毎年6月はプライド月間 (Pride Month)。6月26日には94歳のゲイの権利を訴えてきた日本人活動家を追う、松岡弘明監督のドキュメンタリー映画『熱狂を超えて』も上映される。アメリカでは、ニューヨークのトライベッカ映画祭のワールドプレミアで完売となった、元英国プロサッカー選手を追いかけたドキュメンタリー映画 『The Last Guest of The Holloway Motel (原題)』のプレスイベントが行われた。今月開催したFIFAワールドカップで、ワールド・サッカーが注目の中、このコラムでは、英国プロサッカーから遠のいたゲイ選手のドキュメンタリー映画と、大ヒットとなったHBO配信のドラマシリーズ「Heated Rivalry」のプロホッケー界選手同士の恋愛ドラマの大衆人気をご紹介。
ウエスト・ハリウッドというLGBTQ+フレンドリーな街が舞台
2013年、同性愛者だと公表したあとに引退を撤回した米メジャー・リーグ・サッカー(MLS) のスーパースター、ロビー・ロジャースが、ロサンゼルスのLAギャラクシーに加入し直し、2014年にはMLSカップのチャンピオンシップへチームを導いて話題を呼んだ。ロジャースはそのあと、パートナーとともに映画のプロデュースも手がけ、ハリー・スタイルズ主演の『マイ・ポリスマン』(2022)、ジョナサン・ベイリー主演のミニ・テレビシリーズ「Fellow Travelers」(2023)、Netflix発のビバリーヒルズの高校のフットボール選手を追いかける「オール・アメリカン」など、人気ドラマシリーズを手がけている。
フィルムスクール出身の若手映画監督ニコラス・フリーマンとラミエル・ペトロスがロビー・ロジャースに話を持ち込んだドキュメンタリー映画『The Last Guest of The Holloway Motel』の主人公もまたゲイの元プロサッカー選手。ドキュメンタリーは、毎日がプライド月間のようにレインボー・フラッグが掲げられるフレンドリーなLGBTQ+タウンが舞台。そんなウエスト・ハリウッドの老舗モーテルのマネージャーで、ほぼ毎晩、ワイン片手にベランダでくつろぐマネージャー、トニー・パウエルは老朽化したモーテルが売りに出されることを知っていた。
監督たちがそのホロウェイ・モーテルのニュースを聞き、マネージャーに話を聴き始める。親しくなるにつれ、監督たちが驚くのは老いたマネージャーが、英国出身の元有名プロサッカー選手、トニー・パウエルだったこと。
1979年、英国プロサッカー、ノリッジ・シティFC所属のトニー・パウエルは殿堂入りし、プレイヤー・オブ・ザ・イヤーを受賞して、スターダムを上り詰めていた。そんな彼が突然、姿を消す。その行方は誰一人として知らされず、行方不明となったまま、ほぼ半世紀。LGBTQ+が守られたコミュニティで静かに暮らしていた。彼はなぜ、家族にも知らせずに突然、姿を消したのか。ドキュメンタリーはホロウェイ・モーテルを舞台に、トニーが活躍した70年代のプロサッカー当時を回顧しながら、ゲイを公表した選手、ジャスティン・ファシャヌの自殺、いかに、荒々しさを求められるサッカー界でゲイであることイコール、死の宣告だったかを深掘りし、長年、家族とも疎遠となる孤独の道を歩んだトニー・パウエルの生涯を回顧する。
監督ニコラス・フリーマンはロビー・ロジャーズとのドリームコラボレーションについて、「ゲイと宣言したプロサッカー選手は数少なく、まるで一つひとつ点を繋いでいくかのように、ロビーにこのドキュメンタリーの話を持ちかけたとき、彼はごく初期のころから我々の意向に賛同し、彼が信じてくれたおかげでこの作品がある。」と。
監督ラミエル・ペトロスもそれに加えて、「ロビー・ロジャーズが1950年代に生まれていたなら、トニーと同じ運命を歩んでいたかもしれないと話していたほど、トニーの秘密に深い感銘を受けていた。トニーは自分の人生は撮影に値しないと卑下していたが、ロビーが実際にサッカー選手でありながら、ゲイであることを公表した勇気ある人間で、あらゆるLGBTQ+コミュニティの人たちに生きる糧を与えたことを知り、それが原動力となってトニーに勇気を与え、自らの辛かった人生を語ってくれたと思う。」と語る。さらには、世界中でLGBTQ+のドキュメンタリーを作る人たちに対し、「真実を伝える勇気が導く先は計り知れない。観客の心の準備ができていなくても、自らの伝えたい真実にまっ正直に立ち向かって行ってほしい。」と熱く語っていた。この映画は全米リミテッド上映とともに、“フレームライン50”という50周年目を迎えるサンフランシスコのカストロ・ストリートで行われるインターナショナルLGBTQ+映画祭で6月25日に上映され、7月1日からはAppleTVやAmazon Primeビデオなどの有料配信サービスで全世界での視聴が可能になる予定だそうだ。
北米で爆発的人気となったスポーツロマンスドラマシリーズ「Heated Rivalry」
ストリーミングドラマが数多く作られては消えていく中で、カナダのストリーミングサービス、クレイブ (Crave) から発信された「Heated Rivalry」はプロホッケー界を舞台にしたゲイ選手たちによる恋愛ドラマ。シリーズが空前の大ヒットとなり、HBOがそのインターナショナル権を取得して全世界配信するという革新的偉業は、業界を賑わせている。そのファン層を支えたのはLGBTQ+コミュニティではなく、多くの女性たち。日本でも、70年代の少女漫画を支えた竹宮恵子の「風と木の詩」や萩尾望都の「ポーの一族」など、ボーイズ・ラブに似た現象なのか、プロデュースを手がけたジェイコブ・テイラニーも、リスクを負って完成させたドラマのシーズン2が決定となり、多くの人がそのヒットに驚き、共鳴している。
その原作者はカナダ人作家レイチェル・リード。プロホッケーの世界に憧れ、ホッケー選手になりたかったが、当時、女性がホッケーをプレイすることさえ、嘲笑の的になるだけだったと、彼女の屈辱感が作品の種になっていることが作家のブログに書かれている。
「もっとも辛いのは、女であるというだけで、スタンリー・カップで優勝する夢は奪われてしまう。幼少からプロホッケー界への憧れは強く、同級生の男性たちはホッケーをプレイし、誰ひとりとしてプロ選手にはならなかったけれども、私はそれを夢見ることさえ許されなかった。」とブログは続く。彼女の夢は、ホッケーのユニフォームを着ること、ロッカールームで座ってコーチの怒号を浴びたり、ボードを超えてアイスリンクに飛び降りたり、フェイスマスクから唾を吐き出してみたいなど、読者を笑わせるほどにアイスホッケー命の作家。彼女の夢は止まず、ホッケー選手になれないなら、フィギュアスケートかと練習するが、右足を骨折。足が完治し、それでも、マイナーのホッケーチームで男子に混じってプレイを試みるものの、パックをリンクから持ち上げることさえままならず、自分にはスピードもホッケー選手としての優雅さもなかったと告白している。唾を吐くのだけは上手くなったという作家自身はホッケープレイヤーとしての才能はなかったが、男性のチームメートより、はるかに才能があった女性チームプレイヤーもマイナー・リーグ止まりで、スタンリー・カップを夢見ることはできなかったとスポーツ界の現実を回想する。しかし、自分たちのチームが優勝した証は今でも作家の誇りで、ゲームから学んだレッスンはかけがえのないもの。それらは普通のレッスンとは言えないが、作家も普通の生徒ではなかったと自らのユニークな着眼点が、プロホッケー界のゲイ選手の葛藤という「Heated Rivalry」の作品を書く原動力になっていたことが分かる。
レイチェル・リードのNYタイムズベストセラー小説のシリーズは「Game Changer」(2018)という第1作から始まっており、「Heated Rivalry」(2019)、「Tough Guy」(2020)‥‥そして新刊「Unrivaled」が来年2027年6月に発売されるということで全7作、“ゲーム・チェンジャー・シリーズ”と呼ばれている。まさにゲーム・チャンジ(物事のルールを一変させる出来事)というタイトルにふさわしく、テレビシリーズとして生まれ変わった「Heated Rivalry」は、主人公であるプロホッケー選手同士がチームメートに知られないように恋に落ちたり、スーパースター選手とスムージーのアルバイトをしていたアート系美男子との隠れた恋が社会現象といえるほどの注目を集めている。作家レイチェル・リードはティーン時代、最も魅力的なNHLプレイヤーの記事を書いたホッケー・ダイジェスト誌の女性記者たちのおかげで「今の私がいる」と作品に通底するファン目線は揺るがない。プライド月間の裾野を広げていくゲイ・プロホッケードラマ、北米以外でも配信される勢いに乗っている。
文 / 宮国訪香子
映画『熱狂をこえて』
監督:松岡弘明
出演:南定四郎、大塚隆史、久里須、砂川秀樹、永野靖、小倉東、根岸昌功
©カミハグプロダクション
6月26日よりアップリンク吉祥寺ほか全国順次公開
公式サイト beyondthefire
映画『The Last Guest of The Holloway Motel (原題)』
監督:Ramiel Petros and Nicholas Freeman
出演:Tony Powell
© Wolfe Video & LD Entertainment
公式サイト thelastguestdoc
ドラマシリーズ「Heated Rivalry」
アイスホッケー界のスーパースター、シェーン・ホランダーとイリヤ・ロザノフ。氷上では世紀のライバルとして知られる2人だが、10代のルーキー時代から密かに惹かれ合い、一線を越えていた。プロとしての重圧、国籍の壁、家族との確執、そして秘密の関係を守り続けることへの限界——8年以上にわたる愛と葛藤の旅の果てに、2人はどんな選択をするのか。
クリエイター・脚本・監督:ジェイコブ・ティアニー
原作:レイチェル・リード「Heated Rivalry」(Game Changersシリーズ第2作)
出演:ハドソン・ウィリアムズ、コナー・ストーリー、フランソワ・アルノー、ロビー・グラハム・クンツ
© 2025 Heated Rivalry Productions 1 (Ontario) Inc. / © 2025 Productions Heated Rivalry 1 (Québec) Inc. All rights reserved
U-NEXTにて、2026年8月28日(金)より独占配信
公式サイト heated-rivalry
