
在宅勤務は、通勤時間を減らし、仕事と家庭を両立しやすくする働き方として広がりました。
しかし、家が職場になることで、仕事と私生活の境界線があいまいになり、かえってストレスが増える人もいます。
では、その影響は一緒に暮らすパートナーとの関係にも及ぶのでしょうか。
英インペリアル・カレッジ・ビジネス・スクール(Imperial Business School)などの研究チームは、在宅勤務のもとで仕事と家庭の境界線が崩れると、カップルの孤独感や別れの検討につながりやすくなる条件を明らかにしました。
この研究成果は、2026年6月9日に学術誌『Journal of Organizational Behavior』に掲載されました。
目次
- 在宅勤務で問題になる「仕事と家庭の境界線」
- “2人とも分けたい”カップルほど在宅勤務で苦しくなる
在宅勤務で問題になる「仕事と家庭の境界線」
在宅勤務は、自由で便利な働き方に見えます。
しかし実際には、仕事の会議がリビングに入り込み、夕食中にも仕事の通知が鳴り、家にいるのに気持ちは仕事から離れられないことがあります。
今回、研究チームが注目したのは、カップルそれぞれが持つ「仕事と家庭をどれくらい分けたいか」という好みです。
たとえば、ある人は家では仕事の話をしたくないと考えます。
一方で別の人は、食事中に仕事の話をしても平気だと感じるかもしれません。
在宅勤務では、この違いが見えやすくなります。
調査は、ドイツの共働きカップルを対象にした2つの縦断研究として行われました。
研究1では、2020年のコロナ禍にミュンヘン在住の同居・異性愛・共働きカップル170組を約8週間追跡し、在宅勤務の多さや境界線の好みが、仕事が家庭生活を邪魔するストレスとどう関係するかを調べました。
研究2では、ドイツ全国の家族パネル調査を用い、同じく同居・異性愛・共働きカップル1561組を1年間追跡しました。
こちらでは主に、仕事が家庭生活に入り込むストレスが、孤独感や関係解消の検討とどう結びつくかが検証されています。
こうした研究の結果、在宅勤務が多い状況で、2人とも仕事と家庭を強く分けたいと考えるカップルほど、仕事が家庭生活を邪魔するストレスが高まりやすいことが示されました。
より詳細な結果は次項で見ていきます。
“2人とも分けたい”カップルほど在宅勤務で苦しくなる
まず重要なのは、「境界線の好みが合わないカップルは必ず危ない」とは言えなかった点です。
研究1では、好みの不一致そのものが平均的に仕事家庭葛藤を高めるという仮説は支持されませんでした。
さらに在宅勤務が多い場合、男性では好みの不一致が葛藤を高めた一方、女性では逆に葛藤を低めるという予想外の結果も見られました。
研究チームは可能性の一つとして、女性がパートナーの異なる境界管理のやり方を参考にしているのかもしれないと考察しています。
ただし、これは今回のデータから確定できる説明ではなく、今後の検証が必要です。
一方で、より一貫していたのは、2人とも「仕事と家庭はきっちり分けたい」と考えるカップルの結果です。
高い在宅勤務強度のもとでは、男女ともに、2人そろって分離志向が高いほど、仕事が家庭生活を邪魔するストレスが高まっていました。
これは一見すると意外です。
価値観が一致しているならうまくいきそうですが、在宅勤務では家そのものが仕事場になります。
そのため、2人とも「家に仕事を入れたくない」と強く思っていると、自宅に仕事用スペースを作ること、仕事の電話を家ですること、家庭時間に仕事が割り込むことが、より大きなストレスになりやすいのです。
そして、このストレスは孤独感と関係していました。
大規模な研究2では、本人の仕事家庭葛藤が本人の孤独感を高めるだけでなく、パートナーの孤独感にも小さいながら有意に関連していました。
さらに孤独感が高いほど、1年後に別居や離婚を真剣に提案する可能性も高まっていました。
もちろん、この研究は完全な実験ではないため、在宅勤務が直接破局を引き起こすと断定することはできません。
また対象はドイツのカップルであり、文化差やコロナ禍特有のストレスも考慮する必要があります。
それでもこの研究は、在宅勤務を「良いか悪いか」ではなく、「誰にとって、どんな条件でうまくいくのか」と考える必要があることを示しています。
在宅勤務で関係を守る鍵は、家で働く時間そのものよりも、2人で仕事と家庭の境界線をどう引くかにあるのかもしれません。
参考文献
Mismatched work–life boundaries while working from home can push couples toward breaking up
https://phys.org/news/2026-07-mismatched-worklife-boundaries-home-couples.html
元論文
Until Work From Home Do Us Apart? Couples’ Segmentation Preferences and Relationship Dissolution in the Era of Remote Work
https://doi.org/10.1002/job.70095
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部

