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A24ホラーの新たな到達点 『ブリング・ハー・バック』が突きつける、劇場映画だからこその“逃げられない痛み”

A24ホラーの新たな到達点 『ブリング・ハー・バック』が突きつける、劇場映画だからこその“逃げられない痛み”

A24が世に放ったホラーの新たな金字塔『ブリング・ハー・バック』。『TALK TO ME』のフィリッポウ兄弟が手がけた最新作は、降霊・きょうだい・歪んだ親子愛という共通テーマを携えながら、前作をも凌ぐ容赦ない《痛み》の描写で観客を逃さない。サリー・ホーキンスの怪演、グリム童話的恐怖の構造、そして劇場映画だからこそ成立する暴力表現の真意とは? 7月10日 (金) の公開に向け、その魅力と覚悟を徹底解説する。

2012年に設立され、10年強で世界的映画ブランドへと成長したA24。その興行収入トップ10をご存じだろうか。2026年6月末現在の順位は以下の通り。

1.『バックルームズ』(2026)

2.『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』(2026)

3.『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』(2022)

4.『ドラマなふたり』(2006)

5.『シビル・ウォー アメリカ最後の日』(2024)

6.『マテリアリスト 結婚の条件』(2026)

7.『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』(2023)

8.『ヘレディタリー/継承』(2018)

9.『レディ・バード』(2017/US公開)

10.『ムーンライト』(2016/US公開)

スポーツ、恋愛、コメディ、社会派サスペンスほかジャンルを問わずにエッジーな切り口で成果を出していることがよくわかるが、その中でも5月に封切られるや史上最高のヒットを記録し、いまなお数字を伸ばし続けている『Backrooms』を筆頭に、ホラーが3本を占めている。A24印の人気監督アリ・アスターの長編デビュー作『ヘレディタリー』、そして双子YouTuberであるフィリッポウ兄弟による『TALK TO ME』だ。こちらは2023年のサンダンス映画祭で話題を呼んだオーストラリア産ホラーであり、A24が米国配給権を勝ち取った。『バックルームズ』に抜かれるまでは《A24のホラー王者》として君臨していたわけだ。同社は新進気鋭のクリエイターを発掘し、継続的に組むスタイルで知られている。『TALK TO ME』を機にフィリッポウ兄弟とも蜜月関係が築かれ、次作も手がけることとなった。それが日本で7月10日に劇場公開を迎えるホラー『ブリング・ハー・バック』だ。若者たちが降霊術に興じた結果、大変な目に遭う『TALK TO ME』に続き、今回も「降霊」「きょうだい」「歪んだ親子の愛」といった要素が探求されている。

父親を亡くしたアンディ (ビリー・バラット) と⽬の不⾃由なパイパー (ソラ・ウォン) の兄妹。途方に暮れていた2人は、⾥親を買って出た親切な女性ローラ (サリー・ホーキンス) のもとに引き取られることに。ローラと同居する⾔葉を話さない少年オリヴァー (ジョナ・レン・フィリップス) に戸惑いつつも新生活が始まるが、兄妹は徐々に異変に気づき――。

『TALK TO ME』は設定や演出こそ今風のものだったが、その骨格やテーマは普遍的でクラシックな、実に映画らしいものだった。そして『ブリング・ハー・バック』は、YouTuber出身という色眼鏡で見られがちな彼らがさらに「映画監督」としての自身を探求したような――「硬派」な香りが漂う作品となっている。少なくとも物語展開においては奇抜さは感じられず、あえて王道を選択する覚悟がみなぎっている。序盤から察しがつくように、亡くなった娘を蘇らそうとする母親の狂気がエスカレートするさまがビビッドに描かれていくのだ。我が子の喪失と代替を求めるという意味では『ペット・セメタリー』から、近作では『LAMB/ラム』『アンデッド/愛しき者の不在』『近畿地方のある場所について』に至るまで描かれ続けてきたテーマであり、すんなりと受け入れられるものだろう。ホラーではないが、直近では『ハムネット』のジェシー・バックリーが我が子を失う痛みを全身全霊で体現し、アカデミー賞主演女優賞に輝いたばかり。

そして継母がヤバい人だった案件といえば、グリム童話「ヘンゼルとグレーテル」や「白雪姫」「シンデレラ」等々、枚挙にいとまがない。もちろん“ヤバさ”の方向性は異なるものの、孤立無援の子どもたちが圧倒的逆境をどう打開してゆくかという点においては『ブリング・ハー・バック』も共通し、兄妹という構造的にも「ヘンゼルとグレーテル」を想起する方も多いだろう。本作においては妹が目が不自由=見えない恐怖という要素が加わっているが、往年のスリラー『暗くなるまで待って』然り、これもまた“家”と組み合わさることで効果を発揮するものだ。さらに、明らかに何かがおかしい物言わぬ少年といえば、胸糞映画として名高い『胸騒ぎ』味も感じられる。

このように、観客がこれまで通ってきた映画を思い出すような愛ある目配せが随所に感じられる『ブリング・ハー・バック』。その最たる例が、『シェイプ・オブ・ウォーター』や『ブルージャスミン』『パディントン』シリーズで知られる名優サリー・ホーキンスの起用だろう。主人公を追い詰める側の演技が恐ろしく、狂的な怪演であるほど面白いのは『ミザリー』や『シャイニング』『羊たちの沈黙』『IT』シリーズ、本年度のアカデミー賞で助演女優賞を獲得した『WEAPONS/ウェポンズ』等々、いわば鉄板。サリー・ホーキンスの演技には破滅的な危うさがあり、パワフルな怖さとは真逆のひりつくようなもの。特殊能力を持っているわけでも腕力で支配してくるわけでもないが、狂信者的な「善悪や倫理、道徳といったボーダーを越えてしまっているがゆえに何をしてくるかわからない」ヤバさが充満している。きっと元々は普通の善き母だったのだろうと感じさせるヴィランとして未完成な部分や、突発的な行動に出てしまう拙さと用意周到な老獪さが混在するちぐはぐさが妙に生々しく、強烈なインパクトを刻み付ける。映画単体としても機能しているが、映画好きにとってはまた別のレイヤーで楽しめること請け合いだ。

古今東西のホラー/スリラー映画の髄を集めた一作ともいえる『ブリング・ハー・バック』。では逆に、本作のオリジナリティはどこにあるのだろう? 個人的な感覚だが、それは容赦ない《痛み》の描写にある。映画IQの高さがあふれたエレガントなつくりの本作だが、暴力性においてはとにかく直接的。あえて詳細を映さず、観客の想像に任せるアプローチを行うことなく、あっけらかんと過激な描写を真正面から映し出す。思えば前作『TALK TO ME』も、霊障を負った弟の肉体が損壊していくさまが極めて強烈だったが、本作ではその上を行く。例えばオリヴァーが包丁を口に入れ、ズタズタになりながらも噛み続けるシーンは耐性がない観客には正直、目を背けたくなるトラウマ級のもの。撮影では当然作り物を使用したが、なんと監督が実際にナイフを噛んで音響デザインを行ったという気合の入りよう。これは間違いなくフィリッポウ兄弟が自分たちの「味」として意識的にエスカレートさせたものだろう。正直、あまりにも苛烈なため、初鑑賞時はしっかりおののきながらも「なぜ、そこまでするのか? 」という疑問が筆者の脳裏に浮かんだのも事実。日本ではR15+指定だが、それがぬるく思えるほど身体の節々に残痛を与える作品であることは間違いなく、攻めすぎの部分をどう捉えるかは人によって真っ二つに分かれることだろう。ただ、僕は観賞後に自分なりに思考し、一つの考えに至った。これもまた、劇場映画というメディアの特性なのだと。

日本でも封切からほどなく興収1億円のヒットを記録している『シラート』も、方向性こそ違えど直接的に“死”を映し出す作品だ。そして「ネタバレの出来なさ」「音響の異常さ」といった武器を持っており、いずれも「劇場映画」に特化した特徴に思える。そして『ブリング・ハー・バック』は、視聴制限こそ付くものの「BANされない」部分に勝機を見出したように感じられる。YouTubeで闘ってきたフィリッポウ兄弟のことだ、SNSも含めたネット上は無法地帯のように見えて、特に近年は検閲も厳しくなっており、何をすれば削除/閲覧不可になるかを熟知しているはず。対して映画は、もちろんコンプライアンスの順守や様々なプロセスを経たうえで上映されるものではあれど、いざ始まってしまえば制作者の自由度は保証されている。目をつぶり耳をふさぎ、或いは席を立つなどのアクションを起こさない限り、観客は真っ暗な密室から逃げられない。映画を愛し深く理解すればこそ、その優位性をフル活用した慧眼――やはりこの2人、ただものではない。

文 / SYO

作品情報 映画『ブリング・ハー・バック』

父親を亡くしたアンディと目の不自由なパイパーの兄妹は、とても親切な里親ローラの元で暮らし始めることになる。そこには言葉を話さない男の子オリヴァーが一緒に住んでいた。ローラの異様なまでの愛情にアンディは違和感を覚えながらも新たな生活を始める。次々起きる不穏な出来事、点在する謎の円のモチーフ、そしてオリヴァーの存在。それらが全て繋がった時、隠されていたローラの“恐るべき願い”が明かされる。

監督:ダニー・フィリッポウ & マイケル・フィリッポウ

出演:ビリー・バラット、ソラ・ウォン、サリー・ホーキンス、ジョナ・レン・フィリップス ほか

配給:ハピネットファントム・スタジオ

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2026年7月10日(金) 新宿ピカデリーほか全国公開

公式サイト bhb

配信元: otocoto

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