楽しみにしていました。
どこの誰だか知りませんが、1000本も根こそぎ盗むなんて許せません。でもそれ以上に、金田さん本人がものすごく落ち込んでいるみたいです。奥さんも『普段は明るい父さんがものすごいショックを受けてる……』と言っていましたから」
金田さんはもともとトマトとシイタケをメインに栽培する農家で、トウモロコシ栽培は数年前から始めた。JAうつのみやの理事も務めており、周囲からの人望も厚い。その金田さんに、6月10日早朝、ビニールハウス1棟分のトウモロコシ約1000本が丸ごとなくなっているのを見た時の話を聞いた。
「トウモロコシは収穫したその日に食べるのが一番甘くて美味いから、いつも朝4時から5時に収穫して直売所へ持って行くんですよ。10日の朝4時、その日に収穫しようと思っていたハウスに行ったら、苗ごとバキバキに折られていて、跡形もなくなっていることに気づいて……」
トウモロコシ1本の価格は約150円。被害額は約15万円に上る。今年3月に種をまき、約3か月かけて育ててきたトウモロコシを、いったい誰が盗んだのか。
「良いやつはぜーんぶ盗られていました。1人で400本収穫すると2時間くらいかかる。1000本を一夜で盗ったということは、複数人の仕業だと思います」
「盗まれたこちらは考えたくもないことまで思いが巡ってしまって……」
金田さんが最後にトウモロコシを確認したのは、前日の9日午前4時頃だった。
「9日は別のシートを収穫して、『明日は真ん中のシートのトウモロコシを収穫すっぺかぁ』と思っていた矢先のことですよ」
そう言って肩を落とす。
「盗難は9日か、日付をまたいだ10日の明け方までの間にあったはずです。まさか盗まれるなんて思わないし、今回初めてこんな大量にやられたから仕方ないかとも思うけど、なんだか後味が悪いよね。
一番嫌なのは『誰がやったんだ』って誰かを疑うこと。その考えを拭い去ろうとしても、やっぱりムカムカと思いは巡っちゃうしね」
金田さんは10日昼、近くの駐在所に被害を訴えた。その後、宇都宮南署の刑事が訪れ、被害状況を説明したという。
「被害届は出しましたよ。刑事さんも防犯カメラを調べるとは言っていたけれど。だけど不思議なのは、盗んだ1000本のトウモロコシをどうしたのかなってこと。
直売所では免許がないと売れないしね。盗んだ方はしめしめと思うかもしれないけど、盗まれたこちらは考えたくもないことまで思いが巡ってしまって……」
近隣の農家にも話を聞いた。
「6月2日と3日は宇都宮市周辺に台風が近づいて、雨よりも風が強かったんですよ。露地栽培のトウモロコシがバタバタっと倒れてしまった農家もあった。
最近は農作物だけでなく、農業機械の盗難もちょいちょいあるからね。誰がやったかは分からないけど、いろいろ疑ってしまう」
JAうつのみやの理事を務める金田さんは、今後の防犯についてもこう話す。
「これから夏にかけてナシの収穫もあるしね。すでに他の地区ではナシの盗難も起きているというし。警察と市、県が合同パトロールを行うなど、引き続き防犯意識を高めていくことですよね。
盗まれた損害ももちろんだけど、やはり『誰が盗んだんだ』って疑うことそのものがキツいですから。今後はもう二度とこんな窃盗被害に遭いたくないし、誰にも遭わせたくないです」
金田さんの被害は窃盗事件として捜査が続いている。しかし、農作物の窃盗は「現行犯以外での検挙は難しい」とも言われる。被害額は約15万円。だが、3カ月かけて育てた作物と農家の無念さは金額だけでは測れない。これ以上、同様の被害が広がらないことを願うばかりだ。
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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班

