
日本は読まれていた――。身の程を知ったスウェーデンが仕掛けた“割り切り戦術”とソックス騒動の代償【分析コラム】
[北中米W杯グループステージ第3戦]日本 1-1 スウェーデン/6月25日/ダラス・スタジアム
日本時間6月26日に行なわれた北中米ワールドカップ、グループF第3節のスウェーデン戦は、56分に前田大然が先制ゴールを挙げるも、中村敬斗のソックス騒動でバタバタした日本が6分後、エランガに同点ゴールを許す。その後は両チームに多少のチャンスが訪れたものの、追加点はなく、1-1で終了した。日本は2位、スウェーデンは3位でグループステージ突破を決めている。
身の程を知ったスウェーデンがここまで厄介とは。知っていたけど、知らなかった。
大会前の個人的な見立てでは、スウェーデンは個こそ強烈だが、ポジションによってはスピード不足など能力にバラつきがあり、リスク管理が怪しい。飛び抜けた長所の反面、隙が目立つチームという印象があった。
しかし、オランダに1-5で大敗し、身の程を知ったスウェーデンは変わってしまった。3戦目は引き分けでも3位突破可能という状況も後押しし、日本に対してはかなり割り切ったサッカーを選んだ。
その象徴的なデータが、FIFAの『POST MATCH SUMMARY REPORT』で確認できる。『Defensive Actions』の項目を見ると、スウェーデンに対して日本がボールを奪ったエリアは、アタッキングサードがほぼゼロ。ミドルサードが少々と、後はほぼ自陣だ。つまり、日本は敵陣でほとんどボールを奪えなかった。プレスをかけてミスを誘発した回数は、アタッキングサードでも多いが、そのままマイボールに出来た場面はほとんどない。
これはつまり、スウェーデンは自陣でプレスを浴びたとき、ほぼパスをつながず、徹底してロングボールを蹴ったということ。それが数字にも表れている。チュニジア戦やオランダ戦のスウェーデンの同データを見ると、自陣でボールをロストした回数はかなり多く、事前の想定通りに隙が大きいチームであることが読み取れる。ところが、日本戦では姿を変えてしまった。
しかも、その割り切ったロングボールが比較的収まるので、厄介極まりない。単純化された80点満点の戦術ではあるが、スウェーデンの弱みを隠し、日本の弱点である空中戦を突くこと、さらに第3戦の文脈において、スウェーデンはベストな対策を打ってきた。オープンに戦う意志、リスクを冒す意志は1ミリもない。こんなところに、今日の1ミリがあった。
一方、得意のプレッシングが空を切ってしまう日本は、苦しい展開を強いられた。ただし、ロングボールは基本的に成功率が低いので、スウェーデンがボールを捨てる回数は増える。日本としては自陣で拾ったセカンドボールを効果的なビルドアップにつなげて、ポゼッションから試合を支配すれば、逆にロングボール頼りの相手を苦しめることができる。ここが大きなポイントだった。
スウェーデンの守備システムは、5-4-1だ。いや、5-3-2と言うべきか。あるいは、5-2-1-2? 正確に表すのが難しい理由は、右サイドのエランガと、左サイドのイサクが異なる基準で立ち位置を取っていたからに他ならない。エランガは守備時にボランチに並ぶ位置まで下がるが、イサクはそこまで下がらず、ヨケレスとの2トップに近い、高い位置を取る。
このアシンメトリーな守備が、日本の攻撃をうまく受け止めていた。
日本は左シャドーに前田、右シャドーに堂安律が入った。ここから5バック崩しの定番、レーンまたぎを使うのだが、この日はあまり効果的ではなかった。この配置の場合、前田が背後やサイドへ抜けて、空いたライン間へ逆サイドから堂安がレーンをまたいで来るのが常套だが、そのサイドはエランガが低い位置に下がって備えているため、相手の数が多くてスペースが空かない。
日本のレーンまたぎには、一定のパターンがある。裏抜けタイプの前田や伊東純也が動き出したサイドに、逆サイド側から久保建英や鎌田大地、堂安といった技巧タイプがレーンをまたぎ、足もとで受けて数的優位を作る。
おそらく、スウェーデンはこの仕組みを見切ったうえで、エランガとイサクを非対称とする守備を構築し、レーンをまたいで来るサイドに人を増やしたのではないか。付け加えるなら、ボール奪取時にエランガの前にはスペースがあり、伊藤洋輝も捕まえづらい位置になる。トランジションでスピード豊かなエランガの特性を活かす意味でも効果があった。
一方で非対称故に、逆サイドではイサクの裏にスペースがあるものの、右ウイングハーフに起用された菅原由勢は1対1で仕掛けるタイプではなく、脅威はない。スルーパスやクロスの質が高い選手なので、スウェーデンは待ち構えて対処した。菅原のパス成功率は68パーセント、ラインブレーク試行の成功率も、12回中3回で25パーセントに留まり、効果的なプレーは少なかった。
このような状況を受け、日本は前半のハイドレーションブレイク辺りから、シャドーのレーンまたぎを中止。伊藤が後方からオーバーラップし、前田とともにハーフレーンを走って中村をフリーにし、個の突破力を活かすなど、ベーシックなサイド連系を攻撃のベースに据えた。
攻め筋を変えたことで、少しずつ試合は日本のペースに傾き、56分に前田が先制。その後、同点に追いつかれると、66分に伊東を投入し、この快速ドリブラーを外へ出しながら、菅原がハーフレーンを走ってスペースを与えるなど同様のサイド突破の仕組みを作った。
90分間のxG(ゴール期待値)は、日本が1.22、スウェーデンが0.56と、日本が大きく上回っている。ところが、あまり日本優勢の印象が残らなかったのは、やはりバタバタした時間帯のイメージが強すぎたせいか。
57~59分の中村のソックス問題が尾を引いた日本は、菅原が危険なボールロストをしたり、失点したエランガのシュート場面も谷口彰悟がヘディングのクリアに迷い、鈴木彩艶のダイビングの出足が鈍るなど、今までの日本には見られないほど対応がバタバタしていた。しかし、75分の長友佑都と渡辺剛の投入により、1-1で意志統一。その後も少し危ない場面はあったが、ソックス問題で揺れた時間帯に比べればましだ。1-1で試合を終えた。
また、ソックス問題であまり焦点が当たらないかもしれないが、先述したようにメカニズムを含め、日本の攻撃パターンが読み切られていたことは気になった。さすが、ワールドカップは甘くない。
もっとも、次のブラジル戦はそんなことは全く関係のない守備ベースの試合になりそうだ。サッカーは何が起きるかわからないことは、思い知った。今後、ソックス問題に似た事象が起きた時、ミスの連鎖を起こすのではなく、より早く意志統一し、落ち着きを取り戻せるようにしたい。
文●清水英斗(サッカーライター)
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