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セレソンが体感した恐怖、日本代表への敬意、試合の裏で行なわれた文化交流「ブラジル国民は日本の実力を高く評価し、拍手を送った」【W杯現地発コラム】

セレソンが体感した恐怖、日本代表への敬意、試合の裏で行なわれた文化交流「ブラジル国民は日本の実力を高く評価し、拍手を送った」【W杯現地発コラム】

米国ヒューストンで日本代表がブラジル代表に与えた恐怖から24時間、ブラジルの夜は、計り知れないほどの安堵に包まれている。

 サンパウロの、リオの、ブラジルのどの街角でも、人々はビール片手に日本戦のことを我先にと語っている。苦戦の末に手に入れた勝利は、単なる90分間の試合の記録をはるかに超える、数々のエピソードを残した。

 勝利の安堵から軽口ジョークも数多く飛び交うが、根底には日本代表へのリスペクトが感じられた。例えばSNS上では、日本の驚異的なスタミナを、誰もが大好きな日本アニメを持ち出し表現する。

「まるで『キャプテン翼』の世界から飛び出してきたようなチームだった。ブラジルの守備陣はとてつもない苦労を強いられた」

 また日本の「礼儀正しさ」に敬意を払いつつも、それをネタにする投稿も数多く見られた。

「日本サポーターが帰国したことで、スタンドのゴミを拾ってくれる人がいなくなってしまう。これからのW杯は間違いなく汚くなるだろう」

 日本のサポーターたちは悲しみに暮れていたにもかかわらず、ブラジル戦の後もいつもと変わらず、最後までスタンドを清掃。出口付近にゴミ袋をきちんと並べていった。これはブラジル人にとってはまさにSFのような光景だった。

「この日の真の敗者は、アメリカのスタジアム清掃員だ。日本サポーターがいなくなったら、彼らは再びハードな作業を強いられることになる」

  ブラジル代表の元名選手たちは、日本への敬意に満ちた言葉で試合について語る。例えばリバウドはブラジルの放送局『SBT』でこう言った。

「日本がブラジル戦で見せた走りとマークのキツさは、日本サッカーのレベルが極めて高いところにあることを証明している」

 そしてブラジルサポーターにこう呼びかけた。

「みんなはもっとこの勝利を喜んでいい。セレソンは想像以上に強いチームを下したんだから」

 2002年、横浜でブラジルが世界王者になった時のキャプテン、カフーは元SBならではの視点で試合を語る。

「ほぼ90分間、信じられないほどの精度でサイドを封じ込めた日本のDFたちには感銘を受けた。彼らの戦術的な規律はとても素晴らしかった」

 かつて柏レイソルでプレーした元ブラジル代表FWのミューレルは、GK鈴木彩艶とDF陣を称賛した。

「ブラジルが勝てたのは、2人の天才的選手の個人技のおかげということを忘れてはいけない。一方、日本の組織力には、あらゆる専門家が最高点を付けるだろう。サッカーを理解する者なら、それが分かるはずだ」

 ブラジルのテレビも日本撃破から1日経ったにもかかわらず、いまだ日本戦のことを語っている。日本の選手たちは、ブラジル代表を乗り越えようと全身全力で戦った。タイムアップの笛が鳴った後、ピッチ上で彼らが流した大量の涙こそが、それを証明していると解説者たちは言う。

「日本の文化では人前で感情を出すことを、あまり良しとしない。それでもあれほどの涙を流したのは、本当に悔しかったからだろう。帰国する前に彼らは感情を爆発させる必要があった」
  また、ブラジルの解説者たちは、日本の敗因は結局のところ日本に「マリーシア」が欠けていたからだと分析している。それは図らずもジーコが日本サッカー語るうえで何度も繰り返してきた言葉だ。

 後半終了間際、延長戦まであとわずかという時間にクリーンなプレーを続けた。あの時間帯、「マリーシア」を発揮してコーナーフラッグ付近でボールをキープし、戦術的なファウルを犯して時間を稼ぐべきだった。そうすれば、最後のボールをブラジルに献上してしまう事態は避けられたはずだ。

 ブラジルのマスコミは、常にスーツ姿でエレガントな森保一監督の品格ある振る舞いも大いに称賛していた。

 サンパウロの日刊紙『Folha de S.Paulo』は、「森保監督が手帳にメモを取る、あの有名な姿が見られなくなるのは寂しい」と報じた。また、ピッチの中央で全選手を集めて感謝の言葉を述べ、サポーターに向かって深くお辞儀をしたその仕草は、礼儀正しさとフェアプレーの手本だ」と伝えた。

 この品格は、日本のロッカールームでも見られた。選手たちはロッカールームを完璧に清掃し、ヒューストン市全体に向けた英語で書かれた感謝の手紙を残していった。

 日本と対戦したブラジルの選手たちも日本をリスペクトしていた。通常、ブラジルは勝利するとロッカールームで大音量の音楽をかけて祝うが、ヒューストンでの祝賀会はとても控え目なもので、大きな音楽はなかった。

 それは日本がこれまで培ってきたサッカーに対する敬意、そしてその日、彼らが見せたプレーに対する敬意の表われだった。

 また試合の裏では、あまり知られていない日本とブラジルの文化交流もあった。

 日本のスタッフは対戦相手のブラジル代表チームに美しい装飾が施された木製の箸と、日本の伝統菓子を贈ってくれたのだ。そこでブラジル代表の調理スタッフは、日本チームが帰国する前にと急遽、温かいポン・デ・ケージョ(もちもち食感が魅力のチーズパン)やブリガデイロ(伝統的なチョコレート菓子)などを作ってお返ししたのだ。

  試合前にあったFW塩貝健人のブラジル代表を軽視するような発言には、多くのブラジル人、そして選手自身も反応したのは皆も知るところだろう。あれは実際、ブラジル人の誇りを大いに傷つけた。

 だが、ブラジルのメディアの一部、例えばリオデジャネイロのラジオ局『Radio Tupi』は、若い塩貝がロッカールームで泣いていたというニュースも報じている。試合前の強気の発言が、結局はブラジル人の誇りを煽ってしまったと悟ったためだと説明した。

 塩貝の発言に対する論争もあったが、試合後、ブラジル国民は総じて日本の実力を高く評価し、拍手を送った。日本代表は規律正しく、戦術的に賢く、そしてスピードのある見事なサッカーを披露した。

 そしてそのプレーには、どこかブラジルらしい息遣いも感じられた。多くのブラジル人は実際にそう思った。それは、ブラジルと日本サッカーの長きにわたる絆の深さを物語っている。

「ジーコは日本人にサッカーを教えることを、もう少し控えるべきだったかもしれない」2002年W杯優勝メンバーのデニウソンは、『TV Globo』の番組で冗談交じりにこう語った。「日本は強くなりすぎた。おかげで散々苦しめられた。ジーコ、次はもう少し手加減してくれよ!」

 日本をよく知るアルシンドはここ数日、TVにひっぱりだこだ。日本のことを聞かれるたびに彼はこう繰り返している。

「(Jリーグでプレーした)我々は全力で献身的に、日本人を指導してきた。でも彼らがこれほど早く、これほどまでに強くなるとは想像もしていなかったよ」

文●リカルド・セティオン
翻訳●利根川晶子

【著者プロフィール】
リカルド・セティオン(Ricardo SETYON)/1963年8月29日生まれ、ブラジル・サンパウロ出身。ジャーナリストとして中東戦争やユーゴスラビア紛争などを現地取材した後、社会学としてサッカーを研究。スポーツジャーナリストに転身する。8か国語を操る語学力を駆使し、世界中の現場を取材。多数のメディアで活躍する。過去にはFIFAの広報担当を務め、1998年と2002年のW杯ではブラジル代表の広報スタッフとして活躍。ジーコやカフー、ドゥンガらとの親交も厚い。スポーツ運営学、心理学の教授として大学で教鞭も執っている。

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配信元: THE DIGEST

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