
次元が違う。おそらく万単位の背番号10がいるに違いない。どこまで得点記録を伸ばすか。ひとつでも多くのゴールを見たい【W杯戦記】
当たり前の話だが、試合はアルゼンチンだけでやっているわけではない。
対戦相手はオーストリア。赤いユニホームのサポーターも、いるにはいる。スタジアム内に入り、スタンドの様子を見てみれば、幸いにして彼らは固まって座っていてくれるから、その存在をすぐに見つけることができる。
しかし、数の違いは圧倒的。どう贔屓目に見ても、アルゼンチン9に対し、オーストリアは1だ。
スタジアムの外に立ち、各ゲートから入場してくる観客の流れだけを見ていると、このスタジアムにはセレステ・イ・ブランコ(水色と白)しかいないのではないか、とさえ思えてくる。
さらに言えば、アルゼンチンのユニホームを着ている人の多くが、リオネル・メッシの10番を背負っている。このスタジアムには、おそらく万単位の背番号10がいるに違いない。
グループJのアルゼンチン対オーストリア。今回のワールドカップにおいて、これがダラス・スタジアムで行なわれる3試合目になるが、対戦する両チームのサポーターの数が、これほど一方的大差だったことはない。
2年前、同じくアメリカで開かれたコパ・アメリカを取材した時にも感じたことだが、アメリカでのメッシ人気は、日本にいて感じるそれとは次元が違っている。メッシは現在、MLSのインテル・マイアミでプレーしているとはいえ、それだけでは説明がつかないほどに、だ。
ライドシェアのドライバーによれば、2015年にメッシを擁するアルゼンチン代表が親善試合でダラス・スタジアムにやってきた時には、周辺道路がことごとく麻痺したという(今大会は自家用車の乗り入れができない)。
当時の対戦相手はメキシコ代表だったのだから、すべての責がメッシやアルゼンチンにあったとは言い難いが、メッシ人気の高さはMLS加入以前からのものだと考えていいのだろう。
ただでさえ、アメリカで絶大な人気を誇るのだから、そこにアルゼンチンから大挙してやってくる熱狂的なサポーターが加われば、試合会場がアルゼンチン一色、いや、メッシ一色になるのは当然の結果である。
しかも、メッシは今大会初戦のアルジェリア戦で、自身初となるワールドカップでのハットトリックを達成。それと同時に個人通算得点記録を16まで伸ばし、トップのミロスラフ・クローゼ(ドイツ)に並んでいた。
この日のオーストリア戦には新記録がかかっているとあって、注目度は俄然上昇。気のせいか、スペイン語が飛び交う試合前のメディアセンター内もまた、スタンド同様、いつもより熱気を帯びているかのようだった。
果たして試合は、メッシが2ゴールを記録し、アルゼンチンが2-0で勝利。メッシはワールドカップ通算得点を18まで伸ばし、足踏みすることなく、あっさりと新記録を打ち立ててしまった。
「彼は2、3回のチャンスがあれば、試合を決めてしまう」とは敗軍の将、ラルフ・ラングニックの弁である。
メッシにとってのラストワールドカップになるかもしれない今大会。どこまで得点記録を伸ばすか楽しみであると同時に、ひとつでも多くのゴールを見たいもの。同じ思いのサポーターたちが、次の試合もまたスタンドを埋めてしまうはずだ。
なかには、決してお行儀がいいとは言えないサポーターも少なくないが、彼らが作り出すスタジアムの雰囲気は、他では味わえない独特の興奮を生み出してくれる。
取材・文●浅田真樹(スポーツライター)
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