青森県八戸市のみちのく記念病院の、精神科に入院する患者同士で起きた殺人事件をめぐり、大学教授らが18日、加害者と被害者に対して違法な身体拘束が行なわれていた疑いがあるとして当時の理事長や主治医、看護師を刑事告発した。告発人らは、懲罰的な身体拘束が常態化し、それが殺人事件の背景になったとみている。告発状は同日、八戸署に受理された。
身体拘束が殺人の引き金になった
今回の殺人事件が起きたのは、青森県八戸市にある、みちのく記念病院。2023年3月12日深夜、入院患者の佐々木人志が、同室の高橋生悦の左まぶたに歯ブラシの柄を何度も突き刺し、死亡させた。佐々木は2024年7月、殺人罪で有罪判決を受けている。
裁判資料によると、高橋は就寝前、女性看護師によって両手をひもでベッドの柵に固定されていた。身体を自由に動かせない状態のまま佐々木に襲われ、逃げることも身を守ることもできなかった。判決によると、佐々木は身体が不自由で抵抗しにくいことを理由に、高橋を狙ったとされる。
佐々木には盗癖があった。ほかの患者らの金品を盗むたびに、女性看護師による身体拘束を受けていた。
告発人らは、こうした拘束のあり方について、治療ではなく患者の管理や懲罰の手段になっていた可能性があるとみている。
裁判資料や取材に応じた同僚の看護師によると、佐々木に対する身体拘束は一時的な措置にとどまらず、断続的に繰り返されていた。さらに事件前日には、女性看護師から「次に盗めば両手を上げて拘束する」と告げられていた。
判決では、拘束を強化したことが犯行の引き金になったと認定された。裁判で佐々木は、殺人の動機についてこんな趣旨の説明をしている。
「抑制の方法が厳しくなったため、入院生活に耐えられなくなった」
「人を殺害すれば警察に逮捕されて直ちに退院できると考えた」
事件後、当時の理事長だった石山隆と、その弟で主治医の石山哲は、死因を「肺炎」とする虚偽の死亡診断書を作成することに関わり、事件を隠そうとしたとして、犯人隠避の罪に問われている。このうち隆については先に審理が行われ、25年11月に懲役1年6カ月(執行猶予3年)の有罪判決が確定している。
問われる身体拘束の正当性
告発人は、精神医療の問題を追及している杏林大学保健学部の長谷川利夫教授と日本医療科学大学の浅野暁子助教ら。佐々木と高橋の双方に違法な身体拘束をしていたとして、石山隆と石山哲、そして元看護師の女性を告発した。
長谷川教授らは裁判資料や病院関係者の証言を基に、女性看護師による高橋と佐々木への身体拘束が「逮捕監禁罪」に当たると指摘している。石山兄弟については、こうした違法な身体拘束を認識しながら放置していたとして、「ほう助罪」に当たると主張している。
身体拘束は、患者本人や周囲に重大な危険が及ぶおそれがある場合に限って認められる措置で、精神保健指定医が必要性を判断しなければならない。また、拘束後も継続の必要性を慎重に検討し、解除に向けた対応が求められている。
ところが告発状によると、同院ではこうした手続きが守られていなかった。女性看護師が精神保健指定医の判断を経ず、独断で患者を身体拘束してきたと指摘されている。事件当夜には、高橋がおむつ交換の際に暴れることを理由に拘束したという。
長谷川教授は刑事告発の狙いをこう語る。
「今回問いたいのは、個々の違法行為だけではありません。なぜ、患者を縛ることが、管理や懲罰、人を支配する手段として病院内で許されていたのか。被害者は抵抗する手段を奪われ、加害者は懲罰的な拘束によって追い詰められていた。犯人隠避ではなく、身体拘束が人の尊厳を奪い、命を奪う結果につながったことこそ、この事件の核心だと考えています」
今回の告発は、精神医療における身体拘束と人権と尊厳の問題を、改めて社会に問いかけている。
取材・文/窪田新之助

