
俳優・モデルとして活躍する広瀬すずが、6月19日に28歳の誕生日を迎えた。昨今は映画やCMでの活躍も目立つが、もちろんテレビでも多くの作品でときめきをくれてきた。押しも押されもせぬトップ俳優に上り詰めた彼女の印象的な役柄を振り返ってみたい。(以下、出演作のネタバレを含みます)
■モデルとして芸能界デビュー…早くから圧倒的なスター性を発揮
2012年に「ミスセブンティーン」に選ばれ、中学生でモデルとして芸能界入りした広瀬のキャリアは、早い段階から特別感があった。映画「海街diary」(2015年)では四姉妹の末妹・浅野すずを演じ、瑞々しい透明感を印象付ける。父親を亡くし、3人の異母姉のもとへ迎え入れられる。ここでは当時17歳の広瀬ならではの、画面の中心にいることが自然に感じられるスター性がすでにあった。
もっともそれは派手な芝居によるものではない。父を亡くした喪失感や、新しい家族との距離感への戸惑い、少しずつ居場所を見つけていく喜びと、10代の少女らしい細かな機微を佇まいで伝えた。
彼女の代表作を一つ挙げろと言われれば、映画「ちはやふる」シリーズを思い浮かべる人が多いかもしれない。本作は2016年に「上の句」「下の句」の2部作で実写映画化し、200万人を超える観客動員数を記録するなど、大ヒットした。ヒットの要因には、期待の若手俳優が集結したこともあるだろうが、広瀬のヒロイン力、そして緩急をきかせた芝居心も挙げられるだろう。
彼女が演じた綾瀬千早は、かるたにかけては周囲が見えなくなる一直線な少女で、天才肌だが恋愛にはやや鈍感。広瀬は千早を天才少女としてではなく、かるたへの衝動を抑えられない人として演じた。競技中の鋭い視線や、理屈よりも感覚が先に走る振る舞いからくる千早の強さは、広瀬自身が持つエネルギーによって説得力を増す。かるたから離れれば、どこにでもいそうな10代の少女になって、屈託のない表情を見せていた。この緩急から、千早のいわば生命力を感じるのだ。
また、かるたは男女混合競技であり、女子も男子と対等に戦うパワー競技でもある。男女の差なくキャストの情熱のぶつかり合いになったことで、のちに新たなドラマへもつながるヒット作となった。その真ん中で主役を張れた広瀬のスター性も十分に証明した。
■朝ドラ100作目の記念作でヒロインに
その資質は、朝ドラ100作目のヒロインに抜てきされた「なつぞら」(2019年、NHK総合ほか)の奥原なつ役でも発揮される。戦争孤児のなつは北海道で育ち、やがてアニメーターとして働き始めるが、その人生は劇的な成功譚ではない。アニメーターとはいえ日本アニメ界の歴史に名を残す偉人になるわけでもない。なつが歩んだのは困難はありながらも結婚し、子どもを産み、着実に仕事を続けるという、多くの人が実際に生きる人生だった。酪農の仕事に汗を流し、家族と食卓を囲み、ときには反発しながら成長していく。
ヒロイン然とした特別さよりも、そこで確かに暮らしている少女の実感が伝わってきた。一方で上京後のなつは、東洋動画のオフィスで先輩たちに囲まれながら仕事を覚え、やがてクリエイターとして自分の居場所を見つけていく。その姿は十勝時代とは全く異なるが、こちらもまた自然だった。
2023年にTBS系で放送されたドラマ「夕暮れに、手をつなぐ」(ディズニープラスで配信中)も、他に代えがきかない広瀬の個性を生かしたドラマになった。彼女が演じた浅葱空豆は、九州の田舎町で育ち、フィアンセを追って上京したが彼に振られる。しかし実は母譲りのデザインの才があり、東京で才能を開花させていきつつ、偶然出会ったコンポーザーの海野音(永瀬廉)と心を通わせていく。
空豆は田舎育ちで、ゴリゴリの九州弁を使い私服も垢抜けない。しかしデザイナーとしては天才肌で、性格も素直。こういう生活感たっぷりなキャラクターを東京を舞台にしたラブストーリーのヒロインに据えるのはなかなか難しいが、広瀬はよく笑い、よく泣くストレートな感情の芝居で作品を彩った。
音楽一筋の寡黙な青年だった音が空豆と同居を始めて、彼女の奔放な言動に引かれていくのも納得だ。芸能界にデザイン界と、時には嫉妬や陰謀もある世界が舞台だが、そこに雲の上の存在ではない、“笑顔の人”でいい意味で田舎っぽさをとどめている空豆がいることで、身近な物語として共感したくなる。俳優として感情の引き出しが自在なだけでなく、フィクションの中でも私たちの身近にいそうな、意志と活力を持った人として存在感を示せる。どんな作風でも広瀬が必要とされる理由はこれに尽きるだろう。

■国民的ヒロインから魔性の魅力を持つ役も
そんなふうに国民的ヒロインの座を確固たるものにしてきたところに、魔性の魅力を開花させたのが2025年公開の映画「ゆきてかへらぬ」だ。中原中也と小林秀雄という文学界の巨星2人に愛される女優・長谷川泰子を演じた。これまで透明感や親しみやすさとして語られることが多かった広瀬のスター性が、もっと原始的な力として機能している。すなわちその美しさで絶対的な男性への誘惑となり、かつ意図せずとも男たちを離さないファム・ファタール(運命の女)ぶりを銀幕に刻んだ。
バンカラスタイルの中也(木戸大聖)とローラースケートに興じ、あるいはモガよろしくダンスホールで踊り、和装で色街を闊歩する…と全てが絵になる上に、当時の女優ならさもありなんという華もぴったり。
若さゆえに中也との向こう見ずな色恋もほどなく不協和音だらけになるし、そこを秀雄(岡田将生)に見初められて家庭に入るが、女優の泰子に良き妻でいることなど耐えられない。スクリーンの外でも主役でいたい、プライドの高い彼女がヒステリックになる様まで生々しく演じた。秀雄は戦後も活躍するが中也は早世し、泰子も戦後は表舞台から姿を消す。才能はあるが生活力は低い、つまりは芸術の世界でしか生きられなかった若者(特に中也と泰子)の生き様を美しく描ききるという根岸吉太郎監督の期待にも応えた。
昨今はCMでもサントリー「ザ・プレミアム・モルツ」の『プレモル子ちゃん篇』で大人になったまる子として世界を闊歩していた広瀬。感情たっぷりの笑顔がチャーミングなのは「なつぞら」のなつや、「夕暮れに、手をつなぐ」の空豆にも通ずるが、この人がいるだけでその作品には特別な華が増す。三井不動産のCMではついに「三井のすずちゃん」として、本名そのものでアイコンにもなってしまった。
どんな作品を通しても生き生きしていて、日常にときめきをくれる。それこそが国民的女優たるゆえんだろう。
◆取材・文=大宮高史

