
日本がW杯で“優勝”するには何が足りないのか? 森保監督の2大会の成績は期待以上だった。ただ、世界一を目ざすなら…【識者コラム】
森保一監督は、ラウンド32のブラジル戦(1-2)で66分に両WBを交代した。
中村敬斗は、三笘薫不在の左サイドで違いを創出してきた切り札的な存在だったし、右の堂安律は守備での奮戦が目立ったが10番を担っていた。さらに78分には、攻撃の火付け役として不可欠だった鎌田大地も交代。その後、攻撃の起点を失った日本が一方的に押し込まれ、終了間際に決勝点を許したのは周知の通りだ。
1-1の状況で指揮官が優先したのは、サイドからクロスを入れてくるブラジルの攻撃へのリアクションだった。そのためにWBをディフェンダーに代えたのだが、裏返せば本来日本の長所だった攻撃的MFに、苦境だからこそ絶対に外せないリーダーが不在だったことになる。
ワールドカップの歴史を辿れば、大半の優勝チームにはせめてバロンドール候補には挙がるレベルのスターがいた。リオネル・メッシは5度目の挑戦で頂点に立ち、前々回はキリアン・エムバペがフランスを牽引した。
おそらく国際的な観点からすれば、森保監督はマジシャンに映るはずだ。日本代表選手たちも大半が欧州のクラブでプレーするようになったとはいえ、UEFAチャンピオンズリーグで主役級を演じるスターはいない。ブラジルでスタメン出場したラヤンは日本の選手をひとりも知らなかったわけだが、それでいてドイツ、スペイン、ブラジル、イングランドなどの優勝経験国を倒してきた。戦力はもちろん、極東という置かれた環境を考えても奇跡の成績を残している。
だから森保監督の2度のワールドカップの成績は、十分に期待以上だったと思っている。神秘的な好成績があったからこそ対戦相手も最大限に警戒し、それでもグループリーグを突破してブラジルにもスコア上は食い下がった。強豪国に挑むアプローチの仕方には賛同しかねる部分があるとしても、自認するダークホースの役割は好演した。
森保監督以下日本代表選手たちは、一様に「優勝を目ざす」と言い続けた。最初は選手から沸きあがる大志を、指揮官が尊重しているのだと思った。だが大会後に「優勝を目ざして頑張っていることに共感して頂ければ」という言葉を聞き、五輪代表選手たちが「メダル宣言」をするのに似ている感じがした。
五輪で戦う多くのマイナー競技の選手たちは、メダルの是非が自身の死活問題であり、競技そのものの人気も左右する。サッカーの日本代表も、次々に金メダリストが誕生している日本スポーツ界の現況に接し、世界一を目ざすのがノルマと感じたのかもしれない。
次回で百周年を迎えるワールドカップの歴史で優勝経験を持つのは8か国。ベスト4以上は、消滅したソ連、ユーゴスラビア、チェコスロバキアも含めて25か国になるが、サッカー以上の人気競技があるのは96年前の第1回大会で準決勝に進出した米国のみである。人口以上に国民全体の関心密度が重要なカギになる実情を思えば、森保監督以下選手たちが普及に腐心し「共闘」を訴え続けるのも大事な責務と見ることもできる。
ただし、地球を最も熱狂させる競技の世界一を支えるバックボーンは、一朝一夕では構築できない。極限まで裾野を広げ、最高級のアスリートがサッカーに夢中になる環境を整え、そこからレジェンドが育まれていく。そんな土壌を持つ国だけが、豊穣期を迎え運にも後押しされた時に辿り着く。それがワールドカップのベスト4で、百年近い歴史を探索しても例外は黎明期の米国だけなのだ。
逆にその絶望的なハンディを考えれば、日本は非常に効率的な進化を遂げている。森保監督も「良い守備から良い攻撃」のコンセプトを徹底共有し、最大限にチーム力として昇華させてきた。だがこのまま勤勉に最先端の欧州を追い続けても、そこを超える日はやって来ない。やはり凌駕するためには、環境に即した改革、さらには新たな創造力に基づく独自のアプローチが必要になるはずだ。
3大会連続のグループリーグ突破で、ようやく日本はダークホースに昇格した。確かに今回はくじ運に恵まれなかったが、まずはそこに留まりチャレンジし続けることが肝要だ。
近年は攻撃的MFからSBやボランチに止まらず、サイズが求められるCBやFW、ついにはGKまで欧州進出の波が広がったことが、日本代表のレベルを引き上げた。だがこの先はもう1度原点を見直し、攻撃的なアプローチ、リアクションではなくアクションしていくスタイルに活路を求めていくべきかもしれない。勝利より観る者を高揚させるほうが、普及の起爆剤になることもある。
文●加部究(スポーツライター)
【画像】日本代表のブラジル戦出場16選手&監督の採点を一挙紹介!最高点は圧巻先制弾のボランチ、34歳CBと驚異の運動量だったFWも7点台
【記事】「エゴを出したいヤツは大会が終わってからにしてくれ」堂安律が敗戦後に明かした発言の“真意”「世間の人と感覚が違う」「それほど牙を抜かれたわけではない
【画像】久保はKポーズ、上田は拝みパフォ、長友はお決まりの…日本代表の北中米W杯公式ポートレートまとめ!
