
チュニジア粉砕、日本サッカー界総力の勝利。森保一監督がスタメンを決めた時点で、すでに勝負は決していたに違いない【識者コラム】
[北中米W杯グループステージ第2戦]日本 4-0 チュニジア/6月20日/エスタディオ・モンテレイ
日本サッカー界総力の勝利だったはずだ。綿密なスカウティングに基づいて現場がデータを整理し、スタッフが対策を練り、最良のコンディションの選手を送り出した。おそらく森保一監督がスタメンを決めた時点で、すでに勝負は決していたに違いない。
チュニジア戦を迎える日本は、決して好ましい状況に置かれていたわけではない。突然、対戦相手の監督が代わり、同グループで先に試合を済ませたオランダは、スウェーデンに5-1で大勝していた。
日本が首位通過を狙うなら、当然スウェーデンに大敗したチュニジアにはそれ以上の大差をつけておきたかった。だが勝利を手にする前に「大勝」のノルマがちらつけば、邪念が焦燥を生む危険を孕んでいた。実際、開始3分には、まるでアメフトのクォーターバックのようにゲームを操るハンニバル・メジブリに、一瞬の隙を突いてゴールを脅かされている。
しかし日本は冷や汗をかいた直後に、理想的な展開から均衡を破った。日本のゴールキックのシーンで、チュニジアは前からプレッシャーをかける気満々でポジションを取った。だがそれでも鈴木彩艶は平然と冨安健洋に繋ぎ、冨安はシャドーの鎌田大地に縦パスを入れる。
鎌田は複数のDFを引き連れて右へ流れて来た上田綺世にフリックで繋ぐ。このスピーディーなライン突破の間には、田中碧が後方から中央をスプリントしてサポートに上がり、チュニジアの守備陣形が完全に日本側の右サイドに偏ったために空いた左側のスペースへと駆け上がる中村敬斗へボールを回す。
オランダ戦のゴールでカットインからの右足シュートの強烈なイメージを植えつけていた中村は、躊躇なく縦への仕掛けを選択。ポケットを攻略すると、ゴール前に詰めて来る鎌田の足もとに合わせた。
ポストに入るFWがフリックを駆使してスピードを落とさずにライン突破を試みる連動は何度か見られ、後半の停滞した時間帯には田中の長い縦パスから、上田のフリックで伊東純也が抜け出して待望の3点目が生まれた。
この日は田中が最後尾に降りてビルドアップが始めることが多かったが、後方から縦パスのターゲットを探し、適切にクサビを打ち込むのも田中の重要な特性だ。また田中はこうして攻撃の起点となるだけではなく、左右の守備へのサポートにも汗を流し、闘えるボランチとしても成長した姿を表現。佐野海舟とは上下でバランスを取りながら攻守に絡み、ボランチが違いを創出したことで日本は危なげなく試合を進めることが出来た。
唯一データ面でチュニジアに上回られたのはインターセプトだったが、それも日本が攻撃的に活発に仕掛けた証とも言える。一方で守備面での最重要テーマはメジブリ対策だったが、冨安が危険なプレーを許したのは冒頭のシュートシーンが最初で最後だった。
森保監督は、主導権掌握が想定される試合で、3バックの中央にフィードが正確な板倉滉を抜擢し、後方からの構築が得意な田中を、おそらく板倉との相性も加味して起用。右WBの堂安律は、本来の攻撃面での特徴を発揮できなかったが、それだけ守備の強度、対応力に全幅の信頼を置いているということだろう。おおむね描いたシナリオは良好に進み、故障者が相次ぐ苦境下で前線の主力の休養も確保出来た。
だが残念ながらこの会心の勝利でも、グループF内の優位性は約束されていない。オランダはスウェーデンに快勝した。だがスコアとは異なり、スウェーデンも終盤にかけて好転のヒントをいくつか発掘した。なぜか初戦ではプレー機会がほとんどなかった快足のアントニー・エランガが再三オランダDFを脅かし、もちろん2トップの破壊力は一級品で、結局枠内も含めたシュート数では上回った。
チュニジアは監督交代の荒療治でも奇跡を起こせなかった。しかしもともと個々の能力が高いスウェーデンは、急変の可能性を秘めている。
日本が何位で突破してもラウンド32の相手が強敵なのは変わりないが、それでも3位通過は絶対に避けたい。
文●加部究(スポーツライター)
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