
「まるでキャプテン翼だ!」ブラジルで日本への警戒論が過熱「弟子に負けることは許されない」と本音も。主将は「1メートルのスペースも渡すつもりはない」【W杯】
北中米W杯を戦うブラジルのラウンド・オブ32の対戦相手が、日本に決まった。ブラジルでは少し前から「このまま行くと日本と当たるのではないか?」というざわつきが広がっていたが、それが現実となった。
今大会における日本の戦いぶりは素晴らしい。とりわけオランダ戦は秀逸だった。これまでは「相手に合わせて戦う」印象があったが、自らイニシアチブを握って試合を進められるようになり、誰もが称賛し、できれば戦いを避けたいと思わせる強敵へと変貌した。
そんな日本が今、王国再建を目ざすブラジルの前に立ちはだかる。ブラジルの日刊紙は「最も難しい相手(日本)がブラジルの進む道の水平線に現われた」と報じた。
6月29日(日本時間30日2時のキックオフ)の試合を前にブラジルでは、様々な人物が日本について語っている。まずは実際にピッチで戦う選手たちだ。
キャプテンのマルキーニョスは練習後の囲み取材でこう語った。
「世界中が注目するに値する試合だと思う。チームとして、とてもまとまっている日本は、オランダやスウェーデンを苦しめ、チュニジアには快勝した。僕は日本に尊敬の念を抱いている。でも、我々は強い。何よりこのユニホームの重さを知っている。この一戦の重要さを、身に染みて分かっている。
日本には失うものがあまりないかもしれないが、我々には勝たなければならない責任がある。フィジカル、メンタル、そのすべてを駆使して戦わなければいけない。日本にはヨーロッパ主要リーグで戦うインテリジェンスのある選手が揃っている。でも我々も準備は万端だ。1メートルのスペースも渡すつもりはない」
3度目のW杯を戦うカゼミーロは、自分たちらしさを貫くことの重要性を強調した。
「次の試合は“ブラジル”という名前やユニホームだけでは勝てない。日本と戦うリスクはよく分かっている。絶対に日本のリズムに巻き込まれてはいけない。自分たちのテンポでブラジルのサッカーをしなくてはならない。
その責任は中盤にある。日本も我々も多くの選手を(怪我で)欠いているが、それを感じさせないだけの選手層がある。キックオフから数分の入り方が勝敗を左右するだろう」
ブラジルサッカー界には日本通が多い。その筆頭と言えるのがジーコだ。長年、日本サッカーの発展に尽力し、日本代表監督として母国ブラジルと対戦した経験も持つ。そのジーコはポッドキャスト『Barcast』で、日本について、こう語った。
「両チームとも積極的に戦う試合になるだろう。ブラジルは日本のスピードと絶え間ない動きに注意しなければならない。彼らは決して止まらない。今の日本は以前とは違う。そのことを認識しておくことが重要だ」
また、ブラジル『ESPN』で解説者も務めるジーコは、そこで中村敬斗を「現時点で大会最高の選手の一人」と絶賛している。
「中村のことは、これまでよく知らなかったが、私にとって彼は今大会最高の選手の一人だ。右足でも左足でも巧みにボールを扱い、中央へもエンドラインへも仕掛け、ゴールも決める。信じられないようなプレーを続けている」
鹿島アントラーズ時代から知る上田綺世についても、「天性のゴールスコアラー。昨年のブラジルとの親善試合でも得点している。決して目を離してはいけない」と警戒。そのうえで、「鹿島は首位に立っていたのに、彼が移籍した途端に優勝を逃してしまったこともある」とエピソードも披露した。
SNSでは、日本のスピードや組織力を称賛する一方で、ブラジルの現状を自虐的に嘆く投稿も目立つ。
「日本のサッカーはまるで『キャプテン翼』。選手たちは光速で走り回る。一方のブラジルは、試合前にフェイジョアーダ(豆と肉を煮込んだブラジル料理)を一皿、平らげたように重い」
「カゼミーロは濡れたジーンズを履いて走っているようだ。モロッコ戦でも苦戦したのに、時速1000マイルでプレーする日本の中盤と、どう戦うんだ?」
ただ、ここでブラジルの一般的な感覚も伝えておきたい。ブラジルが一番気にしているのは日本ではなく、自分たちのことだ。エンドリッキは先発なのか。ラフィーニャの怪我はどうなのか。カゼミーロはベストの状態なのか。ネイマールは本当に復活するのか。
まずは自分たちがベストの状態であることが最優先で、その後に対戦相手を見る。それが強国の考え方だ。自分たちが最高の状態なら、相手がどこであろうと恐れる必要はない――。傲慢に聞こえるかもしれないが、それが彼らの本音でもある。
それでも日本は、ブラジルにとって嫌な相手だ。昨年、東京で2-0とリードしながら逆転負けを喫した記憶は、今も小さくない傷として残っている。そのためグループステージ最終戦では、日本ではなくスウェーデンが勝ち上がることを願うブラジル人も少なくなかった。
アンチェロッティ監督も日本を高く評価する。
「日本代表は素晴らしいプレーを見せている。組織力があり、規律正しく、自信に満ちている。称賛を受けるのは当然だ。だが私は、自分たちがここまで積み重ねてきたものにも誇りを持っている。ブラジルにはブラジルだけのアイデンティティとクオリティ、そして野心がある。ノックアウトステージに簡単な相手などいない。日本でもアルゼンチンでも、最高レベルで戦う準備ができていなければ先へは進めない」
ブラジルの人々は昔から日本サッカーに親しみを抱いている。「日本サッカーはブラジルが育てた」という意識を持つ人も少なくない。ただ実際には、久保建英、三笘薫、南野拓実は知っていても、上田綺世や鎌田大地までは知らないという人も多い。
それでもブラジル人が日本との対戦を嫌がる理由は、実力だけではない。
彼らが最も恐れているのは、「自分たちの弟子」だと信じてきた日本に敗れることだ。もちろん、ノックアウトステージで敗退すること自体がブラジルにとって屈辱である。しかし、その相手がフランスなのか、日本なのかでは受け止め方がまったく違う。それこそ世界の終わりのような騒ぎになるだろう。
だからこそブラジルは日本を警戒する。そして現在のチーム状態を考えれば、「日本には絶対に勝てる」と言い切れる者は誰もいない。ブラジルが日本と当たりたくなかった理由は、そこにある。
取材・文●リカルド・セティオン
翻訳●利根川晶子
【著者プロフィール】
リカルド・セティオン(Ricardo SETYON)/1963年8月29日生まれ、ブラジル・サンパウロ出身。ジャーナリストとして中東戦争やユーゴスラビア紛争などを現地取材した後、社会学としてサッカーを研究。スポーツジャーナリストに転身する。8か国語を操る語学力を駆使し、世界中を飛び回って現場を取材。多数のメディアで活躍する。FIFAの広報担当なども務め、ジーコやカフー、ドゥンガなどとの親交も厚い。現在はスポーツ運営学、心理学の教授として大学で教鞭も執っている。
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