
愛犬が年を取ると、寝る時間が変わったり、飼い主への反応が鈍くなったり、慣れた場所で迷ったりすることがあります。
こうした変化は「年だから仕方ない」と見過ごされがちですが、その背後には犬の認知機能低下が隠れているかもしれません。
犬にも人間の認知症に似た状態があり、これは「犬認知機能不全」または「認知機能不全症候群」と呼ばれています。
ただし、通常の老化と見分けるのは簡単ではありません。
そこで注目されたのが、犬の「歩き方」です。
米ノースカロライナ州立大学(NCSU)の研究チームは、高齢犬の前脚の歩幅が、認知機能低下と関連して短くなることを発見しました。
研究の詳細は2026年6月25日付で学術誌『Frontiers in Veterinary Science』に掲載されています。
目次
- 「前脚の歩幅」が認知機能低下と関連
- 「歩幅が短い=認知症」とは言えないが、見逃せないサイン
「前脚の歩幅」が認知機能低下と関連
犬の認知機能不全では、睡眠パターンの乱れ、社会的行動の変化、混乱、慣れた場所で迷うといった症状が知られています。
しかし、これらの多くは飼い主の観察や質問票に頼る部分が大きく、客観的に測りにくいという課題がありました。
今回の研究では、犬の神経老化を追跡する縦断研究に参加していたシニア犬・老齢犬88頭が対象となりました。
犬たちは、体格や犬種から推定される寿命の75%以上に達した段階で研究に登録され、約6カ月ごとに研究施設を訪れました。
各訪問では、身体検査、神経学的検査、整形外科的検査、視覚・聴覚検査、筋力検査、認知機能検査などを実施。
さらに飼い主は、犬の認知機能を評価するCADES(犬認知症スケール)や、慢性的な痛みを評価するCBPIに回答。
歩行評価では、犬を5メートルの歩行路で歩かせ、その様子を動画で記録しました。
このとき、研究者はリードを緩く持ち、声かけやおやつによる誘導は行わず、犬が自分のペースで歩くようにしています。
その結果、前脚の歩幅が、認知機能の悪化とともに短くなる傾向が見られたのです。
具体的には、CADES(犬認知症スケール)スコアが10点上昇すると、前脚の相対的な歩幅は平均で約1.2%短くなると推定されました。
一方で、後ろ脚の歩幅には、同じような明確な変化は見られませんでした。
「歩幅が短い=認知症」とは言えないが、見逃せないサイン
なぜ認知機能低下の影響が、後ろ脚ではなく前脚に表れたのでしょうか。
チームは、前脚と後ろ脚の役割の違いに注目しています。
犬の後ろ脚は主に体を前へ進める推進力に関わります。
一方、前脚は進行方向の調整、ブレーキ、姿勢の安定などにも関わります。
つまり前脚の動きには、筋肉や関節だけでなく、脳が感覚情報を統合し、動きを計画し、体を協調させる働きがより強く関わっている可能性があります。
人間でも、認知症が進むと歩く速度が遅くなったり、歩幅が短くなったりすることが知られています。
今回の研究は、犬でも同じように、認知機能の低下が歩き方、とくに前脚の歩幅に反映される可能性を示したものです。
ただし、ここで重要なのは、前脚の歩幅が短くなっただけで犬の認知症と診断できるわけではないという点です。
歩幅は、関節炎、慢性的な痛み、首や背骨の問題、整形外科的な病気によっても変化します。
実際、この研究でも、痛みを示すCBPIスコアが高い犬では、前脚の歩幅が短くなる傾向が確認されています。
そのため、愛犬の前脚の歩幅が短くなった、歩き方がぎこちなくなった、以前より小刻みに歩くようになったと感じた場合は、すぐに「認知症だ」と決めつけるのではなく、獣医師に相談することが大切です。
治療可能な痛みや首の問題が原因である可能性もあるからです。
一方で、もし認知機能低下が関係している場合でも、生活環境の調整、刺激の与え方、運動や食事の管理など、できる介入はいくつかあります。
今回の研究は、愛犬の老化を見守るうえで、「歩き方」という日常的な行動に重要な情報が含まれていることを示しています。
犬は言葉で不調を伝えることはできません。
しかし、毎日の散歩で見せる小さな歩幅の変化が、脳の老化を知らせるサインになっているかもしれません。
愛犬の足取りが以前より小さくなったと感じたら、それは単なる年齢のせいではなく、体や脳からのメッセージかもしれないのです。
参考文献
The Subtle Physical Clue That Could Indicate Your Dog Has Dementia
https://www.sciencealert.com/the-subtle-physical-clue-that-could-indicate-your-dog-has-dementia
Paws for thought: Short strides might indicate doggy dementia
https://www.scimex.org/newsfeed/paws-for-thought-short-strides-might-indicated-doggy-dementia
元論文
Thoracic limb stride length is associated with cognitive impairment in aging dogs
https://doi.org/10.3389/fvets.2026.1814017
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部

