背筋が凍る映像だった。6月19日午前11時過ぎに発生した、小学校火災である。
東京都北区滝野川の、区立滝野川第三小学校4階にある音楽準備室から出火。音楽準備室のさらにその先にある袋小路の音楽室で、リコーダー演奏などの授業中だった小学5年生が業火の中に取り残された。
別の部屋にいたクラス担任の男性教師は燃えさかる火をくぐり音楽室に駆けつけたが、音楽室外の防火シャッターが降りてしまったため、全員をすぐに避難誘導できないと判断。児童ひとりひとりを抱えて、窓の外の数十センチ幅のひさしに避難させたという。大人でも足がすくむ高さで、恐怖のあまりパニックになってしまった児童1人が転落、肘の骨を折る大ケガを負う大惨事となった。このほか女性教諭が骨盤を折る重傷、10人以上の児童が煙を吸ったという。
この日のテレビ報道では「煙を吸うなどした児童は軽症」といつもと変わらぬテンプレート原稿を読み上げていたが、これをそのまま鵜呑みにはしにくい。「火災現場で煙を吸う」とは、鼻と口から肺に至るまでの「気道熱傷」を意味するからだ。
状況を冷静に見ていく。校舎の窓ガラスをも溶かしていたすさまじい黒煙の温度は100度から300度に達し、火事初期の勢いある黒煙は300度を超える。音楽室の防音材も燃えているので、有害物質を含んでいただろう。
煙を吸ったことによる気道熱傷が怖いのは、息ができずその場で失神し、逃げ遅れて命を落とすことがあれば、無事に避難できても遅延性の気道閉塞を起こすことがあるからだ。
逃げた直後はのどが乾いたくらいの自覚症状しかなくても、火傷を負った皮膚に水ぶくれができるように、煙を吸い込んだ鼻や口の粘膜、喉の粘膜、気管支は煙を吸って数時間後から48時間後に膨れ上がる。
眠りについた頃に気道が一気に塞がって窒息する
気道熱傷と気道閉塞の主な症状は声のかすれ、声が出しにくい、唾を飲み込みにくい、食事が喉に引っかかる、ヒューヒューする、ゼーゼーする、呼吸が速い、小鼻が閉じたり開いたりする、眠気が激しい、咳、頭痛、吐き気…などだ。鼻の穴がススで真っ黒に汚れていたり、鼻毛が焦げていたら要注意。無意識に煙を吸い込んでいる可能性がある。
なにより恐ろしいのは、昼間の恐怖体験からようやく落ち着き、子供も親も心身ともに疲れ果てて眠りについた頃に、子供の細い気道が閉塞してしまうこと。診断治療には気管支鏡とステロイド薬が必要で、上記のような症状が出たらすぐに119番通報しないと気道が一気に塞がり、窒息してしまう。
あれだけ黒いススで服が汚れた児童が焼け出されたのに、10人程度の児童しか病院搬送されず、300人以上の児童は気管支鏡の設備もない学校医が対応。担任教師と、逃げ遅れた子供がいないか最後まで校舎に残った女性教師の対応は素晴らしかったが、週末は大きな病院の外来診察をやっていないのに、黒煙を浴びて全身ススだらけの児童がそのまま親に引き取らせた学校と北区の対応には大いに疑問が残るのだ。
火事報道は、当日に煙を吸った人たちが軽症とは断言できない。自分も家族もいつ火災に巻き込まれるかわからない。口を守るハンカチやミニタオルは必携しておこう。
(那須優子/医療ジャーナリスト)

