
メールアドレスやSNSでおなじみの「@」記号。
しかしこの記号は、インターネット時代に生まれたものではありません。
では、インターネット時代の前には、どんな使われ方をしていたのでしょうか。
ローマ・ラ・サピエンツァ大学(La Sapienza)の科学史教授ジョルジョ・スタービレ(Giorgio Stabile)は、「@」記号が少なくとも1536年には、イタリア商人の手紙の中でワインの容量単位や価格に関わる商業記号として使われていたことを示しました。
目次
- 「@」は商人たちの記号だった
- 帳簿の記号が、メールアドレスの象徴になった
「@」は商人たちの記号だった
「@」の起源については、いくつかの説があります。
ひとつは、ラテン語の「ad」に由来するという説です。
adには「〜へ」「〜に」「〜で」といった意味があり、中世の書記たちが手書き作業を早めるために、文字を省略したり、つなげたりした結果、「a」のまわりに「d」が巻きついたような形になったという考え方です。
また、フランス語の「à」を装飾的に書いたものだという説もあります。
意味としては現在の「at」に近いため自然に見えますが、こちらは証拠が十分とは言えません。
一方で、最もはっきりした記録とされるのが、1536年5月4日にフィレンツェ商人フランチェスコ・ラピ(Francesco Lapi)が書いた手紙です。
この手紙はスペインのセビリアからローマへ送られたもので、ラテンアメリカから財宝を積んだ船が到着したことなどが記されていました。
その中でラピは、ワイン1アンフォラの価値について書いています。
アンフォラとは、古代地中海世界でワインや油、穀物などを運ぶために使われた壺であり、容量の単位としても使われていました。
スタービレ教授は、この「@」がアンフォラを表す商業用の記号だったと見ています。
つまり「@」は、もともとメールやコンピューターの記号ではなく、商人が商品や量、価格を記録するための実用的な記号だったのです。
では、この商人の記号は、どのようにして現代のメールアドレスへとつながったのでしょうか。
帳簿の記号が、メールアドレスの象徴になった
「@」はその後、交易路を通じて広がり、会計や商店の帳簿で使われるようになりました。
このときの意味は、「at the price of」、つまり「〜の単価で」というものです。
たとえば「10個の商品 @ 5セント」と書けば、「1個あたり5セントの商品が10個」という意味になります。
そのため会計士や商店主にとって、「@」は価格をすばやく記録するための便利な記号でした。
こうした背景があったため、近代のタイプライターにも「@」キーが備えられるようになりました。
そして、この古い商業記号を現代によみがえらせたのが、コンピューター科学者レイ・トムリンソン(Ray Tomlinson)でした。
1971年、彼はARPANET(インターネットの前身となったアメリカの研究用ネットワーク)上で電子メールの仕組みを作る際、ユーザー名とドメイン(インターネット上の住所)を分ける記号を探していました。
必要だったのは、日常語やプログラムであまり使われず、しかも住所を示す記号として意味が通じやすい文字です。
そこで選ばれたのが「@」でした。
「user @ domain」という形にすれば、「そのユーザーが、そのインターネット上の住所にいる」という意味を自然に表せます。
こうして、忘れられかけていた商人の記号は、電子メールの象徴になりました。
さらに現在では、SNSで誰かを指定するメンション記号としても使われています。
国によって呼び名もさまざまで、フランス語では「カタツムリ」、ロシア語では「小犬」、デンマーク語では「象の鼻」や「豚のしっぽ」、アフリカーンス語では「猿のしっぽ」を意味する言葉でそれぞれ呼ばれることがあります。
500年近く前に商人たちが使っていた小さな記号は、交易の世界から情報通信の世界へと役割を変えながら、いまでは世界中の人々を結びつける記号になっているのです。
参考文献
The @ Sign Has Been Around Since 1536, So What Was It Used For Pre-Internet?
https://www.iflscience.com/the-sign-has-been-around-since-1536-so-what-was-it-used-for-pre-internet-83307
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部

