気温がぐんぐん上昇するこの時期、喉越しのいい「ざる蕎麦」や、どこか懐かしい佇まいの「冷やしたぬき」を求めて、昔ながらの老舗そば屋へ足を運ぶ季節がやってきた。しかし、お馴染みの暖簾を掲げる個人経営の蕎麦屋が今、猛烈な勢いで街から姿を消しつつある。
データを見れば、その惨状は明らかだ。蕎麦屋はここ15年で店舗数が1万軒近くも減少しており、直近の5年間だけでも実に4000軒が閉店。しかもその大半は個人店舗である。
「原因は店主の高齢化に伴う後継者問題だけではありません。小麦粉や蕎麦粉といった主原料、さらには光熱費の高騰に加え、安さをウリにする大手そばチェーンの台頭という複合的な要因が重なっています。かつてのように良心的な価格帯を維持しながら、個人店が安定した収益を得ることが極めて難しい時代になっているのです」
大衆食文化の衰退に危機感を募らせるフードライターは、そう言って嘆くのだった。
長年、地域のビジネスマンの胃袋を支えてきた憩いの場が、店主の引退とともに一代で次々と幕を閉じる。まさに昭和の風景の絶滅危機と言えるだろう。
だが、この苦境にただ黙って指をくわえているわけではない。伝統の味と暖簾を未来へ繋ごうとする、新たな変化の兆しが現れ始めているのだ。
SNSを駆使して発信し令和時代にアップデート
「馴染みの客たちが立ち上がり、クラウドファンディングを通じて店舗の改装費や運転資金を募る、なんていうケースが出始めています」(前出・フードライター)
全くの異業種から一念発起して脱サラし、伝統の技術を学んで店を継承しようとする人たちの挑戦が少なくないのだ。フードライターがさらに言う。
「彼らはSNSを駆使して魅力を発信し、古い個人店の良さを令和の時代にアップデートしようと奮闘しています」
新鮮な蕎麦を手繰りながら、職人たちが守り抜いてきた粋な文化に思いを馳せる。過酷な市場環境の中で暖簾がこれ以上消えないためにも今こそ店へと足を運び、その歴史と情熱を応援しつつ、記憶に深く刻み込みたいものだ。
(滝川与一)

