今年の9月下旬から10月上旬にかけて、名古屋市で「第20回アジア競技大会」が開催される。先日、そのテニス競技の日本代表メンバーが発表された。
男子シングルスは、実績豊富な綿貫陽介と、昨年末大躍進した21歳の松岡隼。ダブルスは、社会人ながら日本トップの実力を誇る中川舜祐/楠原悠介ペア。そしてATPチャレンジャータイトルも持つ磯村志と、フレンド・ジェイ ディラン ハラである。なおフレンドは、柴原瑛菜と組み混合ダブルスにも出る予定だ。
幼少期に日本を離れアメリカの大学に進学したフレンドは、日本ではあまり知られていない存在かもしれない。ただフレンドは既に昨年、大学生たちの総合競技大会「ワールドユニバーシティゲームズ」(ドイツ)に日本代表として出場。団体戦、男子シングルス、さらには吉本菜月と組んだ混合ダブルスでも金メダル獲得という、八面六臂の大活躍を見せた。昨年10月には、米国開催のATPチャレンジャーでも予選から7つの白星を連ねて優勝。現在はシングルスの世界407位につけている。
日本人の母とニュージーランド人の父を持つフレンドが、テニスを始めたのは7歳の時。父親の仕事の関係で、シンガポールにいる時だった。
もっとも世界のどこにいようとも、フレンドがテニスラケットを手にするのは時間の問題だったろう。彼の母親の原広子さんは、グランドスラムのジュニア部門にも出場しているテニス選手。大学に進学したこともあり若くして第一線からは距離を置いたが、伊達公子さんや沢松奈生子さんらと同じ時代を駆け抜けた。
「14歳まで、僕のコーチでもあった」という母・広子さんの指導理念は、まずは何よりテニスに向き合う姿勢にあったという。
「練習中に、もし僕が泣き言を言ったり、投げやりな態度を取ったら、彼女はすぐにその場を去り練習は中止になった」
だから必然的に、「僕のコートマナーはとても良くなった」とフレンドは言う。
シンガポールに移った後も、オーストラリアやオランダで暮らし、18歳の時には本格的にテニスに打ち込むべく、スペインのアカデミーの門も叩いた。ただ当時のフレンドは「ケガが多かったし、ITF大会に出てもランキングポイントを得ることができなかった」という。だから高校卒業後、アメリカの大学に進むことに迷いはなかった。
数ある選択肢の中からアリゾナ大学を選んだのは、「ヘッドコーチをはじめ、指導者たちが素晴らしかった」から。実際に大学での彼は、日々、自分の成長を感じることができたという。
フレンドのテニスは、ジュニア時代から一貫して「フォアハンドで攻め、浅いボールが来たら前に踏み込み、ネットにもどんどん出る」という超アグレッシブスタイル。ただジュニアの頃はフィジカル不足もあり、プレーが安定しなかった。
「それが、僕がジュニア時代には結果を残せなかった理由。どんなボールも全力で打つことしか考えていなかった」と、22歳になった彼は恥ずかしそうに打ち明けた。
細身でケガの多かったフレンドが、自分の急成長を実感するのに、さほど時間はかからなかったという。大学に進みフィジカルを鍛え、チームメートと切磋琢磨する中で「色んなことがカチリと噛み合う」音を彼は聞いた。
「大学でトレーニングを重ね、フィジカルが強くなったのは大きい。けれど、もっと大きいのは精神面だと思う」と彼は明るく断言する。
「大学では、以前よりも集中して練習に打ち込むようになった。1日でも気の抜けた姿を見せたら、コーチは僕を試合で使ってくれないから。良いチームメートに囲まれ、日々時間を無駄にせずコートに立つ。それが、成長できた最大の鍵だと思う」
1分1秒たりとも無駄にせずコートに向かうその姿勢は、学問においても同様なのだろう。全教科の総合成績を4.00から0.00で評価する『GPA(グレードポイントアベレージ)』において、フレンドのそれは3.85。文武両道を邁進している。
大学で多くの団体戦を経験し、仲間と戦う一体感や勝利を分かち合う喜びを知るからだろうか。フレンドは「ユニバーシティゲームズで日本代表として過ごした日々は、たぶん人生で最高の1週間だった」と振り返る。多くの友人もできた。国を代表するという、子どもの頃から憧れていた栄光も手にした。
「日本代表として勝ちたい。歴史に名を残したいという気持ちが誰よりも強かったことが、僕が勝てた理由」だとフレンドは言う。3冠に輝いた日の夜、彼は3つの金メダルと一緒に眠った。
この初夏に大学を卒業したフレンドは、いよいよ本格的にツアーを回り始める。当面の目標は、8月末の全米オープン予選出場。そして今現在の最大の夢は、日本代表として、2028年ロサンゼルスオリンピックに出ること。
多様なバックグラウンドを映すように、彼が歩んできたカラフルに彩られた道。そしてその道は今、真っすぐに夢へと伸びている。
取材・文●内田暁
【動画】フレンドが金メダルを獲得した「ワールドユニバーシティゲームズ」男子シングルス決勝ハイライト(8分25秒から)
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