
森保Jでビッグクラブ行き“最有力”は? W杯で評価急上昇か…23歳守護神は成長もキャリアも、この先は光に満ちている【分析コラム】
ワールドカップ優勝を目ざした日本代表の挑戦は、ラウンド32で幕を閉じた。
今大会は低評価を受けつつも、対峙すれば圧倒的な力を見せつけたブラジル代表。あのメンバーに割って入るほどの選手が、日本代表に何人いたのか。違う見方をすれば、CL常連の5大リーグ・ビッグクラブのレギュラー格を、日本は何人抱えることができたのか。
かなり近い位置に迫った選手もいるが、実際、今回のW杯ではゼロに等しかった。次の4年間で期待される最大のミッションは、選手個人のビッグクラブでの活躍だ。北中米W杯のパフォーマンスを受けて、世界から評価され、この階段の先頭を駆け上がりそうな選手は誰か?
その筆頭候補は、鈴木彩艶だろう。ブラジルに限らず対戦相手はワールドクラスの選手ばかりで、ゴールポスト際を正確にねらったハイクオリティなシュートが多かった。それに対し、彩艶は無駄のない予備動作から、ボールに対して滑らかに、軽やかに、身体と手を伸ばし、美しいセービングを何度も披露した。
オランダ戦とブラジル戦では2失点したが、これはフィニッシュを褒めるしかない。それ以上に日本の大ピンチを防いだシーンが多く、彩艶だからこそ2失点で済んだとも言える。
ただ唯一、スウェーデン戦の失点だけは、エランガのシュートに対して谷口彰悟とお見合いのようになり、反応が遅れた。中村敬斗のソックス問題でチームがバタバタしていた時間帯だけに、GKとしては声や存在感でチームを落ち着かせるなど、セービング以外でも貢献できることがあったかもしれない。とはいえ、セービングは全般的にすばらしかった。
ほかに目についたのは、ビルドアップへの貢献だ。相手ブロックの外側でCBやSBにつなぐパスだけではなく、相手FWの間を抜いてブロック内へ差し込むパスも、FIFAの『POST MATCH SUMMARY REPORT』によれば、4試合で計10本通した。リスクを負う選択肢だが、GKがこのパスを通せると、プレス回避はかなり楽になる。
また、ショートパスだけでなく、ロングパスも興味深い。FIFAの技術研究グループ『TSG』の分析によると、今大会のグループステージの特徴として、ゴールキックをGKが蹴ったケースはわずか52%だった。2018年大会では100%、2022年大会も92%と、GKが当たり前のように蹴ってきたゴールキックだが、今大会では様変わりしたことが指摘されている。
その具体例として、『TSG』はベルギーのクルトワ、イングランドのピックフォードとともに、日本の彩艶を紹介している。ゴールキックはCBが短くパスを出し、GKを含めて数的優位を作って相手のプレスを誘い込み、スペースが空いた前線へロングパスを入れる。この戦術はGKによるロングフィードの距離と精度が重要だが、彩艶は紹介された2選手と同じく、それを満たすキック力を有していた。
ただし、成功率はもう少し高めたいところだ。データ上、オランダ戦では敵陣へのロングパスは8本中1本も成功せず、チュニジア戦は4本中2本、スウェーデン戦は12本中2本、ブラジル戦は13本中5本が成功した。あまり高い成功率とは言えない。
また、ブラジル戦は数字上は成功率が高く感じられるが、この頃には日本の戦術が分析されたためか、彩艶からのロングフィードを上田綺世が収めた瞬間、カゼミーロらに挟まれ、ボールを失う場面が目についた。実質、これは成功とは言えない。上田に対するシャドーやウィングハーフのサポート、連系は改善しなければならない。いずれにせよ、彩艶のロングフィードが一つの戦術兵器になったのは確かだった。
さらにもう一つ、クロス対応にも言及したい。
チュニジア戦では9本のクロスに対し、彩艶はパンチングやキャッチングなどで3本を未然に防いだ。スウェーデン戦では16本中4本に対応。ブラジル戦では30本中6本に対応している。
一方、オランダ戦では23本のクロスに対し、彩艶が防いだのは0本だった。これはオランダの戦術として、ポケット(ペナルティエリアの両端)を攻める傾向が強いため、最後のクロスがグラウンダーかつ、真横やマイナス方向への折り返しが多くなり、味方DFに対応を任せる場面が多くなったためだろう。
また、クロス対応の内訳も興味深い。スウェーデン戦は4本対応した場面のうち、パンチングが3本と多かった一方で、ブラジル戦は6回対応のうち5回でキャッチに行っている。スウェーデンはインスイング(GKへ向かって曲がる軌道)のクロスが多く、さらに中央では彩艶のプレーを邪魔するように相手選手が寄ってきたので、事故による失点を防ぐため、自然とパンチングが増えたと見える。
逆にブラジルはクロスに対して背後を取るような合わせ方が多かったので、その手前でキャッチすることで、防戦一方の中でも味方に息継ぎの時間をプレゼントしていた。クロスなど空中戦に関して、彩艶が大きなミスをした印象はないので、オランダ、スウェーデン、ブラジルと、相手の攻め方に応じて的確に判断し、対応したと言える。
一方で、今後の伸びしろに注文を付けるとすれば、自身が関与できるシーン自体をもっと増やすことだろう。
ゴールエリア内へのクロスに関し、彩艶はほぼ完璧に対応した。しかし、ブラジル戦の54分、ラヤンのクロスが頭上を横切り、逆サイドのゴールエリア角へ届いた場面ではボールに向かい切れず、やや中途半端にゴール枠から離れた状態でドグラス・サントスの折り返しを受けてしまった。最後にカゼミーロが至近距離でヘディングシュートを放ち、冨安健洋らがゴールライン上で必死にかき出した場面だ。
ブラジルのクロスは徹底して逆サイドのゴールエリア角を狙っていた。その2分後、マガリャンイスのクロスはやはり同様の箇所へ飛来し、最後はカゼミーロのヘディングが突き刺さっている。普通のGKにこんな期待を抱くことはないが、彩艶なら読みを加えて立ち位置を一歩ファーサイドへ移しつつ、自ら対応に行くことが出来たかもしれない。
特にラヤンのクロスに関しては、インスイングかつ味方の寄せも効いていたので、対応できた可能性はある。あるいは、その場面でドグラス・サントスをフリーにした堂安律、さらに同様のターゲットに晒される中村敬斗らに、川島永嗣ばりの怒声でアラートを促し、56分の危機に備えることも可能だった。
4試合を堅実に、好判断でプレーした彩艶。間違いなく90点以上をつけられる日本随一のパフォーマンスだった。だが、上積みとして100点に近付けるためには、味方との連系を含め、より積極的に関与できるシーンを増やすことが鍵を握る。
まだ23歳だ。成長もキャリアも、この先は光に満ちている。GKは移籍が難しいポジションとはいえ、現役の先は長いので、キャリアアップの移籍は少なくとも2回は可能だろう。
何より緊張高まるW杯で、彩艶があれほど落ち着いたパフォーマンスを見せたこと。それはGKにとって何より重要な要素であり、かつ数字で分析しづらいメンタリティーを宿すことを証明している。彼は今後、ビッグクラブの獲得候補に加わっていくに違いない。
文●清水英斗(サッカーライター)
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