「まあ『たら・れば』なんですけれど、あそこを取れていれば、また結果も違ったのではと思います」
6月29日に開幕したテニス四大大会「ウインブルドン」(イギリス・ロンドン)。その1回戦でハイメ・ファリア(ポルトガル/世界ランキング98位)に6-7(6)、3-6、7-6(2)、3-6で敗れた島袋将(同90位)は、第1セット終盤の場面を悔いと共に振り返った。
グランドスラム(四大大会)本戦には、過去2度出場している島袋だが、ランキングでのダイレクトインは今回が初。今シーズンは序盤からATPツアー予選など高いレベルに身を置き、トッププレーヤーたちとも対戦を重ねてきた。特に6月の芝シーズンに入ってからは、ATPツアーで初のベスト8入りを果たし、ランキングも100位の壁を突破。自信をもって挑んだ今大会だった。
対戦相手のファリアは、予選上がりながらランキングは90位台。先月の「全仏オープン」(フランス・パリ)では本戦3回戦に勝ち進むなど、勢いもある22歳の実力者だ。とりわけサービスは威力も安定感もあり、今大会の予選決勝では坂本怜(同150位)にも勝利している。
島袋は試合立ち上がりを、「いい緊張の中、試合をコントロールできていた」と振り返る。実際に先にブレークし、ゲームカウント5-3のサービスゲームでは、2度のセットポイントもあった。ただいずれのポイントも、相手の攻撃的なプレーの前に取り切れない。ブレークバックを許し、タイブレークでも終盤で簡単なミスが重なった。
後に島袋は一連の局面で、感情を表に出し自分を奮い立たせるか、あるいは淡々と冷静にプレーすべきかで迷い、後者を選んだと明かした。それはこの数カ月間、トップ選手たちと戦う中で、試行錯誤してきた点だとも言う。
「そこは本当に、今年に入ってから気づいた点だと思います。トップ選手とやる機会が増え、勝ちたいからこそ、大事なポイントで自分を見失うというか、ちょっとしたミスでイラついてしまったり、一発を狙いすぎたり。普段はしないようなプレーをしてしまう瞬間が結構あった」
だからこそ、今回は意図的に感情の高ぶりを抑えた。
「それが良かったのか、悪かったのか」は、本人にもまだわからない。今回は結果的にセットを失う帰結となったが、それはこのレベルでの試合を重ねるなかで、いずれ見つける均衡だろう。
第1セットをリードしながら失う姿は、奇しくも20時間ほど前に、同じ9番コートで敗れた伊藤あおい(世界ランキング228位)の姿とも重なるものだった。
伊藤は昨年の夏から約7カ月間ケガでツアーを離脱し、今大会にはプロテクトランキングを使っての出場。初戦でダヤナ・ヤストレムスカ(ウクライナ/同66位)と対戦した。26歳のヤストレムスカは、ツアー優勝3度、ウインブルドン本戦は通算5度目で、4回戦進出の実績もある。
その実力者相手に伊藤は、早々のブレークで先行する。彼女の代名詞であるフォアのスライスだけでなく、高い軌道のボールも織り交ぜ相手を揺さぶる。ゲームカウント5-4リードで、自身のサービスゲームを迎えた。
だが窮状にいる時ほど、ヤストレムスカは伊藤の球種に関わらず、自らの打点でコーナーぎりぎりに強打を叩き込んでくる。ブレークバックを許し、第1セットの行方はタイブレークにゆだねられる。その1ポイントが行方を分ける展開で、伊藤は2度ダブルフォールトでポイントを献上した。
第1セットを落とすも第2セットは取り返し、伊藤は第3セットで4度のマッチポイントもつかむ。ただこの頃には、疲労の色は明らかになり、ボールを追いきれない局面も増える。6-7(1)、6-4、 5-7の惜敗。指を掛けたウインブルドン初勝利を、つかみ取るにはいたらなかった。
試合後の会見では、日ごろは敗戦でも淡々としていることの多い伊藤が、「悔しいです」と真っすぐに吐露する。
「ファーストセットで競れたのは良かったけれど、タイブレークまで行くんだったら、取りたかった。長引いちゃったので、ファイナルセットの最後で体力切れしたのが、敗因かなって思います」
マッチポイントを取れなかったことについても、「相手もマッチポイントに限って、オンラインに打ってきたり。やっぱりそこで実力差はあります」と認める。その「実力差」の中には、大舞台での経験値も含まれるだろう。
「どうせ負けるんだったら、えげつない人と当たって、センターコートで負けたいなと思っていた」
スタンドのない9番コートでの試合を終え、伊藤が言う。これは“伊藤節”でありながら、本心にしてアスリートの本懐でもあるだろう。大舞台での経験こそが、選手を強くする。そのステージに立つためにも、高いレベルで挑戦を続けていく。
現地取材・文●内田暁
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