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深刻なスランプを抜け出してウインブルドン16強の快挙!家族の愛と相性のいい芝が呼び覚ました望月慎太郎の才能<SMASH>

深刻なスランプを抜け出してウインブルドン16強の快挙!家族の愛と相性のいい芝が呼び覚ました望月慎太郎の才能<SMASH>

ベースラインのやや後方から、バックの逆クロスを放つと、迷いなくネットに向かって駆けていく。

 ネットを挟むラファエル・ホダル(スペイン/世界ランキング26位)は、そのスピードに焦りを覚えただろうか。やや甘く浮いたホダルの返球を、望月慎太郎(同151位)はネット際で柔らかく、だが鋭く、バックハンドのボレーで刺す。必死に伸ばすホダルのラケットの先をボールが抜けるのを見届けると、彼はその場にヒザをつき、ゆっくりと前に倒れこんだ。

 試合が行われたウインブルドンの18番コートは、レンガ造りの選手ラウンジやメディアオフィスに囲まれた、劇場のような独特の空間である。その建造物のテラスや屋上から拍手を送る関係者の中には、大坂なおみの姿もあった。

 グランドスラム(テニス四大大会)の中でも最古の歴史を誇り、世界で最も有名な大会でもあるウインブルドン選手権。その3回戦で望月は、世界26位のホダルを1-6、7-6(5)、 6-4、6-4で破り、初のグランドスラム16強進出を果たした。

「予選で勝てるとも、あまり思っていなかった」

 今からわずか1週間前――。予選3試合を勝ち上がり、ウインブルドン本戦の切符をもぎ取った望月は、篤実な口調でそう言った。

 そう思うのも、無理からぬことである。今季の望月は今大会を迎えるまで、国別対抗戦も含め6勝20敗の苦しいシーズンを送っていた。

「試合をするのが怖かった。今大会に出ずに、帰国するという選択肢もあった」

 そこまで思い詰めるほどに、深刻なスランプだったという。

 転機は、何だったのか?
  その問いに対する、単純明快な答えはないだろう。

ただ芝のコートとの相性の良さは、間違いなく大きな要因だ。ウインブルドン予選の前週に出たノッティンガムのチャレンジャー(下部大会)では、2つの勝ち星を得る。

「ノッティンガムで3試合できたのは良かった」と、予選時に望月は言っていた。

 もう一つは、家族のサポート。予選開幕直前に母親と兄が駆けつけ、会場近くに家を借りて滞在しているのだ。望月は母親の手料理を毎晩のように食べ、試合中にも手作りのおにぎりを口にする。

「食事も大切ですが、リラックスした時間を過ごせているのがすごく大きい」と、望月家の末っ子は、少し恥ずかしそうに顔をほころばせた。

 10代半ばの頃から身体を診てくれているトレーナー/治療家の松栄勲氏も、今大会では会場入り。連戦で疲労した身体をケアしてくれる。

 芝との相性、家族のサポート、そして心身の安心感。それら複数の要素が噛み合った時、望月はこれまでにも覚醒的な強さを見せてきた。例えば7年前のウインブルドン・ジュニア部門優勝。あるいは2023年の、ジャパンオープンベスト4。そして今回のウインブルドン・ベスト16進出もそうだ。
  3回戦で対戦したホダルは、近い未来のスターと目される19歳。長身から打ち下ろすサービスや強打を引っ提げて、先の全仏オープンではベスト8入りを果たした。

 今回の望月戦でも、ホダルはそれらの武器を見せつける。特に望月のセカンドサーブを、ことごとく叩きつけポイントにつなげた。

 パワーテニスの体現者である19歳が、身長175センチの小柄なテクニシャンの技を粉砕する――。そのようなシナリオが描かれるかに見えた第1セット。ただ望月は、「リターンの感触は良い」と感じていたという。

 問題はサービスゲームのキープだ。そこで「セカンドサービスは、なるべくボディ(体の正面)に打つようにした」。さらに望月は、ホダルがフォアサイドの低いボールを苦にしていると見抜く。

「フォアのクロスの打ち合いでは、嫌な感じはなかった」と、後に望月は振り返った。フォアのクロスからストレートに展開し、前に出てネットで仕留めるポイントパターンが増えていく。第2セットの中盤あたりから、望月の変幻自在なプレーの数々に、ホダルが翻弄される局面が目に見えて増えていった。
  台頭著しいホダルではあるが、スペインの赤土育ちの彼には、芝でのプレー経験が圧倒的に少ない。加えて望月のようなクラシカルなスタイルとは、対戦したこともなかっただろう。低いボールの処理に戸惑い、望月のネットプレーの網に掛かる。

 象徴的だったのが、第2セットのラストポイント。望月の浅いボレーを警戒し前にポジションを取るが、その裏をかくように、望月は深いボレーをコーナーぎりぎりに決めた。沸き上がる大歓声をさらに掻き立てるように、望月は耳に手を当て拳を振り上げる。この時、望月は観客の心を完全につかみ、以降は勝利へ向かって加速していった。

 日本人男子選手のウインブルドン3回戦突破は、1968年のオープン化以降では松岡修造氏と錦織圭に次ぐ3人目。なお2人の先達は、ベスト8入りも成し遂げている。

 果たして望月は、偉大な先駆者の記録に並ぶことができるか? その前に立ちはだかるのは、昨年の優勝者にして世界1位の、ヤニック・シナー(イタリア)だ。

現地取材・文●内田暁

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配信元: THE DIGEST

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