誰も住んでいない一軒家宛の配達物をきっかけに、郵便局員が知ったのは、姉妹が命を落とした理由。やがて妹の怨念は、かつて自身を追い詰めた人を襲う……。作者の送達ねこ氏に、この漫画に込めた意味を聞いた。〈漫画『85円の遺言』第2話〉
「郵便局員×ホラー」異色の組み合わせを描く漫画家
漫画家・送達ねこ氏による『85円の遺言』は、郵便局員たちが幽霊と出会い、彼らが生前に抱えていた事情や思いを知りながら、大切なものを届けていく物語だ。
怪異を題材にした漫画は数多くあるが、本作で描かれるのは「郵便配達」と「霊」という、少し変わった組み合わせ。日常の中にある配達という仕事を通して、亡くなった人の思いや、残された人の感情が丁寧に描かれる。
なぜ、このような物語を描こうと思ったのか。送達ねこ氏は、郵便局員という仕事が、さまざまな人の人生に触れる仕事であることを理由に挙げる。
「郵便局員は家々をめぐって、思いのこもった手紙や、人生を左右するような大切な通知を届けます。訪問先で人間ドラマに立ち会うことも少なくありません。
そうした生活の物語とともに、それぞれの家には、今は亡くなった人のドラマもあるのではないかと思いました。この世を去った人が、生きている人へ伝えたかった思いを、“霊が見える配達員”を通して描きたいと思いました」
送達ねこ氏自身、実際に郵便局で働いている。その経験も、作品づくりに活かされているという。
「郵便の中でも、特に配達員は、普通なら踏み込まないような場所にも配達に行きます。なので、変わった経験をする人もいます。
この漫画は、郵便局員たちから教えてもらった不思議な体験をベースに描き始めました。現場の風景と不思議な現象を形にして残したいというのは、大きなモチベーションになっています」
では、怪異の物語を描く送達ねこ氏自身は、実際に不思議な体験をしたことがあるのだろうか。
「特に霊感が強いわけではないのですが、不思議な経験はいくつかあります。ひとつは十代のある夜のことです。ふとんに入ってすぐ、誰かが上に乗ってグッと押してくる感覚がありました。部屋は真っ暗で、私ひとりです。その気配は少し続いて、やがてやみました」
翌朝、送達ねこ氏は「誰か亡くなったと思う」と友人に話しながら登校したという。すると、その日の朝礼で、体育のS先生が亡くなったことを知らされた。
「当時、所属していた部活の顧問の家によく部員や若い先生が集まって過ごしていて、S先生はその一人でした。帰りは家までマラソンをして送ってくれた先生です。入院したとは聞いていましたが、命にかかわる病気だとは思っていなかったので驚きました」
前夜の出来事は、S先生と関わりがあったのではないか。送達ねこ氏は、そう感じたという。
「だとしたら、数百キロ離れた病院からどうやって来られたのか……。じき退院すると思っていた私は、お見舞いのハガキを病院宛てに出していました。
もしかしたら返事をしようとして来てくれたのではないか。人の存在や思いは、死後も残るのではないか。そう思うようになった体験で、この出来事が、不思議な漫画を描く元になっています」
『85円の遺言』では霊や怪異をモチーフにしながらも、怖いだけではなく、どこか切なく、やりきれない出来事の数々を描く。
第1話では、誰も住んでいない一軒家宛の配達物をきっかけに、ある姉妹の死の真相が明らかとなった。霊となった彼女たちが本当に望んでいるものとは何なのか。そして、郵便局員たちはその思いを届けることができるのか。
『85円の遺言』第2話をお届けする。
「毎月第3土曜日18時配信」
文/集英社オンライン編集部
次回:7月18日(土)配信予定
※毎月第3土曜日更新

