
新たな研究で、ある野菜の味やにおいを好む遺伝的傾向を持つ人は、2型糖尿病や高血圧のリスクが低い傾向にあることが示されました。
その野菜とは、料理の名脇役としておなじみの「タマネギ」です。
ただし今回の研究は、「タマネギを食べれば病気を防げる」と単純に結論づけるものではありません。
むしろ重要なのは、味覚や嗅覚に関わる遺伝子を使うことで、食事と病気の関係をより正確に調べられる可能性を示した点です。
研究の詳細は、豪クイーンズランド大学(University of Queensland)により、2026年6月1日付で医学誌『BMC Medicine』に掲載されています。
目次
- 食事と病気の関係は、見た目よりずっと複雑
- タマネギ好きは2型糖尿病のリスクが低い
食事と病気の関係は、見た目よりずっと複雑
「野菜をよく食べる人は健康的だ」と聞くと、なんとなく納得しやすいものです。
しかし科学的に見ると、食事と病気の関係を調べるのは非常に難しい作業です。
たとえば、ある食品をよく食べる人に病気が少なかったとしても、その食品のおかげとは限りません。
もともと健康意識が高く、運動習慣があり、睡眠や収入など他の条件にも恵まれている可能性があります。
反対に、病気になった後で食生活を変えたために、見かけ上の関係が生まれることもあります。
そこで研究チームが注目したのが、味覚と嗅覚の遺伝子です。
私たちが「この食べ物は好き」「このにおいは苦手」と感じる背景には、味やにおいを感じ取る受容体の個人差があります。
そして遺伝子は基本的に、生まれた時点で決まっており、後から病気になったことで変化するものではありません。
この性質を利用すれば、「ある食品を好みやすい遺伝的傾向」を手がかりに、食事と病気の関係をより公平に調べられる可能性があります。
チームは今回、UK Biobankのデータを用いて、37〜73歳の成人16万人以上を対象に、30種類の味覚受容体遺伝子と295種類の嗅覚受容体遺伝子を調査。
さらに、140種類の食品に対する好みや摂取量との関連を分析しました。
その結果、ニンニク、グレープフルーツ、タマネギ、ワサビやホースラディッシュ、ソラマメ、塩を加える好みなど、さまざまな食品嗜好に関わる遺伝的関連が見つかりました。
そして、その中でも特に注目されたのがタマネギでした。
タマネギ好きは2型糖尿病のリスクが低い
分析の結果、タマネギの味やにおいを好む傾向は、嗅覚受容体遺伝子OR2T6の特定の変異と関連していました。
この関連は、若い25歳の参加者を含む別のデータでも確認されました。
つまり、この遺伝子変異は、年齢層を超えて「タマネギを好みやすい傾向」を示す代理指標として使える可能性があるのです。
チームはさらに、このOR2T6の変異を手がかりに、健康リスクとの関連を調べました。
すると、タマネギを好みやすい遺伝的傾向は、血圧の低さ、そして2型糖尿病リスクの低さと関連していました。
では、タマネギには本当に病気を防ぐ力があるのでしょうか。
ここで注意が必要です。
今回の研究は、タマネギを食べれば高血圧や2型糖尿病を予防できると直接証明したものではありません。
あくまで、タマネギの味やにおいを好む遺伝的傾向と、これらの健康指標との間に関連が見られたという段階です。
もし今後、本当に因果関係が確認されるなら、タマネギに含まれるフラボノイドや有機硫黄化合物などの生理活性物質が関係している可能性があります。
しかし、食事指導や医療上の結論につなげるには、より大規模で多様な集団での再現や、体内メカニズムの検証が必要です。
今回の発見で最も大きな意味を持つのは、タマネギそのものよりも、味覚・嗅覚遺伝子を使った新しい研究手法です。
食べ物の好みは主観的で、食事の自己申告も不正確になりがちです。
しかし遺伝子を手がかりにすれば、食事と病気の関係を調べる際のノイズを減らせる可能性があります。
タマネギが好きかどうかは、単なる味の好みと思われがちです。
しかしその背後には、嗅覚遺伝子の違いがあり、さらに健康リスクを読み解くヒントが隠れている可能性があります。
私たちの「好き嫌い」は、食卓の小さな選択であると同時に、体質や将来の健康を探る新しい入口にもなり得るのです。
参考文献
Your Taste For Onions May Reveal Something About Your Future Health
https://www.sciencealert.com/your-taste-for-onions-may-reveal-something-about-your-future-health
Taste and smell genes could help explain how diet influences disease risk
https://news.uq.edu.au/2026-06-taste-and-smell-genes-could-help-explain-how-diet-influences-disease-risk
元論文
A biologically informed framework for instrument selection in dietary Mendelian randomization using chemosensory genetics
https://doi.org/10.1186/s12916-026-04966-x
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部

