サッカーの世界はワールドカップたけなわだが、その裏でシーズンオフを迎えている欧州のクラブチームは、バカンスもそこそこに新シーズンに向けた体制作りに取り組み始めている。
イタリア・セリエAでは、終盤戦の失速でチャンピオンズリーグ出場権を逃したミラン、ユベントスをはじめ、少なくないクラブが強化責任者や監督のクビをすげ替え、新たなプロジェクトを立ち上げて新シーズンに臨もうとしている。
「心機一転」「新規まき直し」と言うと聞こえはいい。しかし問題は、少なくないクラブがそうやって立ち上げたプロジェクトを軌道に乗せることができないまま、1年か2年で投げ出しては出直すということを繰り返しているところにある。
ちょうど1年前、弱冠30歳のスペイン人監督カルロス・クエスタを迎えたパルマのフェデリコ・ケルビーニCEOは、こんなことを言っていた。
「ここイタリアでは『プロジェクト』という言葉を非常に良く耳にする。しかしイタリアにおける監督の平均在任期間はわずか300日強に過ぎない。この事実は、私たちが複数年にわたるプロジェクトを託したはずの監督を、ほとんど常にそのシーズンの終わり、あるいは次のシーズンの途中には解任して中断させることを意味する」
実際、2025-26シーズンのセリエA上位8チーム中、1年前と同じ監督の下で26-27シーズンに臨もうとしているのは、優勝したインテル、3位ローマ、4位コモの3チームだけ。残る6チームは、昨季途中就任したルチャーノ・スパレッティが続投する6位ユベントスも含めて、昨シーズン開幕時とは異なる監督の下で開幕を迎えることになる。
あまりにも簡単にプロジェクトを放棄するがゆえに、クラブとして継続的な成功の基盤を築くことができないというのは、イタリアサッカー界が抱えている病巣と言っていい。プレミアリーグのアーセナルでプレーしているイタリア代表のリッカルド・カラフィオーリは、在任7年目にして初めてプレミアリーグを勝ち取ったミケル・アルテタ監督についてこう言っていたものだ。「イタリアなら待ってもらえなかっただろう」。
アルテタがチャンピオンズリーグ出場権を初めて勝ち取ったのは、就任4年目の22-23シーズン。その年も含めて3年連続2位となり、今シーズンついに頂点に立った。カラフィオーリが言うように、これがもしイタリアなら、おそらく就任3年目の21-22に残り2試合で5位に転落してCL出場権を逃した時点で、あるいは3年続けてあと一歩で優勝に手が届かなかったどこかのタイミングで、「勝てない監督」という烙印を押されてクビになっていたことだろう。
アーセナルのこのケースを見てもわかるように、仮にも複数シーズンにわたる「プロジェクト」を掲げるならば、目先の勝利に恵まれない時にも、それに振り回されることなく選んだ道を進む意志と忍耐力が、継続性を持った成功を手に入れるための鍵であると言えるだろう。逆に言えば、そうした長期的視点と忍耐力の欠如、短期的な結果に過剰なまでに振り回される気質と文化が、イタリアサッカー低迷の原因の一端となっているということだ。
ここで改めて、「プロジェクトの継続性」という観点から上位8チームに目を向けてみよう。それぞれどのような課題を抱えて新シーズンに向けた準備を進めようとしているのか、さらには継続性を持った成功に向けた基盤がどれだけ整っているのかが見えてくるはずだ。
インテルは、就任1年目でスクデットをもたらしたクリスティアン・キブ監督との契約を2028年まで延長した。前任のシモーネ・インザーギ体制が4年続いたこと、強化部門でもピエロ・アウジリオSD(スポーツダイレクター)が13-14シーズンから14年に渡って責任者を務めていることを見ても、「プロジェクトの継続性」という観点から見て最も進んだところにいるクラブだと言っていい。それは過去6シーズンで優勝3回、2位2回というピッチ上の結果にもはっきりと表われている。
ナポリは、24-25のスクデットに続き昨シーズンも2位とピッチ上では安定した結果を残している。しかし、ここ2年間チームを率いたアントニオ・コンテ監督は、「ここには私が監督を続けていく環境がない。勝利のために不可欠な結束を作り出すことができなかった」と語り、自ら去るという決断を下した。
財務的な健全性を含め、経営レベルでは最も安定したクラブのひとつだが、チーム強化にまで介入するワンマン経営体質のアウレリオ・デ・ラウレンティス会長と監督の間に軋轢が生じることが多く、近年は長くとも2年で監督が替わる流れが続いている。新監督として招聘されたのは、ミランを1年で去ることになったマッシミリアーノ・アッレーグリ。前任のコンテとはまたコンセプトの異なるサッカーで、チームの再構築を図る。
新監督ジャン・ピエロ・ガスペリーニの下で3位に入り、フリードキン家がオーナーになって6年目で初めてCL出場権を勝ち取ったローマは、そのガスペリーニを改めてプロジェクトの中心に据える形でクラブ側の体制を再構築して新シーズンに臨む。シーズン終盤、オーナーのアドバイザーという立場でクラブ運営に大きな影響力を及ぼしてきた前監督クラウディオ・ラニエリとガスペリーニの対立が表面化するという混乱があったが、オーナーはラニエリを切る決断でこれを収束させた。
それを受ける形で、ラニエリが選んだがガスペリーニと合わなかった強化責任者のフレデリック・マッサーラも解任し、アタランタ時代にガスペリーニと組んでいたトニー・ダミーコを招聘。アタランタで9年の長期政権を築き、際立った結果を残した名伯楽を信頼し、指揮官が最も仕事をしやすい環境を整えた格好だ。これは「プロジェクトの継続性」という観点に立てば理にかなったアプローチ。後は、もし仮に目先の結果が伴わない時に我慢できるかどうかが勝負だろう。
ミラン、ユベントスを蹴落とす形で4位に入ったコモは、その立役者であるセスク・ファブレガス監督が続投。セリエB時代の23-24に途中就任でチームを昇格に導いてから足掛け4シーズン目という在任期間は、現在のセリエAでは最長である。セスクはチームの現場に関してだけでなく、クラブの戦略そのものにかかわる意思決定にも深く関与する立場にあり、コモをこれだけの躍進に導いた文字通りのキーパーソン。監督がここまで深くクラブ戦略に関与していること自体は特殊なケースと言うべきだが、監督を中核に据えたプロジェクトの継続性が成功の秘密という点で、模範的な事例であることに変わりはないだろう。
現時点において最も混乱した状況にあるのは、間違いなく5位に終わったミラン。シーズン終盤までほぼ確実と見られていたCL出場権を逃した責任を問う形で、ジョルジョ・フルラーニCEO、ジョフロワ・モンカダTD、イグリ・ターレSD、アッレーグリ監督と、経営トップから現場の指揮官までをまるごと解任。しかもそれから3週間以上を後任探しに費やした末、何とか監督にはルベン・アモリムが決まったものの、強化責任者から上のポストは今も空席のままという異常な状態が続いている。これについては、機会を改めて掘り下げることにしたい。
同じように6位止まりに終わってCL出場権を逃したユベントスは、スパレッティ監督が続投する一方で、クラブ経営のトップだったダミアン・コモリCEOを就任からわずか1年で解任し、経営と強化の体制を再構築するという選択に踏み切った。2022年末にアンドレア・アニェッリ前会長以下経営陣が不正会計問題の責任を取って総辞職して以降、経営、強化、チームの現場という3つのレベルのいずれにおいても継続性が確立できないまま、人が入れ替わる混迷に終止符を打つことができずにいる。
新たに経営トップの座についたジョバンニ・カルネバーリは、14年間CEOを務めたサッスオーロで「プロジェクトの継続性」の模範のような成果を残してきたイタリア有数のクラブ経営者。こちらも機会を改めて現状と展望を掘り下げられればと思っている。
9年続いたガスペリーニ体制の後、監督を途中交代するなど不安定な1年を送った7位アタランタは、2010年代後半にナポリで大きな成果を残したクリスティアーノ・ジュントリSDとマウリツィオ・サッリ監督のコンビを新たに招聘し、まったく新しいプロジェクトをスタートさせる。ガスペリーニ時代から10年間続いたマンツーマンの3バックから、サッリが奉ずる完全ゾーンの4バックへの移行は、強化からチームの現場まですべての領域にわたって大きなインパクトをもたらすはず。クラブ全体がそれをうまく吸収・消化できるかは注目に値する。
8位ボローニャ以下、昇格組の3チームも含めた12チーム中、監督が続投するのは10位ウディネーゼ(コスタ・ルニャイッチ)、13位パルマ(クエスタ)、14位カリアリ(ファビオ・ピサカーネ)、16位ジェノア(ダニエレ・デ・ロッシ)、17位レッチェ(エウゼビオ・ディ・フランチェスコ)、そして昇格組のヴェネツィア(ジョバンニ・ストロッパ)の6チーム。とはいえ在任3シーズン目を迎えるのはルニャイッチただ1人で、監督の立場が相対的に不安定なことに変わりはない。この中から継続性を持った成功と成長を実現するクラブが現れることを期待したいところだ。
文●片野道郎
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