
なぜ森保ジャパンは逆転されたのか。延長戦に持ち込んでいたとしても…ブラジルとの差は大きかった【分析コラム】
6月30日に行なわれた北中米ワールドカップ・ラウンド32のブラジル戦は、日本が29分に佐野海舟のゴールで先制。しかし、56分にカゼミーロのゴールで同点に追いつかれ、さらに終了間際の90+5分、マルチネッリに逆転ゴールを許し、1-2で敗れた。
64パーセントのボール保持を記録したブラジルのシステムは、4-3-3。攻撃時は右SBのダニーロが最終ラインに残って3枚回しに変形し、その手前にカゼミーロがアンカーとして錨を下ろす。ヴィニシウスやクーニャら攻撃の5枚は、ペナルティボックスの幅で中央突破を狙い、大外レーンは左SBドグラス・サントスと右FWラヤンが各1枚で立つ。
一方、5-4-1で構える日本は、最終ラインを高めの位置でキープし、上記ボックス幅の相手5枚をコンパクトな守備ブロックで封鎖した。大外への展開に対しても、前田大然、伊東純也が素早くアプローチとブロック再形成を繰り返し、隙を見せない。
時折ラインの背後を突かれる場面はあったが、この試合でブラジルが記録したxG(ゴール期待値)2.01のうち、前半は0.4に留まっており、日本が前半に健闘したことを裏付けている。(参考:日本のxGは前半0.25、試合全体で0.28)
前半は積極的にハイプレスを狙ったことも大きなポイントであり、佐野のゴールも起点になったのはプレッシングだった。29分、前田がプレスして追い込み、縦に蹴らせたボールを谷口彰悟が回収。縦パスを受けた伊東はボールを奪われてしまうものの、ダニーロの横パスを読んだ佐野がインターセプトから、返し技のショートカウンター。見事なドリブルシュートを流し込んだ。
佐野のプレー自体もハイレベルだったが、そもそも彼がセンターサークル付近でボールを奪えたのは、自身の読みだけでない。前半の日本が果敢にハイプレスへ行き、ショートカウンターを生み出そうと汗をかいたからだ。先制ゴールはまさに、その意志が結実したものだった。スピード派の前田、伊東を同時シャドー先発という珍しいスタメンを組んだことも、この先制点につながっていた。
前半は日本にとって良いゲームだった。少し良すぎたかもしれない。明らかにうまくいっていないブラジルは後半、戦術を変えた。
MFルーカス・パケタに代えてFWエンドリッキを投入し、4-2-4へ変更。ヴィニシウスを左サイドへ出し、攻撃の軸をサイドに移した。同時に両SBが高い位置を取ってサポートし、前半は1枚しか立たなかった大外レーンに2枚が立って、ヴィニシウスやラヤンをサポートする。前半のように中央突破を狙いすぎず、コーナーフラッグを目ざして両サイドから人と圧力をかけて押し込み、クロスの雨を降らせてきた。
それでもヴィニシウスらが大外レーンからインスイングでロングクロスを蹴っている間は、対応が可能だった。GK鈴木彩艶が安定したキャッチングで相手のチャンスを潰し、粘り強く対応していたからだ。
ところが、徐々にヴィニシウスが自らをおとりに、味方や逆サイドを使い始めると、日本は本当の危機を感じるようになった。ヴィニシウスによってスペースを与えられた左CBマガリャンイス、右SBダニーロが、ボックス幅からアウトスイングのショートクロス。頼みの綱であるGK鈴木が飛び出しづらいクロスの前に、粘り強き日本の守備も崩壊の時が迫る。
日本は前半こそ、コンパクトな箱のような守備ブロックを維持していたが、後半はブラジルの執拗なコーナー攻めにより、じりじりと全体が押し下げられ、守備ブロックは横に薄く引き伸ばされた棒のようになっていた。厚みがなくなったブロックは、ハーフレーンに立つCBマガリャンイスらに寄せられない。佐野や鎌田大地の警戒は、クロスに飛び込んでくるカゼミーロやギマランイスに引きつけられているため、出処に出て行けないのだ。
ポジション的に寄せが可能なのは上田綺世くらいだが、後半は運動量がガクッと減り、あの場面で二度追い、三度追いとはいかなかった。後藤啓介を投入してチェイシングさせる手はあったが、昨年のブラジル戦でCKから決勝点を奪った上田のことは、最後まで外せなかったのではないか。
もちろん、後半のブラジルの4-2-4は、相手もリスクを負っている。SBやボランチが高い位置を取るため、ボールを奪われたときに中盤がスカーンと空き、カウンターにさらされやすいのだ。54分、自陣ボックスでボールを拾った鎌田のドリブルから日本がロングカウンターを見舞った場面が、まさにそれだった。5対3で突撃し、最後は中村敬斗のクロスまで到達している。なぜかCKではなく、ゴールキックにされてしまい、あの判定は痛恨の極みだったが。
人数をかけて押し込む相手に対し、ロングカウンターの刃を突きつける。3月のイングランド戦で三笘薫が挙げたゴールも、これに似た形だった。ところが、今大会の日本はその三笘も、久保建英さえ怪我で欠き、ブラジルのリスクに対する刃=脅威を失っていた。下げられない上田、入れられない三笘&久保。今の戦術を完遂するための手駒が詰まった感はある。
最後は田中碧が大きな後悔を引き受ける形になってしまったが、延長戦に持ち込んだところで、30分耐え切るのは至難の業だった。2失点目はそれを痛感させられた。
中央でギマランイスがボールを受けたとき、急いで寄せた佐野は、股を閉じてシュートが抜けるコースを塞ぎ、後方では冨安健洋もシュートブロックに立ち位置を動かした。ところが、それによってマルチネッリへのパスコースがわずかに空き、シュートをキャンセルしたギマランイスからパスが通ってしまう。
DAZNでシーンを見返すと、解説の内田篤人さんも「股だけ気をつけて!」と言っていた。佐野や冨安と、同じ判断を共有していたわけだ。ところが、ブラジルはブラジルだった。まさかパスを選ぶとは。
1-1の終盤で、あの余裕。すでに手駒に詰まった日本との差は大きかった。
文●清水英斗(サッカーライター)
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