
ケンシロウを演じる武内駿輔さんとは、成長過程を描くよう、すり合わせを重ねたと小沼氏。『北斗の拳 -FIST OF THE NORTH STAR-』第3話より (C)武論尊・原哲夫/コアミックス, 「北斗の拳」製作委員会
【閲覧注意】期待のザコといえば「でかいババア」 その頬染めた抱き枕です…誰得?
「守るべきお作法は侵さない」&「ただの焼き直しでもいけない」
武論尊先生、原哲夫先生による不朽の名作を、新たにアニメ化した『北斗の拳 -FIST OF THE NORTH STAR-』。その『北斗の拳』らしさを支える重要な要素が「音」です。
秘孔を突く音、そしてザコたちの「ヒャッハー」や「ひでぶ」「あべし」に代表される断末魔はまさに北斗ならでは。そして昭和版のTVアニメで提示されたそれらの「音」は、ファンの心に強烈なインパクトを残しているといえるでしょう。
令和版『北斗の拳』では、その「正解がある音」をどのように再構築したのでしょうか。小沼則義音響監督に、本作の音響演出、「ケンシロウ」役、武内駿輔さんのお芝居、そしてザコたちの叫びについて聞きました。
「伝統芸能」として守るべきお作法
ーー「北斗らしい」音響をどのように追求したのか教えてください。
小沼 『北斗の拳』は、一度正解が出ているものなので、そこにアプローチするのは非常にプレッシャーでした。既に固定されたイメージのあるものに対してリスペクトを持ちつつ、現代的にちゃんとリデザインしました。
打撃音や秘孔を突く音などは、過去のアニメのような誇張された音でありながら、現代に求められるリアリティと、アニメとしての説得力を目指しました。いわば伝統芸能のようなものだと考えています。だから守るべきお作法は犯してはいけないが、ただの焼き直しでもいけない。そこは真摯に向き合いました。
ーー現在は視聴環境が多様化し、テレビだけでなくスマートフォンなどで視聴する人も多いです。そうした視聴環境は意識されましたか。
小沼 昔のフィルムとは違って、今は多重録音ができます。これまでの作品の根本にあるメンタリティは保ちつつ、ヘッドホンで聞く人やスマホで見る人などがいるので、現代の音響のレンジを考慮しました。
そのうえで、ある程度大きなテレビや外付けスピーカーで聞いていただいた時に、リッチに聞こえるようにしたい。10年、20年先でも問題なく聞いていただけるサウンド感を意識して作りました。
ケンシロウは、最初から完成していなくていい
ーーケンシロウ役の武内駿輔さんについてお聞きします。起用の理由を教えてください。
小沼 オーディションを行ったのはかなり前だったので、その時点で彼よりも完成しているケンシロウの方も実はいました。しかし、ケンシロウの成長こそが重要であると考え、プロデューサー陣と話し合いながら選考を進めました。武内さんには、一緒にケンシロウとして成長していってもらい、最終的に「無想転生(※)」するだけの力を手に入れて、ラオウに打ち勝ってほしい。そんな思いを込めて起用しました。
※「無想転生」…北斗神拳の究極奥義。
ーー序盤のケンシロウについては、どのようなお芝居を求めたのでしょうか。
小沼 最初のケンシロウはシンに敗れ、最愛のユリアを奪われたことで絶望しています。そのため生気のないケンシロウを求めていました。しかしその一方で、武内さんもケンシロウを研究していて、彼が表現したい生き生きとしたケンシロウのプランもありました。そこは時間をかけて、ケンシロウが成長していく過程を描いていくよう、ディスカッションを重ねてすり合わせをしました
ーーシンを倒す場面では、昭和版のような分かりやすいテーマ曲ではなく、重厚な曲が流れていました。作品全体をシリアスに寄せる意図があったのでしょうか。
小沼 原作が持っているテンション感を大事にして、ドラマに合わせたサウンドをデザインしました。あのシーンは単純な勝利確定の盛り上げシーンではなく、決闘を通じてお互いの生き様を理解したり、ケンシロウが今後背負っていくべきものを理解したりするドラマが描かれているのです。

ザコたちも核戦争前は一般人だった、と小沼氏。「マッドサージ」も元はまっとうな軍人だった…はず。『北斗の拳 -FIST OF THE NORTH STAR-』第7話より (C)武論尊・原哲夫/コアミックス, 「北斗の拳」製作委員会
ベテラン声優がザコを演じる理由
ーー『北斗の拳』といえば、ザコたちの歓声や断末魔も大きな魅力です。令和版ではどのように作っていったのでしょうか。
小沼 「ヒャッハー」は当時の千葉繁さんが作った伝統です。ただ、それをそのままやるのは令和の選択肢として違うし、かといって、「ヒャッハー」を禁止するのも違うんです。
ザコたちは単なるモブキャラ(その他大勢)ではないので、他の作品の「学生A」役のように若い新人では無理です。
そこで「千葉さんの後という覚悟」を持ってやってくださる実力のある方にお願いしよう、ということで、福島潤さんと間宮康弘さんにレギュラーとして加わっていただきました。ふたりが中心となって、「俺は今日こう死のうと思うけど、お前どうする?」みたいに、ザコ役同士で打ち合わせして演じてくれました。
ーーSNSではスタッフロールで福島さんの名前が見つかったと毎週話題になっていました。ゲスト出演やサプライズではなく、最初からレギュラーだったのですね。
小沼 そうです、最初からです。絶対に失敗できない役だったので。いわゆるサプライズ起用のつもりはありませんでしたが、事前発表しないことで、結果的にSNSなどで話題になればいいな、という意識はありました。
ーーおなじみの断末魔については、どのようにディレクションされたのですか。
小沼 「ひでぶ」「たわば」といったお決まりの断末魔に関しては、変えずに言ってくださいとお願いしました。それ以外は新しいものを作るつもりで頑張ってください、と伝えています。「あべし」は逆に昭和版をリスペクトして、遊戯機などで長年ザコ役を務められてきた山崎たくみさんをお呼びして、やっていただきました。
荒廃した世界の狂気とギャグの両輪を
ーーザコたちの芝居付けでは、どのようなことを意識されましたか。
小沼 北斗のザコっぽいセリフを言うだけなら、そんなに難しくないと思います、器用な方は多いので。でもそれだけでは不十分です。
ザコたちにはギャグだけでなく、世界が核の炎に包まれるまでは一般人だったという過去があります。そんな人たちが、なぜ「ヒャッハー」と言うようになったのか。お芝居として荒廃した世界やザコひとりひとりの背景に本気で向き合って考えてほしいと演者さんにお願いしました。彼らが狂っているというベースメントを忘れずに散り際でふざけるんです。
またザコには拳法の紹介などで不自然なほど長い説明セリフもあるのですが、それも驚愕のあまり本心から発したものとして演じてほしいとディレクションしました。その芝居があった上で、視聴者が「こいつ、めっちゃ説明してるな(笑)」と、ツッコミをいれるのはアリです。
ーーここまでお時間ありがとうございます。アニメも13話まで放送されました。最後に音響監督として今後のみどころを教えてください。
小沼 牙親父ですね。当然ケンシロウが勝ちますが、彼の鋼鉄の肉体がいったいどうなってしまうのか、そして断末魔も。彼がどんな音で殴られるのか、どんな声を上げるのか、ぜひ次の放送を楽しみにしてください。

『北斗の拳 -FIST OF THE NORTH STAR-』にて音響監督を勤める小沼則義氏
小沼則義(音響監督)
オーディオ・プランニング ユーでミキサーとしてキャリアを積み独立、フリーを経て現在はビットグルーヴ・プロモーション所属。ミキサーとして『名探偵コナン』『範馬刃牙』などを担当、また『僕の心のヤバイやつ』『あかね噺』『おねがいアイプリ』『天幕のジャードゥーガル』などの音響監督を務める。
