
番狂わせでも奇跡でもない。決勝T進出のカーボベルデは、自分たちの実力を証明しただけ。40歳守護神は自負「競争するためにここに来た」【W杯】
人口約60万人。北大西洋に浮かぶ小さな島国カーボベルデが、サッカー界最大の舞台で世界を驚かせた。
W杯初出場のカーボベルデは、グループステージの第3戦でサウジアラビアと0-0で引き分け、これで3戦連続ドロー。他会場でウルグアイがスペインに敗れたことで、勝点3のままH組2位となり、決勝トーナメント進出を決めた。
「引き分けで突破したチーム」という結果だけでは、この躍進の価値は語れない。サウジアラビア戦で示した内容は、むしろ勝利に値するものだった。
ブビスタ監督が掲げる高い位置からの組織的なプレッシングと、90分間で落ちない運動量で主導権を握り、シュート数は14本対7本と相手を上回る。ゴール期待値(xG)でも1.21を記録し、多くの時間帯でボールを支配した。最後の決定力だけが足りなかったが、試合内容では明らかに優勢だった。
その戦いを最後尾から支えたのが、40歳の守護神ヴォジーニャである。この日も相手の枠内シュート3本をすべて防ぎ切り、スペイン戦に続く大会二度目のクリーンシートを達成。40歳での複数無失点は、イングランド代表のピーター・シルトン、イタリア代表ディノ・ゾフに続くワールドカップ史上3人目という歴史的な記録となった。
もっとも、本人が誇ったのは個人の記録ではない。ヴォジーニャは「誰もこんなことは夢にも思っていませんでしたが、自分たちに確かな実力があることは分かっていました。ワールドカップに来た当初、多くの人は私たちが1勝もできないと思っていたでしょう。しかし、私たちには素晴らしいチームと質の高い選手が揃っています」と主張する。
世界は「番狂わせ」と受け止めた。しかし、当事者たちは決して偶然だとは考えていなかった。
「引き分けを狙って、ここに来たわけではありません。試合を通じて、常に勝利を目ざして戦いました」とヴォジーニャ。突破に必要だった勝点1を守り切る戦いではない。最後まで勝利だけを求めた90分だった。
「誰もが目にしていた通り、私たちは試合をコントロールし、ボールを支配し、多くのチャンスを作り出しました。結局、得点はできませんでしたが、勝利も欲しかった」と振り返る。
守って耐えた末の引き分けではない。自分たちのサッカーで相手を押し込みながら、最後だけ決め切れなかった。その悔しさが先に来るところに、このチームの現在地がある。
大会前、多くの予想ではグループ最下位候補だった。スペイン、ウルグアイ、サウジアラビアという実力国に囲まれ、初出場の小国が突破する可能性を挙げる声はほとんどなかった。しかし、ヴォジーニャは世界の評価を静かに受け止めながらも、自分たちだけは信じ続けていた。
「皆さんの多くは、カーボベルデの選手の実力は十分ではないと思っているかもしれません。しかし私たちは、自分たちに高い実力があることを証明し、競争するためにここに来ました。私たちの選手は、どの主要リーグでも通用する力を持っています」
この言葉は、今大会のカーボベルデを象徴している。彼らは「小国だから必死に戦うチーム」ではない。「小国だから過小評価されてきただけのチーム」だったのである。だからこそ、決勝トーナメント進出は奇跡ではなく、自分たちが積み上げてきた実力を証明した結果だった。
さらにヴォジーニャは「私たちは国を愛していますし、強い情熱を持っています。多くの困難の中で育ちました。祖父母や両親が私たち全員を育てるために多大な犠牲を払ってくれたので、物事を大切にすることを知っている。私たちは、世界中のすべてのカーボベルデ人を代表してここにいます。私たちは小さな存在かもしれませんが、大きな心を持ち、戦う者たちなのです」と強調する。
“小さな国"という言葉を、彼は一度も言い訳として使わなかった。むしろ、それは彼らの誇りだった。
勝点3での決勝トーナメント進出。数字だけを見れば決して派手ではない。しかし、その価値は計り知れない。人口や国土の大きさで強さが決まるわけではない。高い組織力、揺るがない自信、祖国への誇りがあれば、世界王者候補とも互角以上に戦える。そのことを、カーボベルデは3試合を通じて証明した。
そして彼らを待つ次の相手は、前回大会の覇者アルゼンチン。ヴォジーニャにとっても、チームにとっても、そして国中の子どもたちにとっても夢の舞台である。
「アルゼンチンやリオネル・メッシと戦うことは、あらゆる選手にとっての夢です」と語る40歳の守護神が、仲間と共に紡いできた物語は、まだ終わらない。世界で2番目に小さな出場国の挑戦は、いよいよ世界王者との大一番へ向かう。
取材・文●河治良幸
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