「AVOID SUZUKI(鈴木は避けること)」。
テレビの中継画面にそんな文字が浮かんだのは6月28日(現地)、日曜日の午後のことである。ミルウォーキー・ブルワーズの本拠地アメリカン・ファミリー・フィールドの記者席のモニター=地元ブルワーズの中継で解説者はこう語った。
「ブルワーズは敵地シカゴで3連勝し、投手陣はカブス打線を上手く抑えてきたが、どういうわけだか、この男にだけは痛い目に遭わされている」
無理もない。SUZUKI=鈴木誠也は、2日前の26日、ナショナル・リーグ中地区の首位攻防の初戦で、その日先発投手として歴代最高速となる105.5マイル=約169.8キロの速球を記録したジェイコブ・ミジオロウスキーから今季11号本塁打、続く第2戦でも2試合連続の12号を放っていたのである。
ミジオロウスキーは6回2安打1失点で降板し、今季9勝目(3敗)を挙げた。防御率は1.45となり、規定投球回に達した投手では、146奪三振、奪三振率13.27、WHIPの0.77などとともにMLB最高。今季のサイ・ヤング賞の最有力候補である。ところが鈴木に対してだけは、昨年の地区シリーズ第5戦で100マイル超の速球を右中間に叩き込まれるなど、計11打数4安打2本塁打2打点と打ち込まれている。
2回の第1打席、ブルワーズのバッテリーは慎重だった。初球に97マイル=約156キロのカッター、2球目は90マイル=約145キロのスライダーを配球するなどした後、最後は99マイル=159キロのカッターで、「天敵」を空振り三振に仕留めた。
「ピクっと反応したらもう、ボールが来ている感じなんで」
呆れたように言ったのは、その試合後の鈴木である。
以前、彼はスコアボードに表示される数字ほどには、体感速度が速く感じられないピッチャーがいると言っていたが、ミジオロウスキーの速球は紛れもなく、数字通りに「速い」という。
「(ネクストで)後ろで見ているだけでも速いんで、打席に立ったら、いろいろ考えてる余裕なんてない。今日は真っすぐの状態も良かったですし、あのスピードですし、変化球も良かったんで、なかなか簡単ではなかった」
5回の第2打席。初球カッターの後、今度は速球を4球続け、第1打席とは対照的に押してきた。ただし、4球目の速球は外角のボール球にも関わらず、タイミングが合った感じのファウルだった。2打席連続のフルカウント勝負となると、ピッチャーに残された選択はそう多くない。
外角低目のストライクゾーンに来たスライダーに、鈴木は迷うことなく、バットを振り切った。打球は奇しくも、去年のプレーオフでの一発を叩き込んだ付近=中堅フェンスを超えていった。
「まあ、とにかく積極的にゾーンに投げてくるピッチャーなので、しっかりと、どんどん振っていこうというか。球種を絞らずに、とにかく(ボールが)見えたら(バットを)振るっていう感じでいきました」
鈴木にとっては6月11日以来、メジャー通算98号本塁打。ミジオロウスキーにとっては、4月14日のブルージェイズ戦の6回、ドールトン・バーショにソロ本塁打を打たれて以来、実に76イニングぶりの被弾だったという(ちなみに同投手から2本以上の本塁打を打っているのは鈴木だけである)。
翌27日の本塁打は、ミジオロウスキーから放った一発とはまた違う印象の本塁打だった。その日のブルワーズ先発左腕カイル・ハリソンは、5月にシカゴで対戦した時には、7回2安打無失点と好投している。ミジオロウスキーほど球速はないが、真っすぐ=4シーム・ファストボールで空振りが奪える好投手だ。
1回の第1打席で左飛に打ち取られた鈴木は、4回1死一塁で迎えた第2打席、高めに投げられた97マイル=156キロ超えの速球を右翼席に叩き込んだ。
「振り遅れてあっち向いてホイ、みたいな形になりましたけど、いいんじゃないですかね。まあ、ああいう打球が切れずにあそこまで飛ぶっていうのはいいポイントで打てたってことなんで。ちょっと詰まってましたけど、押し込めたというか。いい芯詰まりっていうか。会心の当たりではないですけど、そっちの方が押し込んでる感覚はあるんで、それがあっち方向に出てくれるっていうのは、まあいいかなって思う」
ブルワーズ戦における2発でメジャー通算99本塁打とした鈴木は、続くパドレス3連戦の最終日(7月1日)、ウォーカー・ビューラーのスライダーを中堅スタンドに叩き込み、日本人4人目の通算100本塁打を記録した。
それは通算300本塁打を目前にしている現役の大谷翔平(ドジャース)、松井秀喜(175本塁打)、イチロー(117本塁打)に続く史上4人目の大台到達だった。
「特に100本打ったから、どうこうっていうのはないですけど」と鈴木は試合後、いつもの調子で切り出した。
「ここまで来るのは、楽な道じゃなかった。(日本とは)違う国に来て野球やるっていうのは、1年目からすごく大変なことだったけど、カブスのチームメイトだったり、カブスの関係者の方々が、家族とかのサポートもしっかりしてくれて、安心して野球ができる状況を作ってくれたっていうところが一番だと思う」
日本人の右打者としては史上初の快挙である。すでにシーズン(32本塁打)と通算本塁打で、城島健司や井口資仁といった右打者の記録を塗り替えていた彼にとってはまた一つ、若い世代の野球選手へのメッセージとなっている。
「もう、どう見てもやっぱり、右打者が難しくなってきているのは明らかなんで、その中でしっかり結果出していかないと、日本人の右打者の評価が下がっていくと思う。今、日本人だと僕と(ブルージェイズの岡本)和真の2人だけで、やっぱり僕らがしっかり頑張らないと次がない。そういう意味では、100本塁打っていうのは良い記録でもありますし、自分がそういうことをやれば、僕も行けるって思う選手もいると思うんで、後についてきてもらえればいいのになっていう風に思いますね」
普段から、「あんまり目立ちたくない」とプロ野球選手らしからぬことを言う鈴木が、実はカブスのチームカラーには、とてもフィットしている。チームの随一の古顔であるイアン・ハップ左翼手や、今季からFA加入したアレックス・ブレグマン三塁手、昨季チーム最多の34本塁打を記録したマイケル・ブッシュ一塁手や、守備の達人ニコ・ホーナー二塁手ら、物静かな選手ばかりだ。攻守に渡って感情的なプレーで目立っている「PCA」こと、ピート・クロウ・アームストロング中堅手ですら、普段は大人しく、派手な立ち振る舞いをすることはない。
広島時代からよく知られる鈴木の「変顔」や、おちゃらけた言動がシカゴの地元メディアで話題になるのは、カブスが驚くほど真面目なエリート集団だからだろう。考えてみれば、今永昇太(著者注:彼については近々、別枠で取り上げたいと思う)の言動が地元メディアで散々取り上げられているように、投手陣も真面目で寡黙な仕事人が多く、それゆえに敗戦後は皆で一斉にガッカリするし、連敗が長引けば、お通夜のような雰囲気が充満してしまう。兎にも角にも、試合に勝つことでしか、元気が出ない集団なのである。
だから、打撃タイトルを狙っているわけでもないのに、鈴木の打撃の調子がそのまま、チームの成績に反映されてしまうのかも知れない。
鈴木が負傷者リストから復帰し、自身の開幕を迎えたのは4月10日のこと。その後の約一ヶ月は打率3割&OPS9割台を維持しており、チームも27勝13敗でナ・リーグ中地区の首位だった。ところが、5月10日から6月9日までの約1ヵ月間で鈴木は打率.192&OPS.518と極端な不振に陥った。チームもその間、7勝21敗と目も当てられないような状況で、地区4位にまで転落してしまったのだ。
鈴木とカブスが再び上昇し始めたのは6月12日、敵地サンフランシスコでのジャイアンツ戦以降のことだ。
鈴木が16試合で打率.359&OPS.1.044、3本塁打16打点13得点と調子を上げる間、チームも4シリーズ連続で勝ち越し中である(ブルージェイズとのシリーズは1勝1敗で3試合目が雨天中止となった)。
もしかしたら、鈴木誠也は「カブスの魂」なのかもしれない。 クレイグ・カウンセル監督が「ひと振りで試合の流れを変えられる」と言ったように、前出のホーナーが以前、「野球をやってる者なら、彼の打撃練習を見ただけで他とは違うと分かる」と言ったように、粛々と自分の仕事をやり抜くことで、チーム全体に好影響を与えるような存在なのかもしれない
MLB通算100号本塁打を達成した日、彼はこう言った。
「なんとか毎日、向上心を持ってやれたっていうのが、一番なのかなっていう風に思う。地道に一日一日しっかり頑張って、少しずつっていう風には思います」
10連勝したかと思えば、10連敗してしまう両極端な今季のカブス。現在、ナ・リーグ中地区2位の物静かな真面目軍団。チームを引っ張っているのは、さらに寡黙な日本人なのだと実感する日々だ。
文●ナガオ勝司
【著者プロフィール】
シカゴ郊外在住のフリーランスライター。'97年に渡米し、アイオワ州のマイナーリーグ球団で取材活動を始め、ロードアイランド州に転居した'01年からはメジャーリーグが主な取材現場になるも、リトルリーグや女子サッカー、F1GPやフェンシングなど多岐に渡る。'08年より全米野球記者協会会員となり、現在は米野球殿堂の投票資格を有する。日米で職歴多数。私見ツイッター@KATNGO

