
大ヒットアクション映画「ジョン・ウィック」シリーズの世界観を拡張するスピンオフ作品「バレリーナ:The World of John Wick」。2025年8月22日に劇場公開された同作は、アナ・デ・アルマス演じる新たな主人公イヴ・マカロによる過酷な復讐劇が描かれる。ジョン・ウィックと共通の世界観、緻密な舞台設定とシリーズお馴染みのストイックなアクションが大きな見どころだ。2026年6月24日にはBlu-ray&DVDが発売された同作の魅力を、この機に改めて深掘りしていく。
■ジョン・ウィックを生み出した組織が育てる“もう1人の最強”
これまで4つのタイトルで描かれてきた映画「ジョン・ウィック」シリーズの世界は、本作でさらなる広がりを見せる。物語はシリーズ第3作「ジョン・ウィック:パラベラム」に登場した組織であり、孤児たちを集めて暗殺者とバレリーナを養成するロシア系犯罪組織ルスカ・ロマが主要な舞台だ。
主人公のイヴ・マカロは、閉鎖的かつ過酷な環境で生き抜くための殺傷技術を徹底的に叩き込まれた。幼い頃に何者かの手によって最愛の父親を理不尽に殺害されたイヴ。消えることのない静かな怒りを胸の奥底に秘めながら、彼女は日々の厳しい訓練に12年も耐え続けた。
ルスカ・ロマの掟は絶対であり、裏切り者には死が待つ。だがそれを知ってなお、イヴは父の死に報いるため動き出す。伝説の殺し屋ジョン・ウィックを生み出した組織が新たに育てた“復讐の女神”は、どれほど強大な敵を前にしても揺るがない。
お馴染みの中立地帯コンチネンタルホテルはもちろん、ジョン・ウィック本人との対峙といったファンをワクワクさせる仕掛けや設定が多いのも今作の特徴。見覚えのある世界が別の角度から詳細に描写され、これまでよりさらにジョン・ウィックワールドの輪郭が濃くなっていく。
■イヴを「女性版ジョン・ウィック」にしないアクションの哲学
主演を務めるアナは、本作の過酷なアクションシーンのために数カ月に及ぶ徹底的な準備をおこなった。組織が隠れ蓑にしているバレエの訓練だけでなく、柔道をはじめとする格闘技、銃の扱いといった戦闘アクションの数々。来日時におこなわれた日本メディアによるインタビューのなかでは、本人が「毎日、監督にあざの写真を送ってた」「写真集ができるぐらい」と述べていたほどだ。
そんなアナが演じるイヴについて、監督であるレン・ワイズマンは随所で「イヴを“女性版ジョン・ウィック”にしないこと」を心がけていたとコメントしている。それは女性と男性で体格が違うこと、それぞれの目的にかけるエネルギーの方向性の違いに表れた。
イヴはジョンと比べて、感情を力に変えるタイプと言えるだろう。すでに完成した暗殺術を理由のため振るうジョン、そして怒りで鍛えた暗殺術を復讐のために利用するイヴ。2人の心技体を比較すれば、バランスに明確な違いがあるのだ。
たとえばイヴはジョン以上に“あらゆるもの”を武器にして立ち回る。火炎放射器はまだしも、テレビのリモコンやスケート靴まで駆使することをためらわない。いくら鍛えたとしても、女性が数人がかりで襲ってくる筋骨隆々の男性を無傷でなぎ倒すのは難しいからだ。強大な組織を敵に回したイヴはそれを重々承知で、だからこそ彼女が見せる暗殺術は「サバイバル」に特化している。
体が軽いイヴは、戦闘で吹き飛ばされるシーンがジョンに比べて圧倒的に多い。圧倒的な体格差というリアルは覆せないため、彼女はその場にあるどんなアイテムをも武器にして切り抜ける。鮮やかに成し遂げているように見えても、根底にあるのは「絶対に生き残って復讐を遂げる」という熱気にほかならない。
溶岩のような消えない怒りが彼女を研ぎ澄ませ、突き動かす。リアルなアクションシーンへのこだわりがイヴの人間性を浮き掘りにして、観客のなかに彼女の人物像を強固に作り上げる。だからこそ、伝説と対峙する名シーンは視聴者の心を大きく揺さぶるのだ。
■実力派俳優陣の集結とパッケージ版の魅力
多様な背景と独自の哲学を持つキャラクターたちが複雑に絡み合うことで、群像劇としての奥深さも魅力の本作。それぞれの思惑や利害関係が交錯する緊迫した展開は、単なるアクション映画の枠に決して収まらない。俳優陣の確かな演技力と静かなる存在感が、荒唐無稽な裏社会の物語に強固なリアリティを与えている。
同シリーズにおいて注目すべきは、キャラクターが“クールなヒーロー”ではない点だ。ジョンもイヴも、過酷な戦闘を切り抜けたときは疲労困憊をあらわにしている。もちろん次の目的を達するためにそこでくたびれていることはないが、余裕を見せてタフに振舞うことはない。
無敵ではないから追い込まれるし、怪我もする。それでも類まれな機転と戦闘術によって生き延び、目的のために立ち止まらない。そのリアルな姿と超越的な実行力の両方が備わっているからこそ、「ジョン・ウィック」シリーズはここまでファンに愛されてきた。
6月24日に発売された「Blu-ray プレミアムエディション」には、93分におよぶ映像特典が付属。メイキング映像やアナが成し遂げたアクションの技術など、ワイズマン監督とアナが極限まで研ぎ澄ませて実現させた映像の結晶を見ることができる。
単に名前とキャラクターを借りただけのスピンオフではなく、シリーズの世界を大きく深く広げた「バレリーナ:The World of John Wick」。観賞した後は改めてシリーズの一作目から振り返りたくなる名作だ。

