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VR内でアインシュタインになると起こった「心理変化」とは

VR内でアインシュタインになると起こった「心理変化」とは

Credit:Generated by OpenAI’s DALL·E,ナゾロジー編集部

VR(バーチャル・リアリティ)の世界で、もし自分がアインシュタインの姿になったら、心にはどんな変化が起こるのでしょうか。

ただ「有名人になった気分」を味わうだけではありません。

新たな研究によると、若い男性被験者が、VR内でアインシュタインの身体を自分の身体のように体験すると、高齢者に対する無意識の偏見が弱まることが示されました。

研究の詳細は、イスラエルのバル=イラン大学(Bar-Ilan University)により、2026年6月30日付で学術誌『Frontiers in Psychology』に掲載されています。

目次

  • 高齢者への「無意識の偏見」が問題に
  • VRでアインシュタインになりきると… ?

高齢者への「無意識の偏見」が問題に

職場の年齢差別は、本人がはっきり口にする偏見だけで起こるわけではありません。

むしろ問題になりやすいのは、「若い人の方が柔軟そう」「年配者は新しい仕事に向かなそう」といった、自分でも気づきにくい無意識的なバイアスです。

こうした無意識の偏見は、研修や講義で「差別はいけません」と教えるだけでは変わりにくいと考えられています。

そこで研究チームが注目したのが、VRによる「身体化」です。

これは、VR内のアバターを、自分の身体であるかのように体験する現象を指します。

鏡の中のアバターが自分の動きに合わせて動くと、脳は次第に「この仮想の身体は自分だ」と感じるようになります。

今回の実験には、20〜30歳のヘブライ語話者の若い男性107人が参加しました。

参加者は、

・アインシュタイン(下画像のA)

・ハサン・ナスララ(レバノンのイスラーム主義武装組織ヒズボラの最高指導者、2024年没)(B)

・中立的な高齢者(C)

・中立的な若者(D)

という4種類のアバターのいずれかにランダムに割り当てられました。

アインシュタインは肯定的な意味をもつ高齢者アバター、ナスララは今回の被験者にとって否定的な意味をもつ高齢の公的人物、中立的な高齢者と若者は比較対象として設定されています。

実験の様子/ Credit: Elyoseph et al., Frontiers in Psychology(2026), CC BY

参加者はVRヘッドセットを装着し、職場を思わせる中立的な会議室のVR空間に入りました。

そこで自分の動きと同期するアバターを一人称視点や鏡越しに見ながら、簡単な動作や課題を行いました。

彼らは、ただ画面上のキャラクターを眺めるのではなく、「自分がその人物の身体に入っている」ような体験をするのです。

実験の前後では、高齢者に対する暗黙の偏見を測るテストが行われました。

ここで調べられたのは、「高齢者についてどう思いますか」と本人に尋ねる意識的な態度ではありません。

高齢者と否定的な言葉、若者と肯定的な言葉が、どれくらい自動的に結びついているかという、より反射的な心の動きです。

VRでアインシュタインになりきると… ?

結果は、かなりはっきりしていました。

アインシュタインのアバターになった参加者では、高齢者に対する暗黙の年齢差別が有意に低下していたのです。

中立的な高齢者アバターでも、より小さいながら有意な低下が見られました。

一方で、中立的な若者アバターではほとんど変化がなく、また否定的な高齢者アバターであるナスララ条件でも、年齢差別が強まることはありませんでした。

ここで大切なのは、「高齢者の姿になるだけ」では効果が最大にならなかったことです。

普通の高齢者アバターでも偏見は少し弱まりましたが、最も大きな変化が出たのはアインシュタインでした。

つまりVRの身体化では、年齢そのものだけでなく、その人物がもつ社会的な意味が効いている可能性があります。

アインシュタインは、多くの人にとって「高齢」「知性」「偉業」「尊敬」と結びつく存在です。

その姿を自分の身体として体験することで、参加者の中で「高齢者=否定的」という自動的な結びつきが一時的にゆるんだのかもしれません。

Credit:Generated by OpenAI’s DALL·E,ナゾロジー編集部

では、このVR体験によって実際の採用判断まで変わったのでしょうか。

チームは、参加者に60歳の男性求職者の履歴書を見せ、採用したいかどうかを評価させました。

その結果、アインシュタイン条件や中立的な高齢者条件では、若者アバター条件よりも採用に前向きな傾向がありました。

しかし、全体として統計的に有意な差には達していません。

そのため、「VRで採用差別が改善した」とまでは言えません。

今回の研究が強く示したのは、あくまで心の奥にある自動的な年齢バイアスが、短時間のVR体験で変化しうるという点です。

また、本人が意識して答える明示的な年齢差別の評価には、アバター条件による有意差は見られませんでした。

これは一見すると不思議ですが、偏見研究ではよく見られる現象です。

人は「自分は高齢者を差別していない」と答えていても、反射的な連想のレベルでは別の反応を示すことがあります。

VRは、その表に出にくい自動的な連想に働きかけた可能性があるのです。

とはいえ、この研究には限界もあります。

参加者は若いイスラエル人男性に限られており、女性や他文化、実際の人事担当者にも同じ効果が出るかは分かりません。

また、効果が数日後、数週間後、数カ月後まで続くのかも未検証です。

研究でも、今後はより多様な参加者や長期追跡、実際の職場に近い場面での検証が必要だとされています。

それでも今回の結果は、偏見を変える方法について興味深い視点を与えてくれます。

私たちは普段、「考え方を変えよう」と頭で努力しがちです。

しかしVRでは、先に「身体の感覚」を変えることで、心の奥にある連想が少し動く可能性があります。

アインシュタインになる体験は、参加者に天才の頭脳を与えたわけではありません。

けれども、高齢者を見る目をほんの少し変えた可能性があります。

未来の職場研修では、講義を聞く代わりに、数分間だけ過去の偉人の身体を生きてみる時間が取り入れられるかもしれません。

参考文献

Becoming Einstein in virtual reality may help reduce age bias at work
https://sciencex.com/news/2026-07-einstein-virtual-reality-age-bias.html

元論文

Can avatar affective valence determine whether virtual reality embodiment reduces implicit workplace ageism?
https://doi.org/10.3389/fpsyg.2026.1868756

ライター

千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。

編集者

ナゾロジー 編集部

配信元: ナゾロジー

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