
クモには、獲物を捕らえるための鋭い牙があります。
では、その「クモの牙」はいったい、いつどのように生まれたのでしょうか。
今回、約5億1800万年前の太古の海に生きていた小さな節足動物の化石から、クモの牙やサソリのハサミにつながる最古級の証拠が見つかりました。
その古生物の名は「ウロコディア・アエクアリス(Urokodia aequalis)」です。
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研究の詳細は、英レスター大学(University of Leicester)により、2026年7月1日付で学術誌『Nature』に掲載されています。
目次
- クモの牙の起源は「太古の海」にあった
- 「ハサミのような付属肢」が、牙への進化をつなぐ
クモの牙の起源は「太古の海」にあった
クモ、サソリ、ダニ、カブトガニたちは「鋏角類(きょうかくるい)」と呼ばれる動物グループに属しています。
鋏角類の大きな特徴は、体の前方にある「鋏角」という特殊な付属肢です。
現代のクモでは、鋏角は獲物に突き刺す牙として使われます。
一方、サソリでは、獲物をつかむハサミのような役割を持っています。
つまり鋏角は、鋏角類が獲物を捕らえるうえで欠かせない、いわば“狩りの道具”です。
【チームが復元したウロコディアのイメージ画像がこちら】
ただし、その起源は現代のクモが暮らす陸上ではありませんでした。
鋏角類の初期の歴史は、5億年以上前のカンブリア紀の海にまでさかのぼります。
今回の研究で注目されたウロコディア・アエクアリスの化石も、中国・雲南省から見つかった海の節足動物です。
体長はわずか2〜3センチほどで、前方には柄の先に突き出した大きな目を持ち、細長い体の下側には関節のある脚が並んでいました。
一見すると、現代のクモやサソリにはあまり似ていません。
しかし研究チームがX線マイクロCTを使って岩石の内部を調べると、そこには何億年もの時間を超えて保存された、驚くほど重要な構造が残されていました。
それが、小さなハサミのような付属肢だったのです。
「ハサミのような付属肢」が、牙への進化をつなぐ
チームは、このハサミ状の付属肢を、真の鋏角が生まれる前段階の構造だと考えています。
言い換えるなら、ウロコディアは「完成したクモの牙」を持っていたわけではありません。
しかし、クモの牙やサソリのハサミへとつながる、鋏角の原型にあたる構造を持っていた可能性が高いのです。
これは、クモの牙が突然現れたのではなく、カンブリア紀の海にいた小さな捕食者の前方付属肢から、段階的に進化していったことを示す重要な手がかりになります。
さらにウロコディアの脚には、現在のカブトガニにも見られる呼吸器官「書鰓(しょさい)」に似た特徴も確認されました。
書鰓とは、薄い板が本のページのように重なった呼吸器官です。
今回の発見は、鋏角だけでなく、鋏角類がどのように呼吸器官を発達させていったのかを考えるうえでも重要です。
つまりウロコディアは、クモの牙の始まりを示すだけでなく、鋏角類というグループ全体の初期進化を読み解く鍵となる化石なのです。
【ウロコディアの実際の化石画像がこちら】
ウロコディアが生きていた5億年以上前の海には、すでに200種類を超える多様な動物が暮らしていたと考えられています。
その中で、小さな捕食者たちは、獲物を捕らえるための道具を少しずつ変化させていました。
その進化の延長線上に、現在のクモの牙やサソリのハサミがあると考えると、私たちが身近に見るクモの姿も、はるか古代の海とつながっていることになります。
今回の研究は、「クモの牙」の歴史を、現代の陸上世界から一気に5億年以上前の海へと押し戻すものです。
もちろん、5億1800万年前に現在のクモがいたわけではありません。
見つかったのは、クモそのものではなく、クモの牙につながる鋏角の祖先的な形です。
それでも、この小さな化石は、動物たちがどのように獲物を捕らえる能力を進化させてきたのかを知るうえで、非常に大きな意味を持っています。
岩の中に眠っていた数センチの化石は、クモの牙という身近で少し不気味な特徴が、5億年以上前の海で始まっていたことを教えてくれます。
参考文献
UROKODIA! 518-million-year-old fossil shows beginning of spider’s bite
https://le.ac.uk/news/2026/july/urokodia-518-million-year-old-fossil-spider-bite
Ancient Sea Creature Pushes Back Origins of Spider Fangs to 518 Million Years Ago
https://www.sci.news/paleontology/urokodia-aequalis-14887.html
元論文
Urokodia sheds light on the origin of chelicerae and book gills of Chelicerata
https://doi.org/10.1038/s41586-026-10713-2
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部

