「健康にいいから」「映えるから」等々の理由で、世界を席巻する空前の抹茶ブームが起きている。だがそんな盛り上がりの裏で、日本の茶業界が今、価格高騰や品薄のみならず「品質汚染」の危機に直面していることが明らかになった。
本来、抹茶とは日光を遮り、手間暇かけて育てた「てん茶」のみを指す。つまり粉末にした煎茶とは成分も風味も全く別物なのだが、抹茶の原料となる「てん茶」の入札価格が、ここ1年で2倍にハネ上がった。
その収益に釣られた農家がこぞって、煎茶からてん茶へと生産転換。ペットボトル飲料などの原料となる「秋冬番茶」までもが品薄になり、世界的にお茶全体の価格が跳ね上がっている。
経済ジャーナリストの話を聞こう。
「私たちが飲んでいるペットボトル緑茶もじわじわと価格が高騰していますが、実はこれも世界的な抹茶の争奪戦が引き起こした、需給バランスの崩壊にほかなりません。この抹茶バブルの巨大な震源地と言われるのが、中国の最貧困層から『抹茶の都』へと変貌を遂げた貴州省銅仁市です」
一帯には海抜1000メートルの山々が広がっているのだが、そこに突如として、世界最大の抹茶工場が出現。
「工場には『抹茶は中国・魏晋時代が起源』と主張する看板が堂々と掲げられ、日本から導入した最新技術と品種、さらに圧倒的な低賃金労働力を武器に、生産量をこの4年で6倍に増大させています」(前出・経済ジャーナリスト)
このエリアでの2026年の生産予測は5000トンを超え、日本の年間国内生産量に匹敵する勢いに。現地企業は「数年後には日本ブランドを凌駕する」と鼻息が荒い。
中国産なのに「宇治」という屋号のブースが商談会に登場
さらに恐ろしいのは、市場の混乱に乗じた「抹茶偽装」の横行だ。高級抹茶を製造する老舗茶園の幹部によれば、品質の悪い茶葉をただ粉砕しただけの粉末を「抹茶」と称して安価に売りさばく業者があとを絶たないというのだ。
「海外の商談会では、中国産でありながら『宇治』という屋号を冠したブースが堂々と出展されるなど、消費者を欺く売り方が常態化しています。質の低いニセ抹茶が世界中に流通すれば、これまで日本が世界市場で築き上げた日本茶ブランドそのものが地に落ちてしまう」(前出・経済ジャーナリスト)
日本の茶業界は今まさに、未曾有の危機に見舞われていると言っていい。
はたして我々がコンビニで手に取っている飲み物は、真の日本の逸品なのか、それとも「自称・抹茶の都」からやってきた、名前だけの模造品なのか。静かなる緑の侵略は、食卓の未来を確実に変えようとしているようである。
(灯倫太郎)

