![[本田泰人の眼]森保監督の去就問題。僕は続投でいいと思う。いや続投すべきだ。もっと強くなるために。その土台は8年間で間違いなくでき上がった](https://assets.mama.aacdn.jp/contents/185/2026/6/1782806720780_maf6wp8r1a9.jpg?maxwidth=800)
[本田泰人の眼]森保監督の去就問題。僕は続投でいいと思う。いや続投すべきだ。もっと強くなるために。その土台は8年間で間違いなくでき上がった
【W杯ラウンド32】日本 1-2 ブラジル/現地6月29日/ヒューストン・スタジアム
あと一歩だった。本当に、あと一歩だった。
日本は世界屈指の強豪ブラジルを相手に90分以上、食らいつきながら、後半アディショナルタイムに力尽きた。
結果だけを見ればベスト32敗退。悔しい敗戦だ。ただ、この試合を見て思ったのは、「世界との差は思っていた以上に小さくなっている」ということだった。
一方で、その小さな差こそが、今の日本には一番大きな壁でもある。その差は技術でも走力でもない。
“半歩のズレ"と選手層。この2つだった。
試合を振り返れば、日本のゲームプランは素晴らしかった。立ち上がりだけ前からプレッシャーをかけ、その後は無理をせず5-4-1のブロックを形成。中央を締め、ブラジルを外へ追いやる。ブラジルはボールこそ持っているけど、中央突破はほとんどできなかった。
29分の先制点は、佐野海舟の読みが素晴らしかった。パスコースを読んでインターセプトすると、そのまま迷わず持ち運び、低い弾道のミドルを突き刺した。
理想的な試合運びだったと言える。でも、後半になると、ブラジルは攻め方を変えてきた。中央突破ではなく、サイド深くまで運んでクロスを出し続けた。
そして56分。ヴィニシウス・ジュニオールが左サイドで時間を作り、パスを受けたガブリエウ・マガリャンイスがクロス。ファーでカゼミーロがヘッドで合わせて、同点ゴールを奪う。
完璧なクロスだった。前回のカタール大会でも、決勝トーナメント1回戦で戦ったクロアチアはクロスを増やして日本を揺さぶってきた。日本の弱点は「クロス対応」。ブラジルは試合中に相手の弱みを見つけ、迷わず修正してきたのだろう。
そして、前回のコラムでも書いたとおり、世界では“半歩”が命取りになる。この試合もまさにそうだった。クロスが上がる瞬間、日本の最終ラインは一歩だけ中央へ絞った。ただ、この状況ではカゼミーロに対してしっかり寄せないといけなかった。
クロス対応では、「ボールを見る」と「マークを見る」。この2つを同時に見続けなければいけない。ディフェンダーはボールだけを追った瞬間に負ける。相手を見失わないことが鉄則なんだ。
そのための細かなステップワーク、身体の向き、距離感。これを90分、続けられるか。そこが世界との差でもある。
アディショナルタイムの逆転弾では、田中碧がボールを奪われた流れから、決められた。田中のロストだけを責めるのは簡単だ。でも、本質はそこではない。いつ、どこで、何をすべきか。その状況判断がいただけなかった。あの時間帯では「つなぐ」ことではなかったと思う。
まずクリアすること。相手を押し返すこと。ゲームを切ること。世界の強豪は勝負どころでリスク管理を徹底する。日本はそこで少しだけ判断が甘かった。
そして、もう1つ。改めて感じたのは選手層の差だ。
ブラジルは交代選手が試合を変えた。決勝点も途中出場のガブリエウ・マルチネッリで、しかもプレミアリーグで優勝したアーセナルで活躍するFWだ。そんな選手がベンチを温めている。だから、途中から入る選手の質が落ちない。むしろギアが上がる。
対して日本は、途中から入った選手が流れを変えられなかった。もちろん責めるつもりはない。でも、これが現実だ。
久保建英の負傷によって、伊東純也を先発で使わざるを得なかった。本来なら後半勝負で投入したかったカードのはず。今大会は怪我人が少なくなかったとはいえ、ジョーカー不足でもあった。これも日本の課題だと思う。スタメンと同じ強度で試合を動かせる選手があと2~3人いれば、日本は間違いなく、もう一段上へ行ける。
もちろん、収穫も多かった。
ゴールキーパーの鈴木彩艶は何本も止めた。あのビッグセーブがなければ、試合はもっと早く終わっていた。佐野はブラジル相手にもまったく引かなかった。前田大然は守備でも攻撃でも走り続けた。上田綺世は世界レベルのセンターバックを相手に身体を張った。日本の「個」は確実に伸びている。
だからこそ悔しい。もっと選手層が厚ければ、PK戦まで持ち込むことができたのではないか。
ただ、「たられば」を言っても何も変わらない。ブラジルに負けたことを受け入れて、気持ちを切り替えるしかない。
大会が終われば、監督の去就が話題になる。でも、僕は続投でいいと思う。いや、続投すべきだ。
ここまで8年間の年月を経て、積み上げてきたものは本物だ。組織力で見れば、世界の強豪相手にも十分に戦えるレベルまで来ている。
ゼロからやり直す必要はない。ただし、変えなければいけないこともある。それは世代交代だ。
今回、見えた課題はスタメンではなく、途中から入る選手との力の差だった。世界一を目ざすなら、同じレベルで戦える選手が30人、いや40人ぐらいは欲しい。森保一監督が言っていた3チーム制には賛成だ。
今回、日本はブラジル相手に十分に戦えた。だから「世界との差は大きい」とは思わない。むしろ差は小さい。ただ、その小さな差が一番難しい。
半歩。数センチ。コンマ数秒。そしてベンチメンバーの質。この課題を解決した時、日本は本当にベスト8、いやその先を狙える国になる。
ブラジルに負けはした。でも悲観する必要はない。世界との距離は確実に縮まっている。ただ、縮まっただけでは意味がないし、世界は待ってくれない。
もっと強くなるために。その土台は、この8年間で間違いなくでき上がった。だから僕は、森保監督の続投が最適解だと思っている。
▼ブラジル戦の採点
スタメン)
GK鈴木彩艶/7.5
DF伊藤洋輝/6.0
DF谷口彰悟/6.0
DF冨安健洋/6.5
MF鎌田大地/6.0
MF佐野海舟/7.5
MF中村敬斗/6.0
MF伊東純也/6.0
MF堂安 律/6.0
MF前田大然/6.5
FW上田綺世/6.0
途中出場)
MF田中 碧/4.5
MF鈴木淳之介/5.0
MF菅原由勢/5.0
MF町野修斗/5.0
FW小川航基/なし
監督)
森保 一/5.5
【著者プロフィール】
本田泰人(ほんだ・やすと)/1969年6月25日生まれ、福岡県出身。帝京高―本田技研―鹿島。日本代表29試合・1得点。J1通算328試合・4得点。現役時代は鹿島のキャプテンを務め、強烈なリーダーシップとハードなプレースタイルで“常勝軍団”の礎を築く。2000年の三冠など多くのタイトル獲得に貢献した。2006年の引退後は、解説者や指導者として幅広く活動中。スポーツ振興団体『FOOT FIELD JAPAN』代表。
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