![[本田泰人の眼]致命的な「半歩のズレ」。エランガの個人技で片づけられない。守備の原則を一瞬たりとも崩すな。それがブラジルに勝つための最低条件だ【W杯】](https://assets.mama.aacdn.jp/contents/185/2026/6/1782461993059_z8m2drm8tfm.jpg?maxwidth=800)
[本田泰人の眼]致命的な「半歩のズレ」。エランガの個人技で片づけられない。守備の原則を一瞬たりとも崩すな。それがブラジルに勝つための最低条件だ【W杯】
【W杯GS第3節】日本 1-1 スウェーデン/現地6月25日/ダラス・スタジアム
決勝トーナメント進出は決まった。
スウェーデンと1-1。1勝2分けの勝点5で2位突破。結果だけを見れば、日本は最低限の仕事を果たしたと言っていい。
ただ、スウェーデン戦を見て感じたのは、安堵ではなかった。「ブラジルを相手に、この守備で90分、いや120分戦い切れるのか」。その一点だった。
スウェーデン戦では、日本らしい組織力を見せた一方で、世界トップクラスを相手にすれば命取りになりかねない「半歩のズレ」が映し出された試合だった。決勝トーナメントでは、その一瞬の判断、一歩の距離感が勝敗を分ける。
だからこそ、このスウェーデン戦は「決勝トーナメント進出を決めた試合」であると同時に、「ブラジル戦へ向けた課題が浮き彫りになった試合」でもあったと言える。
試合を振り返ると、立ち上がりから3-4-3同士のミラーゲームとなった。
スウェーデンは前から無理に奪いに来るのではなく、ブロックをコンパクトに保ちながら中央を閉め、日本を外へ誘導する守備を徹底していた。
日本は思うように中央を使えなかったが、慌てなかった。鎌田大地と田中碧が最終ライン付近まで下りて数的優位を作り、一度、相手を引きつけてから逆サイドへ展開する。ミラーゲームでは相手を横へ動かすことが重要だ。
時間の経過とともに日本はボールを動かしながら相手の守備を揺さぶり、自分たちのリズムを取り戻していった。
均衡を破ったのは56分だった。このゴールには、日本が狙っていた崩し方が凝縮されていた。
堂安律と上田綺世のワンツーに目が行きがちだが、その前の上田のポストプレーが非常に大きい。センターバックを背負いながら半身でボールを収め、相手を背中でブロック。この一瞬でスウェーデンの最終ラインが半歩下がり、その背後ではなく、センターバックとウイングバックの間にスペースが生まれた。
そこへ前田大然が斜めに飛び込む。ディフェンダーからすると、このタイミングのランニングが一番嫌なんだ。背後ではない。横から斜めに入って来られると、受け渡しが難しくなる。
前田は速いだけではない。「いつ走るか」の判断が抜群だからこそ、相手ディフェンダーは後手に回る。最後も慌てず流し込み、ストライカーらしいフィニッシュだった。
中盤では田中の存在感が際立った。
デュエルの強さももちろんだが、それ以上に寄せる角度が良い。一直線にボールへ行くのではなく、縦パスのコースを消しながら斜めにプレッシャーをかける。だから相手は中央を使えず、外へ逃げるしかない。数字には表われにくいが、守備全体を引き締める価値のあるプレーだった。
鎌田もボランチで試合を落ち着かせた。攻撃では見事なクロスで決定機を演出し、守備でもポジションを崩さず中盤全体のバランスを保ち続けた。
一方で、守備陣はアクシデントに見舞われた。
板倉滉が39分に負傷交代。スクランブルで入った谷口彰悟は、途中出場ながら勇気を持ってラインを維持し、中盤との距離を保ち続けたことは評価したい。
瀬古歩夢もイサクとのマッチアップでは飛び込まず、半身で対応しながら縦へ誘導するなど落ち着いていた。
ただ、62分の失点だけは見逃せない。一見すると、エランガのスーパーゴールだ。もちろんシュートは素晴らしかった。でも、あれを個人技だけで片づけてはいけない。
マークの受け渡しが半歩遅れた。ボールホルダーへの寄せも半歩遅れた。そのわずかなズレが、エランガに左足へ持ち替える時間とシュートコースを与えてしまった。
世界トップレベルでは、この半歩が失点につながる。ディフェンダーはボールが出てから寄せるのでは遅い。出る前に間合いを詰め、前を向かせず、利き足を振らせない。その基本を90分、続けなければならない。
鈴木彩艶は終盤にスーパーセーブで日本を救った。一方で、失点シーンでは改善点もある。エランガが左足を振る体勢に入った瞬間、セットポジションを取るタイミングがわずかに遅れたように見えた。
ゴールキーパーはシュートを見て反応するのではなく、打たれる前に準備を終えていなければならない。あと半歩早く重心を整えられていれば、触れた可能性もあった。
もちろん彩艶だけの責任ではない。守備は11人でするものだ。チャレンジする選手。カバーする選手。ラインを維持する選手。その連動が一瞬だけ狂った結果が、あの失点だった。
そして、いよいよブラジル戦だ。
ブラジルのグループステージの3試合はすべて見たが、もちろん強い。しかし、90分間、相手を圧倒し続けた試合は一つもなかった。
強豪モロッコとは互角の展開だったし、格下のスコットランドもハイチも、ブラジル相手にシュートチャンスをいくつか作り出せている。
つまり、ブラジルにも攻略できる隙はある。ただし、日本がスウェーデン戦で見せたような「半歩のズレ」を繰り返せば、一瞬で仕留められる。
ヴィニシウスの突破力はもちろん脅威だが、僕が警戒しているのはマテウス・クーニャだ。最終ラインと中盤の間へ絶えず顔を出し、センターバックを引き出す。その空いたスペースへ2列目の選手が飛び込んでくる。ブラジルは、この連動が非常にうまい。だからセンターバックは簡単に食いついてはいけない。
誰が前へ出るのか。誰がカバーするのか。ボランチとの距離をどう保つのか。守備の原則を90分、あるいは120分、一度も崩さないこと。それがブラジルに勝つための最低条件になる。
昨年、日本は親善試合でブラジルに勝った。しかし、ワールドカップの決勝トーナメントはまったく別物だ。ブラジルの顔ぶれも違う。球際の強度も、プレーの精度も、試合運びも一段階上がる。
それでも僕は、日本が勝つ確率は「40%」あると思っている。
ブラジルが有利なのは間違いない。それでも、日本には組織で守り、奪った瞬間に一気にカウンターで仕留められる武器がある。
「奇跡」なんて必要ない。必要なのは、守備の原則を一瞬たりとも緩めないことだ。スウェーデン戦で見えた“半歩のズレ"を修正できれば、日本はブラジルを本気で苦しめられる。
ベスト8への扉を開けるかどうか。その鍵は、派手なスーパーゴールではない。日本の守備の精度にかかっている。
▼スウェーデン戦の採点
スタメン)
GK鈴木彩艶/6.0
DF伊藤洋輝/6.0
DF板倉 滉/6.0
DF瀬古歩夢/6.0
MF菅原由勢/5.5
MF鎌田大地/6.0
MF田中 碧/6.5
MF中村敬斗/6.0
MF堂安 律/6.0
MF前田大然/6.5
FW上田綺世/6.0
途中出場)
DF谷口彰悟/6.0
DF渡辺 剛/6.0
MF長友佑都/6.0
MF伊東純也/6.0
FW小川航基/6.0
監督)
森保 一/6.0
【著者プロフィール】
本田泰人(ほんだ・やすと)/1969年6月25日生まれ、福岡県出身。帝京高―本田技研―鹿島。日本代表29試合・1得点。J1通算328試合・4得点。現役時代は鹿島のキャプテンを務め、強烈なリーダーシップとハードなプレースタイルで“常勝軍団”の礎を築く。2000年の三冠など多くのタイトル獲得に貢献した。2006年の引退後は、解説者や指導者として幅広く活動中。スポーツ振興団体『FOOT FIELD JAPAN』代表。
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