明大ラグビー部4年の伊藤龍之介が日本代表に選ばれた。6月10日にアナウンスされたその内容を、「インスタ」での公式発表で知った。
「びっくりしましたし、本当かなとも思いました」
日本代表という存在がいかに重いものかを想像できるからこそ、いまの立ち位置を正直な言葉で述べた。
「正直、まだ代表の自覚はないと思います。実感もわいていないところがあります。ただ、1日1日の練習が本当に勝負ですし、レベルアップできるチャンスです」
昨季は大学選手権で優勝した。位置は司令塔のスタンドオフ。身長172センチ・体重77キロと小柄も、鋭く防御にチャレンジする。タックラーに近づき、抜き去るか、駆け込む味方につなぐかを瞬時に判断する。
エディー・ジョーンズヘッドコーチ率いる現体制は、万事に先手を取らんとする『超速ラグビー』をコンセプトにする。攻防の境界線へチェイスしまくる伊藤のようなプレーメーカーは、求める人材像とマッチしていた。
今回の代表では、同じ位置で不動の存在だった李承信が怪我の回復のために選外となった。昨年2番手に浮上した小村真也もまた、13日からの宮崎合宿が本格化する頃にはコンディションを理由に離脱した。
キャンプの模様がメディアに公開された22日になると、伊藤は竹内柊平、ディラン・ライリーら長年の主力組と同一のグループで動くことが多くなった。コンビネーションの妙で大きく突破するシーンも作っていた。
動きながら、よく味方に声をかけていた。そう指摘されると、「そうしないと、向こうも要求をしてくれない」と応じた。
特に19日以降は国内トップのリーグワンで4強入りしたチームの主力が相次ぎ合流していた。21歳をして「強度が一段と上がりました」と言わしめる面々とはほぼ初対面とあり、「グラウンド内外で話すようにしています」。そもそも仲間と話し、それぞれの特徴をわかり、相手によって投げるパスの種類を変えるのは、出身の國學院栃木高で2年生になったあたりからの習慣だ。
「僕がやりやすくするために、どんどん喋っていかないと。皆さんすごく優しく接してくれるので、いいコミュニケーションを取ってくれます」
果たして25日。2日後に愛知・パロマ瑞穂スタジアムでおこなわれる試合のスターターに抜擢された。JAPAN XV名義によるマオリ・オールブラックス戦だ。件のセッションにおける伊藤との同組は、ほとんどがそのラインナップに入ったか。
元主将のリーチ マイケルらが翌週からの新設ネーションズチャンピオンシップでのメンバー入りをにらむなか、伊藤は地に足をつけていた。肝心なことを繰り返す。
「まずはマオリに対してフォーカスしていきたい。そこでどれだけ自分ができるか、どういう課題が見つかるか…。とりあえず目の前のことに必死です。いかに周りのメンバーとコミュニケーションを取って、自分がやりやすいように持っていけるかが大事かなと」
ただの抜擢人事ではない。伊藤は学生王者になる前から、若手育成機関のジャパンタレントスコッドプログラムに参加。ジョーンズら指導陣のモニタリングの対象となっていた。
特に今年は、代表と戦術を共有する23歳以下(U23)日本代表、JAPAN XVで実戦機会を積んだ。ジョーンズを「世界で有数の10番(スタンドオフの背番号)になれる。素晴らしい視野、パスやランのスキルを持っている。若さゆえにミスもあるものの成長が期待される」と唸らせるに至った。
ニール・ハットリーヘッドコーチ代行が指揮を執る今度の一戦で10番をつけるのも、その延長線上でのことだ。「彼のよさは他の選手に適応できる点。(当日は)彼らしく仕掛けるところ、負けず嫌いなところを発揮して欲しい」とはハットリーの弁。選外となった他のリーグワン組と比較する議論は、ほとんど意味をなさない。
当の本人はあくまで、目下、必要な準備に没頭する。
以前、「乃木坂46の池田瑛紗ちゃん」「=LOVEの大谷映美里ちゃん」「≠MEの谷崎早耶ちゃん」といった「キラキラしたアイドル」に会いたいからラグビーで有名になりたいのだと相好を崩したこともある。
しかし本当に真剣な瞬間には、成功した後のエクストラボーナスについて考えることはほとんどないはずだ。
「もし10番を任せてもらえたら、ジャパンの超速というものを引っ張っていけるようにしたいです。まだフレッシュで体力もあると思うので、テンポを上げて前に出るのを意識します」
取材・文●向風見也(ラグビーライター)
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