開いた口が塞がらない、とはまさにこのことだ。
MLBの労使交渉においてオーナー側が明らかにした「ドラフト改革案」が大きな議論を巻き起こしている。
改革案の具体的な内容は以下の通りだ。
・高校生選手をドラフト対象から除外
・指名枠を現行の20巡から12巡に縮小
・インターナショナル・ドラフトの導入
・海外アマチュア選手の契約可能年齢を17歳から18歳へ引き上げ
・ドラフト契約金の上限を全体で最大2億ドルに固定
端的に言うと、オーナー側の最大の狙いは「若手育成を大学にアウトソーシングすることで球団側のコストを削減する」ことだ。
大学からプロ入りした選手がすぐ活躍するNFLやNBAとは異なり、MLBは選手の育成に時間がかかる、というのがこれまでの常識だった。
だが近年、MLBでもドラフト指名選手の“即戦力化”が急速に進んでいる。2023年にルイジアナ州立大からドラフト全体1位指名でパイレーツに入団したポール・スキーンズは入団1年足らずでメジャーデビューを果たすとその年いきなりオールスター先発に抜擢され、圧倒的な成績で新人王を受賞、翌年はサイ・ヤング賞に輝いた。
また、24年ドラフト全体4位でウエストレイク大からアスレティックス入りしたニック・カーツも、昨年4月下旬のメジャー昇格直後から猛打を発揮、117試合で36本塁打、OPS1.002と圧倒的な成績を残して満票で新人王を受賞した。
オーナー側はこのトレンドに乗じて、以前から彼らの頭を悩ませていたマイナーでの育成費用削減に動いた、というわけだ。球界関係者の間では、オーナーたちがドラフト改革案を温めていることは以前から周知の事実だったという。 確かに高校生や16歳でプロ入りした中南米の選手の育成には時間がかかる。ルーキーリーグから始まり、1A、1A+、2A、3Aといくつもの段階を経てようやくメジャーに昇格する。その分、運営コストがかさむのも事実だろう。
その一方で、早熟の天才プレーヤーが時代時代で登場するのも、MLBならではの魅力だ。
古くはミッキー・マントルやジョニー・ベンチ、ケン・グリフィーJr.、アレックス・ロドリゲス、ブライス・ハーパー、マイク・トラウト、フアン・ソトのように、若きスーパースターが華々しくシーンに現れ、球界を牽引してきた。今年も、パイレーツのコナー・グリフィンが19歳344日でデビューを飾って大きな話題を集めた。
個人的に憤懣やるかたないのは、オーナー側にマイナーリーグをさらに縮小したいという思惑が見え隠れしていることだ。MLBはすでに21年に41ものマイナー球団を削減しているが、今回の提案がもし実現すれば、さらなる縮小は時間の問題だろう。 先述したように、マイナーリーグ自体にいくつもの階層があり、それぞれがプロ球団として興行を打つのはNFLにもNBAにもNHLにもないMLBならではの特徴であり、また魅力でもある。そうした中で育まれてきた文化がアメリカ野球のバックボーンを成していることに、オーナーたちは気付かないのだろうか。彼らにとってマイナーリーグはコストを垂れ流すだけの不良債権セクターにしか映っていないのだろうか。
今回の労使交渉では、サラリーキャップ導入の是非が最大の争点となっている。個人的には、オーナー側が求めるサラリーキャップ導入にも一理あると考えている。「結果」ではなく「スタート地点」での戦力均衡をもたらすことで、より多くのチームが優勝に期待を持てる状況になり、それがひいては球界の発展にもつながると思うからだ。
ただ、今回のような提案を恥ずかしげもなく出してくるあたり、オーナー側の真の目的は「戦力均衡」ではなく、自分たちの懐に入るカネを1セントでも多く増やすことなのではないかと思えてならない。そうであれば、彼らの求めるサラリーキャップを支持する気も失せてしまう。
自身も高校からプロ入りしたフレディ・フリーマン(ドジャース)は今回のオーナー側の提案を「ばかげている」と一蹴した上でこう言った。
「(オーナー側の狙いが)カネだけだってことに、ファンもそろそろ気付くんじゃないかな」
メジャーリーグの歴史や球界人、ファンの感情をあまりにも無視した今回の提案は、オーナー側にとって逆効果になるような気がしてならないのだが……。
文●久保田市郎
1976年、東京都出身。2002年にSLUGGER編集部に加入、編集長を務めた後、26年にフリー・エージェントとなる。日本の雑誌メディアで最初にOPSやDRSを紹介した一人。

