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5500年前のシベリアで「最古のペスト流行」を発見

5500年前のシベリアで「最古のペスト流行」を発見

Ust’-Ida Iの遺体。ペスト菌の痕跡が発見される / Credit:Ruairidh Macleod(University of Copenhagen)et al., Nature(2026), CC BY 4.0

ペストと聞くと、多くの人は中世ヨーロッパを襲った「黒死病」を思い浮かべるかもしれません。

しかし新たな研究は、この病が都市や高密度の農耕社会だけのものではなく、約5500年前のシベリアの狩猟採集民社会をすでに襲っていた可能性を示しました。

デンマーク・コペンハーゲン大学(University of Copenhagen)などの研究チームは、バイカル湖周辺の墓地に葬られた人々の古代DNAを解析し、46人中18人からペスト菌(Yersinia pestis)を検出したと報告しています。

この発見は、ペストが単に古代人に感染していたのではなく、家族や子どもたちを巻き込む致死的な流行を起こしていたことを示す、最古級の証拠となるものです。

研究成果は、2026年6月17日付で科学誌『Nature』に掲載されました。

目次

  • シベリアの墓地に眠る「5500年前」の狩猟採集民18人からペスト菌の痕跡が見つかる
  • 家族と子どもを襲った「5500年前のペスト」の原因は?

シベリアの墓地に眠る「5500年前」の狩猟採集民18人からペスト菌の痕跡が見つかる

ペストは、ペスト菌によって引き起こされる感染症です。

歴史上もっとも有名なのは、14世紀のヨーロッパで猛威をふるった「黒死病」です。

黒死病という名は、症状が進行すると敗血症を引き起こし、皮下出血によって皮膚や手足が黒く変色・壊死することから来ています。

そして当時の黒死病では、ネズミなどのげっ歯類に寄生するノミがペスト菌を運び、人に感染を広げたと考えられています。

そのためペストは、人口が密集した都市、家畜やネズミとの近い生活、定住化や農耕の拡大と結びつけて語られてきました。

一方で、近年の古代DNA研究により、ペスト菌そのものは5000年以上前のユーラシアにも存在していたことが分かっていました。

ただし、初期のペスト菌は、後の腺ペストの成立に重要な遺伝子を一部欠いていました。

そのため「古代のペスト菌は本当に人を死なせるほど危険だったのか」「単に感染していただけではないのか」という議論が続いていたのです。

そこで研究チームは、シベリア南東部のバイカル湖周辺、アンガラ川沿いにある4つの墓地に注目。

彼らは、後期新石器時代の狩猟採集民46人の古代DNAを解析し、骨や歯に残された病原体の痕跡を調べました。

その結果、18人からペスト菌のDNAが検出されました。

解析した個体のうち、ペスト菌DNAが検出された割合は全体で39%に達し、調べられた病原体の中でもペスト菌は際立って多く見つかっています。

さらに研究チームは、放射性炭素年代測定、細菌ゲノムの比較、埋葬のされ方、死者同士の親族関係を組み合わせ、ペストが少なくとも2回の流行を起こしていた可能性を示しました。

第1波は約5520〜5265年前、第2波は約5315〜4235年前に位置づけられています。

ただし第2波の年代幅は広く、論文では最も可能性が高い範囲をおよそ5050〜4850年前としています。

では、それらの流行はどのように人々を襲ったのでしょうか。

家族と子どもを襲った「5500年前のペスト」の原因は?

今回の研究で特に印象的なのは、ペストが個人ではなく、家族や小さな共同体を襲ったように見える点です。

たとえばBratskii Kamenという墓地では、4〜9歳の少女3人が同じ墓に埋葬されていました。

そのうち2人は従姉妹にあたる可能性が高く、3人はいずれも母系の近い親族だったと考えられています。

そして、この3人全員からペスト菌のDNAが検出されました。

またUst’-Ida Iという墓地では、叔母と甥にあたる人物が同じ墓に埋葬され、どちらからもペスト菌が見つかっています。

こうした結果は、ペストが無関係な人々に偶然見つかっただけではなく、家族や近い共同体の中で広がった可能性とよく合います。

ただし、血縁者だけに感染が集中したと断定できるわけではありません。

さらに、墓の年代や血縁関係を調べると、第1波の流行は1世代以内、場合によってはかなり短い期間に起きたと考えられます。

これは、長期間にわたる散発的な感染ではなく、急速に広がった感染症だった可能性を強めるものです。

死亡年齢にも大きな特徴がありました。

Ust’-Ida IとBratskii Kamenでは、他のバイカル湖周辺の墓地に比べて、子どもの死亡が非常に目立っていました。

特に7.5〜11歳前後、論文の要旨では8〜11歳の子どもで急性死亡が目立ったとされています。

また、感染の起点として研究チームが有力視しているのは、マーモットなどの野生動物です。

現在のバイカル湖周辺でも、マーモットはペスト菌の重要な自然宿主として知られています。

そのため、狩猟や解体などの接触を通じて、菌が動物から人へ飛び移った可能性があります。

その後、近い距離での接触や、場合によっては飛沫・エアロゾルを通じて人から人へ広がった可能性があるようです。

ただし、古代DNAだけで症状までは復元できないため、「肺ペストだった」と断定することはできません。

さらに今回の菌株は、既知の古代・現代ペスト菌よりも系統樹の根元に近い位置にあり、ペスト菌の成立が少なくとも約5700年前以前にさかのぼることも示しました。

この発見が重要なのは、ペストのような致死的な流行には都市や農耕社会が必要だったという見方を揺さぶるからです。

約5500年前のバイカル湖周辺の人々は、都市住民でも農耕民でもありませんでした。

彼らは移動性のある狩猟採集民であり、犬以外の家畜も基本的には存在しませんでした。

それでも、野生動物との接触をきっかけに、家族や子どもたちを巻き込む深刻な人獣共通感染症が起こり得たのです。

ペストの歴史は、黒死病の石畳の街から始まったのではなく、もっと古い森と川辺の共同体にまでさかのぼるのかもしれません。

参考文献

The oldest known plague outbreak struck Siberian hunter gatherers 5,500 years ago
https://www.zmescience.com/science/news-science/the-oldest-known-plague-outbreak-struck-siberian-hunter-gatherers-5500-years-ago/

Unearthing A 5,500-Year-Old Tragedy: The Oldest Known Outbreak Of Plague Has Been Found In Siberia
https://www.iflscience.com/unearthing-a-5500-year-old-tragedy-the-oldest-known-outbreak-of-plague-has-been-found-in-siberia-83830

元論文

Lethal plague outbreaks in Lake Baikal hunter-gatherers 5,500 years ago
https://doi.org/10.1038/s41586-026-10540-5

ライター

矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。

編集者

ナゾロジー 編集部

配信元: ナゾロジー

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